公開日:2026.09.29
更新日:2026.09.29
金利上昇で不動産市況はどう変わる?中小企業が地価より先に見るべき返済原資

東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。貸金業務取扱主任者。
東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。貸金業務取扱主任者。
日本の不動産市場では、金利が上昇しているにもかかわらず、地価やオフィス賃料の上昇が続いている地域があります。
2026年9月、日本銀行は無担保コール翌日物を1.25%程度で推移させる方針を決定しました。一方、同月に公表された都道府県地価調査では、全国の地価は引き続き上昇基調にあり、東京圏・大阪圏では上昇幅も拡大しています。
一見すると、矛盾した動きに見えるかもしれません。しかし、私が中小企業経営者に見てほしいのは、「不動産価格が上がるか下がるか」だけではありません。
自社が借りている事務所や店舗の賃料はどうなるのか。自社ビルや倉庫を購入した場合、金利がさらに上がっても返済を続けられるのか。保有不動産の価格が上昇しても、それが本当に会社の返済能力の向上につながっているのか。
不動産を経営判断として考えるなら、価格より先に見るべき数字があります。
▼ この記事で分かること
- 市況の見方金利上昇でも不動産価格が一律に下がっていない理由
- 地域差東京・大阪・名古屋・福岡・札幌などで何が違うのか
- 立場別の確認点不動産を借りる会社・買う会社・保有する会社が確認すべきこと
- 取得判断「借入可能額」より先に返済原資を見る理由
金利上昇でも不動産価格は一律に下がっていない
結論:金利上昇は不動産価格の下押し要因ですが、賃料、実需、供給制約などがそれを上回る地域・物件もあります。「金利上昇=不動産下落」と単純には言えません。
まず、2026年9月の金利動向を整理します。
| 政策金利 | 9月18日の金融政策決定会合で、無担保コール翌日物を1.25%程度で推移させる方針を決定(9月24日から適用) |
|---|---|
| 長期金利 | 9月1日の10年国債入札で、募入平均利回り2.995%、最高利回り3.011% |
ここで注意したいのは、日銀の政策金利が1.25%だからといって、企業が不動産取得のために借りる融資金利も1.25%になるわけではないことです。
実際の借入条件は、金融市場の金利環境だけでなく、企業の財務状況、返済原資、借入期間、担保条件、既存借入、金融機関の審査などによって異なります。
したがって、中小企業が確認すべきなのは政策金利そのものだけではありません。新規借入れや借換え、金利見直しの際に、自社の借入条件と年間返済額がどこまで変わる可能性があるかを確認することが重要です。
しかし、現在の日本の不動産市場は、教科書どおり一方向に動いているわけではありません。
| 全国平均(都道府県地価調査) | 住宅地が前年比1.0%上昇、商業地が2.9%上昇 |
|---|---|
| 三大都市圏 | 住宅地・商業地とも上昇が継続。東京圏と大阪圏は上昇幅が拡大し、名古屋圏は縮小 |
| 地価LOOK(第1四半期) | 主要44地区すべてが上昇 |
なお、都道府県地価調査や地価LOOKは土地価格の動向を示すもので、建物を含む個別不動産の売買価格そのものではありません。ここでは、不動産市場の方向感を確認するための指標として参照しています。
金利上昇と地価上昇が同時に起きる理由
結論:不動産価格を決めるのは金利だけではありません。これから重要になるのは、その物件が継続的に収益を生み、上昇した資金コストを吸収できるかどうかです。
CBREによると、2026年第2四半期の国内事業用不動産投資額は、前年同期比17%増の1兆1,210億円でした。
また、東京のプライムオフィスとホテルでは期待NOI利回り(キャップレート)が過去最低を更新し、大手町のプライムオフィスでは3.10%となっています。
ここでいうNOIとは、Net Operating Income(純営業収益)の略で、賃貸収入から物件運営に必要な経費などを差し引いた、不動産そのものが生み出す収益を示す指標です。期待NOI利回りは、このNOIと不動産価格の関係を見る際に使われる代表的な指標の一つです。
10年国債利回りと不動産の期待利回りは、リスクや収益構造が異なるため、単純には比較できません。それでも超低金利時代と比べれば、不動産を保有して得られる上乗せ収益について、以前より厳しく説明する必要が出てきているのは確かです。
これまでは「金利が低いから、取得しても収支が合う」という投資判断が比較的成立しやすい環境でした。しかし今後は、次のような物件そのものの収益力が、これまで以上に重要になります。
- 賃料を上げられるか
- 稼働率を維持できるか
- 立地に希少性があるか
- 修繕費や管理費の上昇を吸収できるか
- その地域・用途の需要が続くか
逆に、賃料が伸びず、空室率が上昇し、修繕費や管理費の増加によってNOIが低下する一方で、投資家が求める利回りや借入金利が上昇すれば、不動産価格への調整圧力は強まりやすくなります。
つまり、これからは「金利が上がったかどうか」だけではなく、上昇した資金コストを、その不動産が生み出す収益で吸収できるかを見る必要があります。

これからは「都市名」より「物件の収益力」で差がつく
結論:「東京だから安心」「地方だから弱い」という判断では足りません。同じ都市でも、立地・築年数・用途・賃料上昇余地によって市況は大きく異なります。
2026年8月の主要都市のオフィス市況を見ると、空室率や賃料の動きは地域によって異なります。
| 地域 | 平均空室率 | 平均募集賃料 |
|---|---|---|
| 東京・都心5地区 | 1.87% | 23,647円/坪 |
| 大阪・主要6地区 | 3.10% | 13,526円/坪 |
| 名古屋・主要4地区 | 3.55% | 13,354円/坪 |
| 福岡・主要6地区 | 4.81% | 12,627円/坪 |
| 札幌・主要5地区 | 4.76% | 11,371円/坪 |
※三鬼商事の各都市調査は、対象エリア・対象ビルの基準が異なります。また、以下で参照するCBREの調査とも対象・集計基準が異なるため、空室率等の数値は一致しません。都市間・調査間の単純比較を目的とした数字ではありません。
東京|賃料上昇を企業がどこまで吸収できるか
東京ではオフィス需給が引き締まっています。CBREの2026年第2四半期調査では、東京オールグレードの空室率は1.4%、想定成約賃料は前年同期比11.7%上昇しました。
貸主にとっては収益改善につながりやすい一方、借りる企業にとっては固定費の上昇につながります。
「東京の住所を維持する価値」と「今後の年間賃料負担」は、分けて計算する必要があります。
大阪|現在の需要だけでなく景気変動への耐久性を見る
大阪もオフィス需要は堅調です。CBREによると、2026年第2四半期のオールグレード空室率は1.8%で、賃料は全グレードで8四半期連続上昇しています。
ただし、店舗やホテルなどは、観光や個人消費、為替、航空需要などの影響も大きく受けます。取得時点の高い稼働率だけで判断せず、売上が一定程度落ちても返済できるかを確認しておくとよいでしょう。
名古屋|オフィスと物流を同じ市況として見ない
名古屋は、用途による差を考えるうえでの好例です。CBREの2026年第2四半期調査を用途別に並べると、次のとおりです。
| オフィス(オールグレード) | 空室率2.0% |
|---|---|
| オフィス(Grade A) | 想定成約賃料30,500円/坪(過去最高) |
| 大型マルチテナント型物流施設 | 空室率15.9% |
同じ名古屋圏でも、オフィスと物流施設では需給環境が異なります。「名古屋の不動産市況」という大きなくくりだけで判断してはいけないのは、このためです。
福岡|新規供給と既存物件の差を見る
福岡では、2026年8月の平均空室率が4.81%である一方、平均募集賃料は12,627円/坪へ上昇しています。
空室があるからといって、すぐに賃料が下がるとは限りません。新築・好立地・高品質のオフィスへ需要が移れば、古い物件との競争力の差は広がります。
賃料だけでなく、採用、交通利便性、必要面積、設備なども含めて移転を比較検討する余地があります。
札幌・千歳|大型産業投資と地域全体を分けて考える
北海道では、千歳の動きが目立っています。
2026年都道府県地価調査では、千歳市の住宅地・商業地・工業地で引き続き大きな地価上昇が確認されました。Rapidusや関連企業の進出を背景に、共同住宅、事務所、ホテル、店舗、工業用地への需要が生じています。一方で、住宅地と商業地の上昇幅は前年から縮小しています。
大型プロジェクトが地価を押し上げることはあっても、一つの地域・一つの投資案件の数字を、そのまま北海道全体の不動産市況に広げて考えるべきではありません。
中小企業への影響は、売買価格より固定費と資金調達に出る
結論:中小企業にとって重要なのは、不動産価格の予想ではありません。賃料負担・借入返済額・運転資金への影響を数字で確認することです。
賃貸している会社は「次回更新時の賃料」を先に見る
東京や大阪を中心に、オフィス賃料は上昇しています。5年前の賃料を前提にした固定費計画を、そのまま今後の予算に使うのは危険です。
契約更新まで12~24か月程度ある会社なら、次の4案程度を事前に比較しておくとよいでしょう。
- 01現状維持
- 02面積縮小
- 03移転
- 04拡張
重要なのは賃料単価だけではありません。次の項目まで含めた総額で判断します。
- 移転費用
- 原状回復費用
- 内装費
- 保証金
- 採用への影響
- 営業上の立地価値
自社不動産を持つ会社は「値上がり=返済能力向上」と考えない
地価が上がれば、担保評価や財務上の余力が改善する可能性はあります。しかし、担保価値と返済原資は別物です。
例えば、1億円だった不動産が1億3,000万円になったとしても、営業キャッシュフローが増えていなければ、毎月の返済原資そのものが3割増えたわけではありません。
金融機関への説明で重要になる数字
- 営業利益
- 営業キャッシュフロー
- 既存借入残高
- 年間返済額
- 返済期間
- 金利上昇後の返済余力
担保価値が上がったことを理由に借入額を増やしすぎると、資産価値はあっても資金繰りが苦しくなることがあります。重要なのは、担保評価だけでなく、実際に返済を続けられるだけのキャッシュフローがあるかを確認することです。
建設・内装・設備会社は「受注額」より最大立替額を見る
不動産開発や改修工事が増えれば、建設、内装、電気、設備、空調、運送などの企業には受注機会が生まれます。しかし大型案件になるほど、材料費や外注費、人件費などが先に出て、入金が後になるケースも増えます。
売上高ではなく、工事期間中に最大でいくら資金を立て替えることになるのかです。
受注が増えているのに現金が減っているのであれば、3か月後、6か月後までの資金繰りを先に確認する必要があります。
不動産取得では「借りられる額」より返済原資を先に見る
結論:不動産取得を考えるときは、物件価格や融資可能額から入るのではなく、事業収益と金利上昇後の返済能力から逆算するべきです。
私は、外部環境が変化しているときほど、資金調達では「順番」が重要だと考えています。不動産取得も同じです。私なら、次の順番で確認します。
01|その不動産を使って、会社はいくら稼げるのか
自社ビルなら、賃料削減だけでなく、生産性、採用、営業面への効果まで見ます。収益物件なら、NOIや稼働率を確認します。
02|3~6か月先の資金繰りは維持できるか
取得時には、頭金だけでなく、税金、登記、仲介、改装、移転などの支出も発生します。購入後に運転資金が不足するようでは意味がありません。
03|返済原資は何か
不動産そのものの値上がりを返済原資にしないことです。返済は、本業利益や賃料収入など、継続的なキャッシュフローから行うのが基本です。
04|その後に物件価格と借入条件を見る
ここで初めて、取得価格、借入額、金利、返済期間、担保条件を当てはめます。
設備取得に使う資金と日常の支払いに使う運転資金は、性質が異なります。不動産取得後の手元資金まで含めて計画するためには、資金使途を分けて整理することも重要です。
現在金利だけで返済計画を作らない
借入れを使って不動産を取得する場合は、現在の借入金利だけで返済計画を作らないことが重要です。例えば、現在の金利に加えて、+0.5%、+1.0%と金利が上昇した場合の返済額も確認しておきます。
既存借入れがある場合は、固定金利か変動金利か、次回の金利見直し時期がいつかも確認します。同じ金利上昇局面でも、借入条件によって実際の返済負担へ影響する時期は異なります。
これは「今後必ず1%上昇する」という予測ではありません。金利環境が変わっても返済を続けられるかを確認するための、経営判断上のストレステストです。
収益物件であれば、金利だけではなく、賃料が5%程度下がった場合や、空室率の上昇、修繕費・管理費の増加、売却時の期待利回り上昇なども組み合わせて考えます。一つの条件だけではなく、複数の負荷が同時にかかった場合でも返済を続けられるかを見ることが重要です。
「最後は値上がりした土地を売ればよい」という前提だけでは、十分な返済計画とはいえません。取得時点の金利や不動産価格ではなく、環境が変わった後も返済原資を確保できるかまで確認してから借入条件を判断する必要があります。
海外要因は、為替・観光・建築コストへの波及で見る
結論:海外ニュースを一つずつ追うより、自社の不動産収益や資金繰りへどの経路で影響するかを確認する方が実務的です。
日本の不動産は国内資産ですが、価格形成は国内だけでは完結しません。
- 海外金利
- 為替
- インバウンド
- エネルギー・建築コスト
例えば観光需要では、直近2か月で次のような動きがありました。
| 7月 | 344万2,100人(7月として過去最高) |
|---|---|
| 8月 | 309万8,900人(前年同月比9.6%減) |
ここから分かるのは、単月の数字だけで「インバウンドは増え続ける」「減少に転じた」と判断してはいけないということです。ホテル、飲食、店舗などの不動産を取得する場合も、直近の高稼働率だけを基準にせず、需要が弱まった場合でも返済できるかを確認します。
外部環境が変わるたびに売買判断を変えるのではなく、自社の売上・原価・賃料・返済額へどう伝わるかまで落とし込んで考えることが重要です。
今確認すべきことと、慌てなくてよいこと
結論:今やるべきなのは、不動産を急いで売買することではありません。自社の賃料、返済額、資金繰りを複数シナリオで確認することです。
まず、会社の状況別に確認してほしいことを整理します。
| 会社の状況 | 今確認すること |
|---|---|
| 事務所・店舗を借りている | 契約更新時期、更新後の想定賃料、移転コスト |
| 自社ビル等の取得を検討 | 金利上昇後の返済額、手元資金、投資回収 |
| 不動産を保有している | 担保価値ではなく、営業CFと年間返済額 |
| 収益不動産を取得予定 | 賃料低下・空室・修繕費を含むストレステスト |
| 建設・設備・内装関連 | 3~6か月先の最大立替額と入金予定 |
一方で、次のように急いで結論を出す必要はありません。
「政策金利が上がったから、不動産を売らなければならない」
「地価が上昇しているから、今のうちに買わなければならない」
金利が上昇しても、賃料収入や事業収益がそれ以上に伸びる物件もあります。逆に、地価が上昇していても、十分な収益を生まない不動産を借入れで取得すれば、会社の資金繰りを圧迫します。
重要なのは相場観ではなく、自社の数字です。
よくある質問(FAQ)
金利が上がると、不動産価格は必ず下がりますか?
必ず下がるわけではありません。金利は下押し要因ですが、賃料、立地、需給、物件用途など複数の要因で価格は決まります。
日銀の政策金利が1.25%なら、企業の不動産融資も1.25%で借りられますか?
そうではありません。実際の融資金利は、企業の財務状況、返済原資、借入期間、担保条件、金融機関の審査などによって決まります。
金利が上がっているなら、自社ビル購入は見送った方がよいですか?
金利だけでは判断できません。賃料負担、取得後の事業効果、手元資金、返済原資を含めて比較する必要があります。
不動産の担保価値が上がれば、融資を受けやすくなりますか?
担保余力が増える可能性はありますが、融資可否は担保価値だけでは決まりません。事業内容、財務状況、返済原資なども確認されます。
まとめ|不動産価格ではなく、返済原資から順に判断する
結論:金利上昇局面で重要なのは、不動産価格の方向を当てることではありません。事業収益・資金繰り・返済原資を確認したうえで、不動産と借入条件を判断することです。
日本の不動産市場は、超低金利を前提とした時代から変わり始めています。政策金利は1.25%まで上昇しましたが、地価や賃料が上昇している地域もあり、市場が一律に弱くなっているわけではありません。
だからこそ、これからは「不動産が上がるか、下がるか」という相場観だけでは判断できません。自社ビルを買う、店舗を借りる、倉庫を取得する、不動産を担保に資金調達する――どの判断でも、私なら最初に不動産価格は見ません。
まず、その不動産を使って会社はいくら稼げるのかを確認する。次に、3か月後、6か月後の資金繰りが維持できるかを見る。そして、その利益やキャッシュフローから、金利が上がっても返済を続けられるかを確認する。その後に、不動産価格と借入条件を見ます。
今後の不動産市場で重要になるのは、「値上がりを当てること」よりも、金利、賃料、事業収益、返済原資を一つのストーリーとして説明できることだと私は考えています。
不動産取得に限らず、既存借入れ、設備資金、運転資金まで含めて資金調達の順番を整理する必要がある場合は、個別の商品から入るのではなく、資金需要と返済計画を一度整理することが重要です。
本記事は、当サイトのコンテンツポリシーに基づき、ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・三坂大作が執筆し、資金調達顧問・丹下浩一が監修しています。
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早稲田大学理工学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。法人営業・国際業務・市場営業・支店長・内部監査を歴任し、退職後は事業会社にて経営企画・業務統括責任者を経験。銀行の審査側の論理と事業会社経営の実情の双方に通じた資金調達のスペシャリストとして、中堅中小企業の"実行型支援"を展開。
早稲田大学理工学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。法人営業・国際業務・市場営業・支店長・内部監査を歴任し、退職後は事業会社にて経営企画・業務統括責任者を経験。銀行の審査側の論理と事業会社経営の実情の双方に通じた資金調達のスペシャリストとして、中堅中小企業の"実行型支援"を展開。







