ファクタリング

公開日:2024.12.06

更新日:2026.07.21

ファクタリング契約書のチェック項目|対抗要件・債権譲渡登記まで専門家が解説

監修者三坂 大作

ファクタリングは売掛債権を早期に資金化できる便利な手段ですが、その本質は「債権譲渡取引」であり、契約書には融資とは異なる独自の確認ポイントが数多く存在します。契約内容を十分に理解しないまま署名してしまうと、知らないうちに不利な条件を負わされたり、悪質業者による偽装ファクタリングに巻き込まれたりする危険があります。

本記事では、ファクタリング契約書で必ず確認すべきチェック項目を体系的に整理したうえで、実務上つまずきやすい「債権譲渡の対抗要件」と「通知・登記の留保」という論点、債権譲渡登記の手続き・費用、そして契約書から悪質業者を見抜く方法までを一つの記事で網羅的に解説します。契約前・契約中・契約後のそれぞれの段階でやるべきことを押さえ、ファクタリングを安全に活用できるようにしましょう。

※ファクタリングの基礎から知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
『ファクタリングの仕組みとは?メリット・デメリットや利用の流れを解説』

CONTENTS

ファクタリング契約書の全体像と種類

ファクタリングの契約書は、取引形態によって構成や必要書類が異なります。まずは自社が締結しようとしている契約がどの種類にあたるのか、その全体像を把握しましょう。

基本的な契約書の構成要素

一般的なファクタリング契約書は、以下のような項目で構成されています。

  • 契約当事者の情報(会社名、住所、代表者名など)
  • 契約の目的と対象となる債権の特定
  • 譲渡する債権の金額と支払条件
  • 手数料や諸費用の計算方法と支払い条件
  • 債権譲渡の通知・登記に関する定め
  • 償還請求権(買戻し)の有無
  • 報告義務、損害賠償・違約金に関する定め
  • 契約期間と解除条件
  • 守秘義務条項・紛争解決方法

これらの要素が明確に記載されていない契約書は、後々トラブルの原因になりやすいものです。まずは必要な要素が漏れなく記載されているかを確認することが、安全な取引の第一歩となります。

ファクタリング契約書の条項構成(ひな形の骨子)

実際の債権譲渡契約書(ファクタリング契約書)は、一般的に次のような条項で構成されます。条項の名前と並び順を知っておくと、契約書を渡されたときに「どこに何が書いてあるか」を素早く把握でき、抜けている条項にも気づきやすくなります。

条項名(例) 定められる主な内容
第1条(目的・債権の譲渡) 本契約が売掛債権の譲渡(売買)であること、譲渡の合意
第2条(譲渡対象債権) 債権者・債務者・債権額・発生原因・支払期日など債権の特定
第3条(譲渡代金・支払方法) 買取金額、手数料、諸費用、入金の時期と方法
第4条(債権譲渡の通知・登記) 売掛先への通知の有無、債権譲渡登記の要否と費用負担
第5条(表明保証) 債権が実在し二重譲渡がないこと等の利用企業による保証
第6条(償還請求権) ノンリコース(償還請求権なし)である旨の確認
第7条(回収・送金/業務委託) 2社間の場合の回収業務委託、送金期限、送金方法
第8条(報告義務) 売掛先の状況等の報告義務とその範囲
第9条(損害賠償・違約金) 契約違反時の損害賠償・違約金の内容
第10条(契約解除) 解除事由、解除の手続き、解除時の清算
第11条(秘密保持) 秘密情報の範囲、開示条件、存続期間
第12条(合意管轄・準拠法) 紛争時の管轄裁判所、準拠法

条項の番号や名称は業者によって異なりますが、盛り込まれる内容はおおむね共通しています。読むときのコツは、「償還請求権」「表明保証」「損害賠償」「回収・送金」の4条項をひとまとまりで確認することです。これらは相互に関連しており、たとえば「第6条で償還請求権なしと書きながら、第5条の表明保証違反や第9条の損害賠償で実質的に買戻しを求める」といった組み合わせが、実質リコースの典型だからです(詳しくは後述の「悪質業者の見抜き方」で解説します)。条項単体ではなく、関連する条項をつなげて読むことが、契約書チェックの実務的なポイントです。

2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの違い

ファクタリングには、主に2社間と3社間の形態があり、それぞれで契約書の内容が大きく異なります。

契約形態 取引の特徴 契約書の特徴
2社間
ファクタリング
売掛先に通知せず、利用企業とファクタリング会社の2者で取引が完結する。売掛金の回収は利用企業が引き続き行い、回収した資金をファクタリング会社へ送金する 債権譲渡契約書に加え、回収業務を委託する業務委託(回収委託)契約書が必要。対抗要件確保のため債権譲渡登記を伴うことが多い
3社間
ファクタリング
売掛先にも債権譲渡を通知・承諾を得たうえで取引し、支払いは売掛先からファクタリング会社へ直接行われる 債権譲渡通知書(または承諾書)が必須で、三者の権利義務関係が明確に規定される。登記は原則不要

2社間ファクタリングでは、債権譲渡後も利用企業が売掛金の回収業務を担うため、業務委託契約書の内容も重要になります。一方、3社間ファクタリングでは、債権譲渡通知の方法や売掛先への対応が契約書で明確に規定されているかを確認する必要があります。手数料の相場も異なり、一般に2社間は高め、3社間は低めに設定される傾向があります(詳しくは後述します)。

元銀行員の視点|「売掛先の性質」で2社間か3社間かを決める

2社間と3社間は、単に手数料の高い・安いで選ぶものではありません。銀行が取引先の資金調達を見るときの発想で言えば、判断の軸は売掛先が官公庁・上場企業などの大手か、中小の民間企業かです。売掛先が上場企業や大企業であれば、債権譲渡通知が来ても取引を切られるリスクは実際には低く、そもそも債権譲渡を想定した契約実務に慣れているケースも多いため、手数料の安い3社間を選びやすくなります。逆に、売掛先が中小の民間企業で「資金繰りに困っているのか」と勘繰られたくない場合は、手数料が高くても2社間で通知を避ける合理性があります。

ただし注意したいのが、売掛先が官公庁(国・自治体)の場合です。官公庁向けの債権は信用力こそ最高水準ですが、契約で債権譲渡そのものが制限されていることが多く、3社間で通知しても承諾が得られない、あるいは所定の手続きを踏まないと譲渡できないことがあります。信用力が高いから3社間が有利、と単純に決めつけず、その債権が譲渡できる債権かどうかを契約書の譲渡制限条項で先に確かめるのが実務の順序です。手数料差だけを見て安い3社間に飛びつくと、取引先との関係を損なったり、そもそも譲渡できずに手続きが止まったりすることもある——コストと信用リスク、譲渡可否の三つをにらんで選ぶのが勘所です。

2社間で必要になる業務委託(回収委託)契約書

2社間ファクタリングでは、債権譲渡契約書とあわせて業務委託契約書(回収委託契約書)を締結します。売掛先に通知しない以上、売掛金の回収は利用企業が行い、回収した資金をファクタリング会社へ送金する流れになるため、その責任範囲を明確にする契約が欠かせません。

業務委託契約書には、一般に次のような内容が含まれます。

  • 委託される回収業務の具体的な内容と範囲
  • 回収した資金の送金方法と送金期限(通常は入金確認後すみやかに送金)
  • 回収業務に関する報告義務
  • 売掛金が回収できなかった場合の責任の所在
  • 業務委託料の有無と計算方法

特に、回収した売掛金の送金期限は重要です。入金確認後すぐに送金するよう定められているのが一般的ですが、これが不当に遅い、あるいは曖昧な場合は注意が必要です。また、この業務委託契約に保証人設定が紛れ込んでいるケースは悪質業者の典型的な手口であるため、後述の「悪質業者の見抜き方」とあわせて確認してください。

※契約時に準備する必要書類について詳しくはこちらをご覧ください。
『ファクタリングに必要な書類は?請求書のみ、決算書なしでも利用可能?』

ファクタリング契約書で必ず確認すべきチェック項目

ここからは、ファクタリング契約書で必ず確認しておくべき項目を一つずつ解説します。これらを丁寧にチェックすることで、不利な条件での契約や、後のトラブルを避けることができます。

1. 債権譲渡取引であることが明記されているか

ファクタリングは、売掛金という債権を譲渡・売却する取引です。したがって、契約書の中心となるのは債権譲渡契約書であり、この取引が債権譲渡であると明記した条項が必要です。契約書の名目が間違いなく債権譲渡契約であること、取引の実質が「売買(譲渡)」であることをまず確認しましょう。名目上はファクタリングでも、条項をよく読むと実質的に貸付けとなっている偽装ファクタリングも存在するため、この点は特に重要です。

※ファクタリングと債権譲渡の違い、請求書買取との関係について詳しくはこちらもご覧ください。
『ファクタリングと債権譲渡の違いは?活用目的の違いやそれぞれのメリット・注意点を解説』『請求書買取で資金調達!仕組みとリスクを徹底解説』

2. 譲渡する売掛金が正しく特定されているか

債権譲渡契約では、譲渡する債権を特定する必要があります。売掛金の特定は、債権者・債務者・債権内容によって行います。たとえば、以下のような情報があれば特定が可能です。

  • 債権者:自社
  • 債務者:売掛先A社
  • 債権内容(始期):令和〇年〇月〇日付
  • 債権内容(契約の種類):売買契約
  • 債権内容(債権額):100万円
  • 債権内容(終期・支払期日):令和×年×月×日付

自社がファクタリングしたい売掛金と、契約書に記載された売掛金が一致していることを必ず確認してください。金額・支払期日・売掛先名に誤りがあると、後の回収や送金でトラブルになります。

なお、対象の売掛債権に「債権譲渡禁止特約」が付いている場合は、譲渡の可否に注意が必要です。2020年の民法改正で扱いが変わった点も含め、詳しくはこちらをご覧ください。
『債権譲渡禁止特約はもう怖くない!民法改正でファクタリングの常識が変わった』

3. 債権譲渡通知の有無とタイミング

債権譲渡通知は、売掛先に対して債権が譲渡された事実を知らせる手続きです。この通知の有無・方法・時期が契約書に明記されているかを確認しましょう。

2社間ファクタリングでは、原則として売掛先への通知は行いません。しかし業者によっては、回収した売掛金の送金が遅れた場合などに通知する特約を設けていることがあります。知らないうちに取引先との関係へ悪影響が及ばないよう、通知の有無と、通知が行われる条件を確認しておくことが大切です(この特約については後述します)。

3社間ファクタリングでは、売掛先への通知が必須です。通知の方法・タイミング・通知文書の内容が適切であるかを確認しましょう。通知は、確実に到達したことを証明できる内容証明郵便で行われるのが一般的です。

※債権譲渡通知の有無が取引に与える影響について詳しくはこちらをご覧ください。
『ファクタリングは通知される?債権譲渡通知の有無や取引の流れについても解説』

4. 債権譲渡登記の有無と費用負担

ファクタリングは債権譲渡取引であるため、対抗要件を確保する目的で債権譲渡登記を伴うのが一般的です。ただし登記は必須ではなく、相談に応じて登記を留保するファクタリング会社もあります。契約書では以下を確認しましょう。

  • 債権譲渡登記を行うかどうか
  • 登記費用(登録免許税・司法書士報酬)の負担者
  • 登記の時期と方法
  • 契約終了後の登記抹消手続きの責任者

登記の意義や手続き、費用の詳細は後の章で詳しく解説します。ここでは、登記の有無と費用負担が契約書で明確になっているかを確認する、という点を押さえてください。特に、契約終了後の抹消手続きを忘れると、将来ほかの金融機関から融資を受ける際に支障をきたす可能性があるため注意が必要です。

5. 償還請求権(リコース)がないこと

償還請求権とは、売掛先が支払不能になった場合に、ファクタリング会社が利用企業に対して債権の買戻しを求める権利です。ファクタリングは、原則としてノンリコース(償還請求権なし)で、売掛先の倒産などによる貸倒れリスクはファクタリング会社が負担します。

もし契約書に償還請求権(リコース)の定めがある場合、その取引は法的には「売掛金を担保にした貸付け」に該当し、貸金業登録なく行えば違法となり得ます。実際、償還請求権付きの契約は偽装ファクタリングの常套手段です。リコース条項の有無を必ず確認することで、違法な高金利融資に巻き込まれるリスクを避けられます。

実質リコースに注意

「償還請求権なし」と明記されていても、損害賠償条項で「回収できなかった場合に売買代金全額の返還を求める」と定められていれば、実質的には償還請求権付きと変わりません。償還請求権の文言だけでなく、損害賠償責任の内容まであわせて確認することが重要です(詳しくは「悪質業者の見抜き方」で解説します)。

実務で「実質リコース」を見抜くには、次のような条項名に注意します。買戻請求権・買戻特約(回収不能時に利用企業へ債権の買い取りを求める)、損害賠償額の予定(回収不能額を損害と定義して全額請求する)、表明保証違反による解除・返還(売掛先の支払いを実質保証させる)などです。これらは「償還請求権」という言葉を使わずに同じ効果を生む書き方であり、条項の名前ではなく「回収できなかったリスクを最終的に誰が負うか」で判断してください。売掛先が支払わなかったときに自社の負担になる仕組みが一つでも残っていれば、それはノンリコースとは言えません。

なお、譲渡した債権がそもそも存在しなかった、二重に譲渡していたなど、利用企業側に詐欺的行為があった場合には、例外的に買戻しや損害賠償が認められることがあります。

※償還請求権(リコース)の仕組みや、ありなしの違いについて詳しくはこちらをご覧ください。
『償還請求権の意味とは?債務者の義務を解説』『ファクタリング利用者にとって重要な償還請求権と注意すべきポイントとは?』

6. 担保・保証人の設定がないこと

正規のファクタリングでは、原則として担保や保証人は不要です。ファクタリングは売掛債権そのものを売却する取引であり、融資ではないためです。契約書に担保設定や保証人を求める条項がある場合、それは実質的な融資契約である可能性が高く、悪質業者の疑いがあります。

特に次のような条項には注意してください。

  • 不動産や動産への担保権設定
  • 代表者の連帯保証
  • 第三者の保証人要求
  • 預金や有価証券の担保提供

また、債権譲渡契約では担保・保証人を不要としつつ、回収業務委託契約のほうに保証人を設定する手口もあります。両方の契約書をあわせて確認しましょう。

7. ファクタリング手数料と諸費用

ファクタリング契約に至るまでに、審査を経て手数料が提示されているはずです。契約時には、次の点を確認してください。

  • 手数料率(売掛金額に対する割合)が相場から大きく乖離していないこと
  • 事前に聞いていた手数料と契約書の手数料が一致していること
  • 審査手数料・事務手数料・振込手数料などの追加費用の有無
  • 途中解約時の違約金や返金規定

手数料の相場は、一般に2社間ファクタリングで10〜20%程度、3社間ファクタリングで1〜5%程度とされています。これを大きく上回る場合は注意が必要です。また、手数料以外の諸費用まで含めた実質的な負担額を合計して計算し、資金調達手段として見合うかを判断しましょう。

なお、「審査手数料」などの名目で前金を要求する業者は悪質なケースが多く、正規のファクタリング会社では基本的に前払いの手数料は発生しません。消費税の扱いにも注意が必要です(後述)。

元銀行員の視点|手数料は「年率」に引き直し、与信は「評点」で読む

銀行融資の現場では、コストは必ず年率(実効金利)で捉えます。ファクタリング手数料も同じ発想で見ると、判断を誤りにくくなります。たとえば支払期日まで残り1か月の売掛金を手数料10%で譲渡した場合、1か月で10%の負担ですから、単純に年率換算すると120%相当のコストです。ファクタリングは融資ではないため金利ではありませんが、「短期間だから安く感じる手数料」が、期間で割り戻すと相当な負担になっていることは珍しくありません。同じ手数料率でも、支払期日が近い債権ほど実質負担は重くなります。

そして、その手数料率が高いか安いかを左右するのは、自社ではなく売掛先の信用力です。銀行が与信判断で使うのと同じ物差しで言えば、法人間取引では帝国データバンク(TDB)や東京商工リサーチ(TSR)の企業評点が目安になります。実務的には、売掛先の評点が概ね50点を超えれば「超優良先」として手数料は最低水準に近づき、40点台なら支払い能力に大きな懸念なしと見られて標準的な水準に収まりますが、30点台まで下がると手数料が跳ね上がるか買取自体を断られやすくなります。契約書で提示された手数料が妥当かどうかは、売掛先の評点と残り日数をセットで見れば、感覚ではなく根拠をもって判断できます。

8. 報告義務の範囲

契約書には、利用企業がファクタリング会社に対して行う報告義務が定められていることがあります。特に売掛先の経営状況は回収に直結するため、報告義務が求められるのが通常です。

  • 売掛先の支払能力に影響する情報の報告義務
  • 売掛先との取引状況の報告頻度
  • 財務諸表など経営情報の提出義務

報告義務が過度に広範囲だったり、頻度が高すぎたりすると、業務負担が大きくなります。また、報告義務を怠ると損害賠償を求められることもあるため、どのような場合に報告義務が生じ、違反するとどのような責任を負うのかを確認しておきましょう。

9. 損害賠償・違約金の定め

契約違反時の損害賠償や違約金について、不当に高額または広範囲な設定がないかを確認します。具体的には、次のような場面で損害賠償や違約金が生じ得ます。

  • 報告義務に違反した場合
  • 売掛金の回収が遅れた場合
  • 回収後の送金期限を守らなかった場合
  • 一定の条件で契約を解除した場合

確認すべきポイントは、違約金の計算方法と上限額、損害賠償の発生条件、そして遅延損害金の利率です。損害賠償額が実際の損害と比べて著しく釣り合わない場合、その条項は無効となる可能性があります。軽微な義務違反に重い違約金が課される、賠償額が極端に大きい、あるいは定めが極端に細かい/曖昧といったケースは、悪質業者の特徴です。不安があれば弁護士など専門家に確認することも検討しましょう。

10. 契約解除の条件と手続き

契約解除の条件と手続きが明確に定められているかを確認します。

  • 契約を解除できる条件
  • 解除通知の方法と期間
  • 解除時の清算方法(受領済み資金の返還、譲渡した売掛金の取扱いなど)
  • 解除によって発生する費用負担

契約解除権がファクタリング会社のみに一方的に認められている場合や、解除条件が不明確な場合は注意が必要です。一般には、利用企業の契約違反によって解除に至った場合、受け取った資金を全額返還し、譲渡した売掛金も返還される扱いとなります。既に支払った手数料が返還されるかどうかもあわせて確認しておきましょう。

11. 契約期間と自動更新の有無

通常、ファクタリングは単発で行う取引です。売掛金の譲渡から売却代金の受け取り、売掛先からの回収までの一連の流れが完了すれば、契約は終了します。したがって、契約期間もこの範囲に限られるのが自然です。

  • 契約の有効期間
  • 自動更新の有無とその条件
  • 更新を望まない場合の通知期限と方法

悪質業者では、長期の契約期間を設けて繰り返しファクタリングさせるケースもあります。単発の契約になっているか、不要な自動更新条項がないかを確認してください。自動更新条項がある場合、更新を希望しないときの通知期限を見落とすと、意図せず契約が継続してしまう可能性があります。

12. 秘密保持条項の範囲と期間

ファクタリング取引では、利用企業は自社の財務情報や売掛先の情報など、機微な情報をファクタリング会社に提供します。そのため、契約書に秘密保持条項が適切に定められているかを確認しましょう。特に、売掛先に知られたくない2社間ファクタリングでは、秘密保持は極めて重要です。

  • 秘密情報の定義と範囲(自社情報・売掛先情報が含まれるか)
  • 第三者への情報開示が認められる条件
  • 契約終了後も秘密保持義務が継続するか、その期間
  • 違反した場合の責任

秘密保持義務が一方的(利用企業だけが負う)になっていないか、双方向で定められているかも確認ポイントです。特に、ファクタリング会社が取得した情報を、系列の債権回収会社や与信管理会社へ共有できる条項が紛れていないかは注意して読みましょう。売掛先の情報が意図せず外部に流れると、取引関係を損なうおそれがあります。

契約書チェックリスト(保存版)

ここまで解説した確認項目を、契約前に見返せるチェックリストとして一覧にまとめました。契約書を手元に置いて、1項目ずつ照合してください。1つでも不安が残る項目があれば、署名前にファクタリング会社へ確認するか、専門家に相談することをおすすめします。

No. 確認項目 特に注意するポイント
1 債権譲渡取引であることの明記 実質が「売買(譲渡)」か。貸付けの偽装でないか
2 譲渡する売掛金の特定 金額・支払期日・売掛先名が自社の認識と一致するか
3 債権譲渡通知の有無・タイミング 2社間なのに通知ありになっていないか。通知条件は何か
4 債権譲渡登記の有無・費用負担 登記の要否、費用負担者、契約終了後の抹消責任者
5 償還請求権(リコース)がないこと 実質リコース(損害賠償で全額返還等)になっていないか
6 担保・保証人が不要であること 業務委託契約側に保証人が紛れていないか
7 手数料と諸費用 事前提示と一致するか。相場内か。前金要求がないか
8 報告義務の範囲 範囲・頻度が過大でないか。違反時の責任
9 損害賠償・違約金 実損とかけ離れた高額設定・遅延損害金の利率
10 契約解除の条件と手続き 一方的な解除権でないか。解除時の清算方法
11 契約期間と自動更新 単発契約か。不要な自動更新条項がないか
12 秘密保持条項 範囲・期間、第三者開示の条件、双方向か

【重要】債権譲渡の対抗要件と「通知・登記の留保」

ファクタリング契約を理解するうえで最も重要でありながら、最も分かりにくいのが「対抗要件」の論点です。2社間・3社間の違い、債権譲渡登記の意味、そして近年注目される「対抗要件の留保」は、いずれもこの対抗要件の理解が土台となります。順を追って解説します。

対抗要件とは(債務者対抗要件と第三者対抗要件)

対抗要件とは、権利変動の事実を第三者に主張するために必要な要件のことです。債権譲渡の対抗要件には、次の2種類があります。

  • 債務者対抗要件:譲受人(ファクタリング会社)が、債務者(売掛先)に対して「自分が新しい債権者である」と主張し、支払いを求めるための要件
  • 第三者対抗要件:同一の債権が二重に譲渡された場合や、譲渡と差押えが競合した場合など、両立しない権利関係に立つ者同士の優劣を決めるための要件

民法第467条は、債権譲渡の対抗要件について定めています。同条第1項により、債権譲渡は「譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ」債務者その他の第三者に対抗できません。さらに同条第2項により、この通知または承諾が第三者に対する対抗要件となるためには、確定日付のある証書(内容証明郵便など)によって行う必要があります。

つまり、第三者に対して債権譲渡を主張するには、原則として「確定日付のある通知または承諾」が必要です。二重譲渡が起きて双方に確定日付ある通知がされた場合、その優劣は、確定日付のある通知が債務者に到達した日時(または確定日付のある承諾の日時)の先後によって決まります。

ポイント
債権譲渡の対抗要件は「通知・承諾」が原則。第三者対抗のためには、内容証明郵便のような「確定日付のある証書」が必要になります。この原則を、売掛先に知られずに満たす手段が、次に述べる債権譲渡登記です。

※対抗要件の具備方法(通知・承諾・登記)をより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
『対抗要件具備とは?債権譲渡との関係や活用方法について詳しく紹介』

2社間ファクタリングは「登記」で対抗要件を備える

2社間ファクタリングでは、売掛先に債権譲渡を通知しません。取引先との関係維持や、ファクタリング利用の事実を知られたくないといった理由から、通知を避ける形が選ばれるためです。しかし通知をしないと、民法上の対抗要件(通知・承諾)を満たせず、二重譲渡などが起きた際に法的保護を受けられないリスクが生じます。

そこで用いられるのが債権譲渡登記です。「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(動産・債権譲渡特例法)により、法人が行う金銭債権の譲渡については、債権譲渡登記をすることで、債務者以外の第三者に対する対抗要件(第三者対抗要件)を備えられます。これにより、売掛先へ通知することなく、登記によって法的保護を得ることが可能になります。

このため、2社間ファクタリングでは債権譲渡登記が第三者対抗要件として重要な役割を果たします。登記をせずに取引すると、同じ債権が他者に二重譲渡された場合などに、権利を主張できないおそれがあります。

3社間ファクタリングは「確定日付ある通知」で対抗要件を満たす

3社間ファクタリングでは、売掛先に債権譲渡を通知し、承諾を得たうえで取引します。通知は内容証明郵便など確定日付のある証書で行われるのが通常であり、これによって民法上の第三者対抗要件を満たします。そのため、3社間ファクタリングでは基本的に債権譲渡登記は不要です。

登記コストが不要になる一方で、売掛先にファクタリング利用の事実が知られることになります。取引関係への影響を懸念するかどうかが、2社間と3社間を選ぶ際の分かれ目になります。

対抗要件の「留保」とは何か

ファクタリングでは、対抗要件をあえて備えない、または後回しにする「対抗要件の留保」が行われることがあります。代表的なのが、次の2つです。

  • 通知の留保:3社間相当の取引でありながら、売掛先への通知をいったん行わず、一定の条件(送金遅延など)が生じたときに初めて通知する
  • 登記の留保:2社間ファクタリングで、債権譲渡登記をあえて行わず、必要が生じた場合に登記する

対抗要件を留保する主な理由は、売掛先にファクタリング利用の事実を知られないようにすること、そして登記コストや手続きの負担を抑えることにあります。売掛先の信用不安を避けたい中小企業にとって、通知や登記を留保できることは実務上の大きなメリットです。

留保にはリスクがともなう

対抗要件を留保している間は、第三者対抗要件が備わっていない状態です。この状態で同じ債権が別の業者に二重譲渡され、そちらが先に確定日付ある通知や登記を備えてしまうと、法的な優劣で負けてしまう可能性があります。留保は利用企業にとって都合のよい面がある一方、二重譲渡が疑われるような取引では、ファクタリング会社が留保に応じないこともあります。留保する/しないの条件と、留保が解除される(通知・登記が行われる)トリガーを、契約書で必ず確認しましょう。

二重譲渡が起きたときの優劣の決まり方

同一の債権が複数の相手に譲渡される二重譲渡が起きた場合、譲受人相互の優劣は、次の時点の先後によって決まります。

  • 確定日付のある通知が債務者に到達した時
  • 確定日付のある債務者の承諾の時
  • 債権譲渡登記がされた時

これらのうち、最も早く対抗要件を備えた者が優先されます。したがって、対抗要件を留保していると、後から対抗要件を備えた別の譲受人に順位で負けるおそれがあるわけです。二重譲渡は、資金繰りが厳しい企業が意図的に行う場合もあるため、ファクタリング会社にとって登記や通知は重要な予防措置となっています。なお、確定日付ある通知が同時に到達した場合には、各譲受人がそれぞれ全額の弁済を請求できるとした判例もあります。

元銀行員の視点|債権譲渡登記は「銀行が見ている」

ここは、銀行側にいた立場だからこそ強調したい点です。債権譲渡登記は誰でも閲覧できる公示制度ですが、実務上、これを日常的に確認しているのは売掛先よりもむしろ金融機関です。銀行は融資審査や既存取引先のモニタリングで、法人の登記情報を確認します。具体的には、登記事項の概要を示す概要記録事項証明書は誰でも取得でき、これを見れば「その会社が債権譲渡登記をしている事実」と譲受人(=ファクタリング会社)の名称などがわかります。個々の債権額や売掛先(債務者)名まで見るには登記事項証明書が必要ですが、審査担当者にとっては「登記の有無と相手方」がわかるだけで十分なシグナルになります。

そこに債権譲渡登記が入っていると、「主要な売掛債権が既にファクタリングで流動化されている」=資金繰りが逼迫しているのではないか、という見方をされ、新規融資や既存融資の更新でマイナスに働くことがあります。つまり、登記のリスクとして本文で挙げた「情報公開」は、取引先に知られること以上に、将来の銀行融資への影響という形で効いてくるということです。だからこそ、契約終了後の登記抹消(抹消登記1件1,000円)は「念のため」ではなく必ず実行すべきで、抹消の責任者を契約時に確定させておく意味は大きいのです。銀行融資も選択肢に残しながらファクタリングを併用したい会社ほど、登記の要否と抹消は慎重に判断してください。

※ファクタリングにおける内容証明・債権譲渡通知の実務について詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
『ファクタリングにおける内容証明とは?債権譲渡通知との関係やファクタリングの利用手順についても紹介』

債権譲渡登記の実務(手続き・費用・期間)

ここでは、債権譲渡登記の具体的な手続き、費用、存続期間などを解説します。制度の正確な理解は、契約書のチェックや悪質業者の回避にも役立ちます。数値・制度は法務省「債権譲渡登記・質権設定登記」の情報に基づきます。

登記が必要なケース・推奨されるケース

前述のとおり、2社間ファクタリングでは、売掛先に通知しない代わりに債権譲渡登記で第三者対抗要件を備えるのが基本です。一方、3社間ファクタリングでは確定日付ある通知で対抗要件を満たすため、登記は原則不要です。

このほか、次のようなケースでは登記が推奨されます。

  • 高額な売掛債権を譲渡する場合(リスク管理の観点から)
  • 売掛先の財務状況が不安定、または取引関係に不安がある場合
  • 同一の売掛先に対する売掛債権を継続的にファクタリングする場合

なお、平成16年の特例法改正(平成17年施行)により、債務者が特定していない将来債権の譲渡についても、登記によって第三者対抗要件を備えることが可能になりました。将来債権を対象とするファクタリングでも登記が活用できます。

登記申請の流れと必要書類

債権譲渡登記の申請は、東京法務局(債権譲渡登記の管轄庁)で行います。基本的な流れは、登記申請書を作成し、必要書類を揃えて提出し、審査を経て登記が完了する、というものです。提出は窓口持参のほか、郵送やオンライン申請も可能です。

主な必要書類は次のとおりです(書面申請の場合。詳細は法務省「添付書面・登録免許税」を参照)。

  • 債権譲渡登記申請書
  • 代理権限証書(委任状。司法書士等へ依頼する場合)
  • 譲渡人の代表者の資格証明書(登記事項証明書。作成後3か月以内のもの)
  • 譲渡人の代表者の印鑑証明書(作成後3か月以内のもの)
  • 譲受人の代表者の資格証明書(法人の場合。作成後3か月以内のもの)/譲受人が自然人の場合は住民票の写し

登記完了後は登記事項証明書を取得でき、これが債権譲渡が適正に行われたことを証明する書類になります。オンライン申請には登記・供託オンライン申請システムを利用します。

登記にかかる費用と期間

債権譲渡登記にかかる主な費用は、登録免許税と(依頼する場合の)専門家報酬です。登録免許税は次のとおりです。

登記の種類 登録免許税(1件につき)
債権譲渡登記/質権設定登記
(債権個数5,000個以下)
7,500円
(租税特別措置法により軽減された額)
債権譲渡登記/質権設定登記
(債権個数5,000個超)
15,000円
延長登記 3,000円
抹消登記/一部抹消登記 1,000円

登録免許税は1件あたりの金額であり、債権個数が5,000個以下であれば、同一の登記に複数の債権をまとめて登記しても7,500円です。債権ごとに課税されるわけではない点に注意してください。

司法書士など専門家へ登記を依頼する場合は、別途報酬が発生します。案件の複雑さや債権の数によって変動するため、事前に見積もりを確認しておきましょう。登記手続きにかかる期間は、通常、申請から完了まで数日から1週間程度が目安です。急ぎの場合や繁忙期には前後することがあります。

出典:法務省「(債権譲渡登記等)添付書面・登録免許税」

登記の存続期間と延長・抹消・変更登記

債権譲渡登記には存続期間があり、法務省の定めによると、存続期間の上限は次のとおりです。

  • 債務者が特定している債権:登記の日から50年
  • 債務者が特定していない債権を含む場合:登記の日から10年

ファクタリングでは債務者(売掛先)が特定されているのが通常のため、原則50年以内で存続期間を定めることになります。これを超える期間を定めるには、特別の事由を証する書面が必要です。売掛金の支払期日は数か月先であることが多く、実務上は回収完了までの期間をカバーできれば十分なため、存続期間が問題になることは多くありません。

存続期間を延長したい場合は延長登記(1件3,000円)を、登記が不要になった場合は抹消登記(1件1,000円)を行います。また、債権額の変更や譲受人の変更など、登記内容に変更が生じた場合は変更登記が必要になることがあります。特に、契約終了後に抹消登記を行わないと、登記が残り続け、将来ほかの金融機関との取引に影響する可能性があるため、抹消の要否と責任者を契約時に確認しておきましょう。

登記のメリットとデメリット

債権譲渡登記のメリットとデメリットを整理します。

メリット デメリット
・二重譲渡を防止し、第三者対抗要件を備えられる
・売掛先に通知せずに法的保護を得られる
・登記日時により優先順位が公的に明確になる
・取引の透明性が増し、紛争リスクを軽減できる
・登記情報は誰でも閲覧でき、ファクタリング利用が知られる可能性がある
・登録免許税や専門家報酬などのコストがかかる
・書類準備や申請の手間・時間がかかり、資金化が遅れることがある
・少額債権では費用対効果が悪くなりやすい

登記情報は法務局で誰でも登記事項証明書を請求して確認できるため、取引先や金融機関にファクタリング利用が知られるリスクがあります。メインバンクとの関係や業界内の評判を重視する企業では、この情報公開のリスクを踏まえ、3社間ファクタリングの利用や登記の留保を検討する余地があります。

※登記なしでファクタリングを利用できるケースや注意点について詳しくはこちらをご覧ください。
『ファクタリングは債権譲渡登記なしで利用可能?バレない方法や注意点、不要なケースを解説』

※債権譲渡そのものの仕組みについて詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
『債権譲渡とは?仕組みやメリット、注意点、回収方法を解説』

契約書で見抜く悪質業者・偽装ファクタリングの手口

ここまでのチェック項目と重なる部分もありますが、悪質業者・偽装ファクタリングを見抜くための決定的なポイントをまとめます。以下に該当する場合は、契約を避けるべきです。ファクタリングに関する注意喚起は金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」も参考になります。

元銀行員の視点|危ない業者は「契約書を見る前」に分かる

悪質業者かどうかは、契約書を精読する前の、問い合わせ・審査段階の対応でかなり見分けがつきます。金融の現場で相手の信用度を測るときと同じで、注目すべきは次のような点です。ひとつは手数料の提示の仕方——正規の会社は、審査時に手数料の内訳(手数料率、諸費用の有無)を明確に示します。「契約時に説明します」と曖昧にする、あるいは口頭でしか言わない業者は要注意です。相場観としては、2社間で手数料が20%を大きく超える、あるいは事前に「審査料」「着手金」の名目で前金を求めてくる時点で、正規の取引から外れていると考えて構いません。

もうひとつは会社の実在性——固定電話の有無、事務所の所在、そして法人か個人かです。銀行が取引の前に必ず確認するのと同じで、登記情報や所在地が確認できない相手との高額取引は避けるのが鉄則です。ファクタリング自体に登録制度はありませんが、貸金業を兼ねる業者であれば金融庁の登録貸金業者情報検索サービスで登録番号を照会でき、番号を名乗れない・照会に出てこない業者は危険信号です。さらに、売掛先の信用より自社の担保・連帯保証を重視する姿勢を見せる業者は、ファクタリングの本質(売掛先の信用で買い取る取引)を外れており、実質は貸金です。契約書のチェックは最後の砦であって、その手前の対応で違和感があれば、そもそも土俵に上がらないのが最も確実な防御策です。

償還請求権(実質リコースを含む)

償還請求権付きの契約は、法的には貸付けに該当し、そもそもファクタリングではありません。偽装ファクタリングの典型であり、避けるべきです。

注意したいのは、「償還請求権なし」と明記されていても、実質的に償還請求権付きと変わらない契約があることです。これを見抜くには、償還請求権の有無だけでなく損害賠償責任の内容を確認します。回収に伴う賠償として「売買代金全額の返還」が含まれていないかに注意してください。これは、売掛金を回収できなかった場合に、買戻しではなく損害賠償の名目で売買代金全額の返還を求めるもので、実質は償還請求権付きと同じです。このような契約を迫る業者は避けましょう。公序良俗違反として契約が無効と判断される余地もあります。

担保・保証人の設定(回収業務委託契約の保証人に注意)

ファクタリングに担保設定は不要であり、担保を求める業者は悪質と考えて構いません。保証人も同様で、そもそも償還請求権がない以上、保証人は不要です。

特に注意すべきは、回収業務委託契約における保証人の設定です。悪質業者は、債権譲渡契約では担保・保証人を不要としつつ、回収業務委託契約に保証人(連帯保証人)を設定することがあります。これは、売掛先の経営悪化などで回収できなくなった場合に、回収金額を連帯保証人へ請求する仕組みです。まともなファクタリング会社はこうした条件を設けません。

緊急連絡先の要求

悪質業者は、契約時に「緊急連絡先」を求めることがあります。あまり警戒されないポイントですが、緊急連絡先を求める業者は危険です。日本ファクタリング業協会も、偽装ファクタリングの特徴の一つとして緊急連絡先を求めることを挙げています。

正規のファクタリングでは、手続き上のやり取りは会社と経営者個人の連絡先があれば足り、緊急連絡先が求められることはありません。しかし悪質業者は、経営者の親族・配偶者・会社役員・知人などの名前・続柄・住所・電話番号を求めます。これは回収手段として利用するためで、売掛先から回収できない場合に緊急連絡先へ圧力をかけ、家族や知人に迷惑をかけたくない利用企業に自腹での支払いを迫るのが狙いです。軽い調子で求められても、応じるべきではありません。

手数料の消費税加算・不当な諸費用

ファクタリングは債権の譲渡であり、消費税の非課税取引です。したがってファクタリング手数料に消費税はかかりません。しかし悪質業者は、手数料に消費税を加算して請求することが多くあります。また、優良な業者では諸経費を手数料に含めて一本化しているのに対し、悪質業者は事務手数料・出張費など不透明な諸費用を別途上乗せすることがあります。手数料以外の費用の内訳と、消費税が不当に加算されていないかを確認しましょう。

債権譲渡通知の特約に注意

2社間ファクタリングは、売掛先に通知しないことに価値があります。にもかかわらず、契約に「債権譲渡通知の特約」が設けられ、一定の条件で売掛先へ通知されることがあります。よくあるのは、回収した売掛金を支払期日までに送金しなかった場合の通知です。

この特約自体は、利用企業の使い込みなどによる送金遅延からファクタリング会社を守るための仕組みで、必ずしも不当ではありません。問題は、自社が正しく取引していれば通知されないことを確認できているかどうかです。もし誤って通知が送られると、既に売掛先が自社へ支払っているにもかかわらず「その売掛金は譲渡済みなのでファクタリング会社へ支払ってほしい」と伝わることになり、売掛先とのトラブルは避けられません。通知が行われる条件を正確に把握し、正常な取引では通知されないことを確認しておきましょう。

契約書に不審な点があるときの対応

契約書に不明点や不審な点がある場合は、署名する前に適切な対応を取ることが重要です。

不明点を質問し、書面で説明を求める

契約書で分からない点があれば、遠慮せずファクタリング会社に質問しましょう。具体的な条項を指摘して質問する、専門用語は平易な言葉で説明を求める、口頭だけでなく書面での回答を求める、複数の担当者に確認して説明に一貫性があるかを確かめる、といった対応が有効です。質問に明確に答えない、あるいは質問すること自体を嫌がる業者は要注意です。特に手数料の計算方法やリコース条項の有無など重要事項は、できるだけ書面で回答をもらいましょう。

契約条件を交渉する

契約内容が不利だと感じたら、交渉して修正を依頼することも検討します。不利な条件を具体的に指摘して修正案を提案する、業界の標準的な条件と比較して交渉材料にする、複数のファクタリング会社から見積もりを取って比較する、といった方法があります。契約条件は固定ではなく、交渉の余地があることも少なくありません。修正に応じない場合は、契約を見送る判断も必要です。

専門家・相談窓口に相談する

契約内容に不安があるときは、弁護士や税理士などの専門家に相談しましょう。法律上の問題点の指摘、業界標準と比較した妥当性の確認、税務・会計処理のアドバイスなどが得られます。悪質業者の疑いがある場合は、消費生活センターや、貸金業に関しては日本貸金業協会などの相談窓口の利用も検討してください。高額な債権を譲渡する場合や契約内容が複雑な場合は、事前に専門家のチェックを受けることをおすすめします。

契約締結後の流れと確認事項

契約を締結した後も、状況に応じて確認・手続きを行う必要があります。契約前だけでなく契約後の対応まで押さえておきましょう。

入金の確認

契約締結後、まず重要なのは契約条件どおりに入金が行われるかの確認です。契約書に記載された金額が正確に入金されているか、入金のタイミングが契約どおりか、手数料や諸費用が契約書どおりの金額か、想定外の控除がないかを確認します。入金額が契約と異なる場合は、すぐにファクタリング会社へ問い合わせましょう。特に初回取引では、契約どおりに実行されるかを注意深く確認することが、以降の取引の信頼性を判断する基準になります。

売掛金回収後の対応(2社間ファクタリングの場合)

2社間ファクタリングでは、売掛先から入金があった後の対応が特に重要です。

  • 売掛金が入金されたら、契約書に定められた期間内にファクタリング会社へ送金する
  • 送金の際は、契約書に記載された方法(振込先口座など)を確認する
  • 送金後は必ず入金確認を取る
  • 送金記録や受領書は必ず保管する

売掛金を回収したのに送金が遅れると契約違反となり、ペナルティや、前述した債権譲渡通知の特約の発動につながる可能性があります。回収した資金はすみやかに送金し、送金後は相手方に入金確認を取って記録を残しておきましょう。

元銀行員の視点|回収金は「自社の資金」と混ぜない

2社間ファクタリングで最も多いトラブルは、悪意のない「使い込み」です。回収した売掛金は、法律上すでにファクタリング会社に譲渡した債権の回収金であって、自社の運転資金ではありません。ところが同じ口座に入金されると、日々の支払いに紛れて手をつけてしまい、送金期日に足りなくなる——これが典型的な失敗パターンです。銀行が信託や預り金を扱うときに徹底するのと同じ発想で、回収金は入金されたらすぐ送金し、可能なら送金までのわずかな期間も別枠で意識して管理するのが安全です。

軽く考えてはいけないのは、この使い込みが単なる契約違反にとどまらない点です。譲渡済みの債権の回収金を意図的に別の支払いに流用すれば、横領や詐欺として刑事責任を問われる可能性があり、実際に2社間ファクタリングの回収金の流用がトラブルの火種になる例は少なくありません。「回収できているのに送金だけ遅れた」場合でも契約違反として扱われ、通知特約が発動すれば売掛先との関係まで壊れます。資金繰り表の上でも、この回収金は最初から「通過するだけのお金」として、自社のキャッシュとは別に色分けしておくことをおすすめします。

契約終了時の手続き

契約が終了する際には、以下の手続きと確認が必要です。

  • 債権譲渡登記をした場合は、登記抹消手続きの要否と実施を確認する
  • 契約終了を証明する書類(終了証明書・清算証明書など)を受領する
  • 残債務や追加費用がないことを確認する
  • 次回取引のための条件確認・評価を行う

特に債権譲渡登記をした場合、その抹消手続きは重要です。抹消されずに登記が残ると、将来ほかの金融機関との取引に支障をきたす可能性があります。契約終了時に登記抹消を確認することを忘れないようにしましょう。

契約書の控えを必ず保管する

最後に、契約書の控えは必ず受け取り、保管してください。本記事のチェック項目と照らして問題がなかったとしても、後から確認したい事項が出てくることがあります。手続きミスによる損害賠償や違約金を避けるためにも、契約条件をいつでも確認できるようにしておくべきです。万一、後になって悪質業者だと判明した場合も、契約書が手元にあれば弁護士へスムーズに相談でき、契約が無効と判断されれば毅然とした対応も取れます。

元銀行員の視点|ファクタリングは「使い方」で評価が分かれる

最後に、資金調達全体を見てきた立場からの総括です。ファクタリングは、それ自体が良い・悪いという手段ではありません。銀行融資が間に合わない急な資金需要をつなぐ、あるいは売掛先の倒産リスクをオフロードするといった目的が明確な一時的活用であれば、非常に有効な手段です。一方で、手数料負担の重さを直視しないまま毎月のように繰り返すと、資金繰りはむしろ悪化していきます。銀行員として見てきた失敗例の多くは、ファクタリングそのものではなく「回し続けてしまったこと」に原因がありました。理想は、ファクタリングで当座をしのぎつつ、並行して銀行融資や補助金・制度融資などコストの低い調達手段への切り替えを進めることです。契約書のチェックはあくまで入口の防御であり、その先の「どう使い、いつ卒業するか」までを描けているかが、資金繰り改善の分かれ目になります。

まとめ

ファクタリング契約書には、債権譲渡取引であることの明記、売掛金の特定、償還請求権の有無、手数料、担保・保証人の不要、報告義務、損害賠償・違約金、契約解除、契約期間など、確認すべき項目が数多くあります。加えて、2社間・3社間で異なる対抗要件の考え方、債権譲渡登記の意味と手続き、そして「対抗要件の留保」という論点を理解しておくことで、契約内容をより正確に読み解けるようになります。

また、償還請求権や実質リコースの損害賠償条項、担保・保証人の要求、緊急連絡先の要求、消費税の加算といったサインは、悪質業者・偽装ファクタリングを見抜く手がかりになります。不明点があれば必ず質問し、必要に応じて専門家や公的な相談窓口を活用しましょう。手間はかかりますが、契約前・契約中・契約後の各段階で丁寧に確認することが、安全な資金調達につながります。

信頼できるファクタリング会社は、契約内容を明確に説明し、質問にも誠実に対応してくれます。本記事のチェックポイントを活用して、自社に少しでも有利で安全なファクタリング契約を結び、資金繰りの改善につなげてください。

よくある質問(FAQ)

ファクタリング契約書で最初に確認すべき項目は何ですか?

まず「債権譲渡取引であること」と「償還請求権(リコース)がないこと」を確認してください。ファクタリングは売掛債権を売買する取引であり、償還請求権が付いている契約は法的には貸付けに該当し、偽装ファクタリングの疑いがあります。あわせて、担保・保証人が不要であること、手数料が相場の範囲内であることも確認しましょう。

債権譲渡登記は必ず必要ですか?

必須ではありません。売掛先に通知しない2社間ファクタリングでは、第三者対抗要件を備えるために債権譲渡登記を行うのが一般的ですが、相談に応じて登記を留保するケースもあります。一方、売掛先へ確定日付のある通知を行う3社間ファクタリングでは、通知によって対抗要件を満たすため、登記は原則不要です。

債権譲渡登記の費用はいくらかかりますか?

登録免許税は、債権個数が5,000個以下の場合は1件につき7,500円(租税特別措置法による軽減額)、5,000個を超える場合は1件につき15,000円です。1件の登記に複数の債権をまとめて登記できるため、債権ごとに課税されるわけではありません。これに加えて、司法書士など専門家へ依頼する場合は別途報酬が発生します。

債権譲渡登記の存続期間はどのくらいですか?

法務省の定めによると、債務者が特定している債権は登記の日から原則50年、債務者が特定していない債権を含む場合は原則10年が存続期間の上限です。ファクタリングでは売掛先(債務者)が特定されているのが通常のため、原則50年以内で存続期間を定めることになります。これを超えるには、特別の事由を証する書面が必要です。

対抗要件の「留保」とは何ですか?リスクはありますか?

対抗要件の留保とは、売掛先への通知や債権譲渡登記をあえて行わず、必要が生じたときに備える取り扱いのことです。売掛先にファクタリング利用を知られない、コストを抑えられるといった利点がありますが、留保している間は第三者対抗要件が備わっていないため、同じ債権が二重譲渡され相手が先に対抗要件を備えると、法的な優劣で負けるリスクがあります。留保する条件と、通知・登記が行われるトリガーを契約書で確認しましょう。

契約書から悪質業者を見抜くにはどこを見ればよいですか?

償還請求権や実質的なリコースとなる損害賠償条項(回収できない場合に売買代金全額の返還を求めるものなど)、担保・保証人の要求、緊急連絡先の要求、手数料への消費税の加算などが判断材料になります。ファクタリングは非課税取引で担保・保証人も不要なため、これらを求める業者は避けるべきです。契約書を読む前の問い合わせ・審査段階で、手数料の内訳を明示するか、会社の実在性が確認できるかも見極めのポイントです。

ファクタリング契約書にはどんな条項が含まれますか?

一般的な債権譲渡契約書(ファクタリング契約書)は、目的・債権の譲渡、譲渡対象債権の特定、譲渡代金・支払方法、債権譲渡の通知・登記、表明保証、償還請求権、回収・送金(2社間の業務委託)、報告義務、損害賠償・違約金、契約解除、秘密保持、合意管轄・準拠法といった条項で構成されます。条項の名称や番号は業者によって異なりますが、盛り込まれる内容はおおむね共通しています。特に「償還請求権・表明保証・損害賠償・回収送金」の各条項は相互に関連するため、単体ではなくつなげて読むことが、実質的なリコースを見抜くうえで重要です。

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筆者ヒューマントラスト編集部

資金調達・資金繰りの実務に精通したヒューマントラスト編集部が、最新の制度・実務動向をふまえて記事を作成しています。

三坂大作(資金調達30年の実績を持つ認定経営革新等支援機関 統括責任者)
監修者三坂 大作
ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役

東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。

東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。

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