公開日:2026.01.29
更新日:2026.01.29
【返済不要の資金調達】「エクイティファイナンス」の光と影|増資で会社を成長させるための基礎知識
「銀行への返済が毎月重い。返さなくてもいい資金があれば……」
経営者であれば、一度はその誘惑に駆られたことがあるはずです。
その願いを形にする資金調達方法が「エクイティファイナンス(資本による調達)」です。
銀行からの借入(デットファイナンス)とは異なり、原則として返済義務がなく、利息の支払いも発生しません。財務体質を一気に強化できる、非常に強力なカードです。
しかし、世の中に「タダで手に入るお金」など存在しません。返済義務がない代わりに、経営者は「自社株(経営権の一部)」を投資家に差し出す必要があります。
本記事では、企業の成長を加速させるエンジンとなるエクイティファイナンスについて、その仕組みや具体的な手法、そして経営者が覚悟すべき「コスト」と「責任」について解説します。
3分でわかる:エクイティファイナンスの本質
- 返済不要の成長資金:負債にならず財務体質を強化できるが、代償は「経営権」の譲渡。
- 経営権の希薄化に注意:3分の1以上の議決権を渡すと、重要事項の拒否権を握られるリスクがある。
- 出口戦略(出口)が必須:投資家はIPOやM&Aによるリターンを厳格に求めてくる。
- 「公の器」への脱皮:社長個人の私物経営を卒業し、透明なガバナンス体制が不可欠になる。
エクイティファイナンスとは何か?借入との決定的な違い
結論:エクイティファイナンスは新株発行により「返済不要の資本」を調達する手法であり、負債を増やさず財務体質を強化できるのが最大の特徴です。
経営者が直面する「光と影」の分岐点
【光】成長の加速
- キャッシュフロー:元本返済なし、全額を投資に集中
- 社会的信用:自己資本比率の向上、大手VCの「お墨付き」
- 事業シナジー:出資者からの顧客紹介やノウハウ提供
【影】支配権の譲渡
- 意思決定:株主総会・取締役会での承認プロセス増加
- 成長の重圧:年利15〜30%以上の成長を期待される
- 不可逆性:一度渡した株式の買い戻しは極めて困難
エクイティファイナンスとは、企業が新株を発行し、投資家に出資してもらうことで資金を得る行為、すなわち「増資」のことです。
貸借対照表(バランスシート)で見ると、銀行借入が「負債の部」を増やすのに対し、エクイティファイナンスは「純資産(資本)の部」を増やします。
財務体質の劇的な改善
最大のメリットは、調達した資金が「自己資本」とみなされる点です。
負債が増えると自己資本比率は下がりますが、増資を行えば自己資本比率は向上します。
これにより、会社としての安全性が高まり、銀行からの格付け(信用力)がアップするという副次的な効果も期待できます。
また、毎月の元本返済や利息支払いがないため、調達した現金をそのまま設備投資や人材採用などの「成長投資」にフル活用できる点も、スタートアップや急成長企業にとっては大きな魅力です。
なお、エクイティを検討する前に、まずは借入の可能性を探りたい方は、こちらの関連記事創業支援融資が借りられない場合の対処法も併せてご覧ください。
中小企業が活用する主な4つの増資手法
結論:中小企業では特定のパートナーから出資を仰ぐ「第三者割当増資」が主流であり、自社の成長フェーズや提携目的に応じた手法選択が重要です。
一口に増資と言っても、誰に株を持ってもらうかによっていくつかの手法に分かれます。ここでは代表的な4つの手法を紹介します。
第三者割当増資(最も一般的)
特定の第三者(投資家、事業会社、取引先、従業員など)を選定し、その人に新株を引き受けてもらう方法です。
中小企業やベンチャー企業が資金調達を行う場合、ほとんどがこの手法を用います。
縁故者やエンジェル投資家、ベンチャーキャピタル(VC)など、自社の事業に理解を示してくれるパートナーを「指名」して出資を仰ぐことができます。
株主割当増資
既存の株主全員に対して、その持株数に応じて新株を割り当てる方法です。
既存株主の持株比率が変わらないため、経営権のバランスを崩さずに資金調達ができます。
しかし、中小企業の場合は「社長=100%株主」であるケースも多く、その場合は単に社長個人の私財を会社に入れること(社長増資)と同義になります。
公募増資
不特定多数の投資家に対して新株発行の勧誘を行う方法です。
これは主に上場企業が行う大規模な資金調達手法です。
未上場の中小企業が公募増資を行うには、金融商品取引法に基づく届出や開示書類の作成など、極めて高いハードルがあるため、現実的な選択肢ではありません。
転換社債型新株予約権付社債(CB)
前回も少し触れましたが、「社債(借金)」として発行されながら、一定の条件下で「株式」に転換できる権利がついたものです。
投資家にとっては「株価が上がれば株式にして利益を得る、上がらなければ社債として利息をもらう」という選択権があります。
企業にとっては、将来的に借金が資本に変わる可能性があるため、デットとエクイティの橋渡し的な手法と言えます。
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エクイティファイナンスは強力ですが、一度実行するとやり直しが効きません。元銀行員・認定支援機関の視点から、最適な調達手法をアドバイスいたします。
「返済不要」の代償:経営権の希薄化と配当コスト
結論:エクイティファイナンスの真のコストは「金利」ではなく、将来にわたる「経営の自由度」と「出口(イグジット)への重い責任」です。
「返済しなくていいなら、これほど楽なことはない」と考えるのは早計です。外部から資本を受け入れるということは、会社の支配権を切り売りするのと同義です。
投資家はボランティアではありません。銀行が求める金利以上のリターンを、将来の利益や株式売却益として回収することを厳格に求めてきます。
三坂流・実務の警鐘
「口は出さない」という口約束ほど、経営の現場で裏切られるものはありません。
株主間契約(SHA)の内容次第では、社長一人の判断で1円の投資もできなくなる、あるいは取締役を解任されるリスクすらあります。
「船頭多くして船山に上る」事態を避けるためにも、契約前のリーガルチェックとパートナー選びは、資金調達そのものより重要です。
銀行融資であれば完済すれば関係は終わりますが、株式は一度渡すと買い戻すのは容易ではありません。
この「不退転の決意」こそが、エクイティファイナンスにおける最大のコストとなるのです。
経営の自由度が下がるリスク(希薄化)
外部の投資家に新株を発行するということは、経営者自身の持株比率が下がることを意味します。これを「希薄化(ダイリューション)」と呼びます。
持株比率は、会社の支配権そのものです。例えば、外部株主の比率が3分の1を超えると「重要事項の拒否権」を持たれることになりますし、過半数を握られれば経営陣の解任すら可能になります。
「お金は出してほしいが、口は出さないでほしい」というのは通用しません。株主は会社のオーナーの一人となるため、経営方針に対して意見を言う権利があります。
場合によっては、スピーディーな決断がさまたげられたり、経営者が思い描く事業が進めづらくなったりするおそれがあります。
配当政策とキャピタルゲインへの期待
利息の支払い義務はありませんが、利益が出た場合には「配当」による還元が求められます。
配当原資は税引後の利益から捻出するため、経費(損金)として計上できる支払利息とは異なり、節税効果はありません。
また、ベンチャーキャピタルなどの投資家は、配当以上に「キャピタルゲイン(株式の値上がり益)」を期待しています。
「数年後に上場(IPO)する」あるいは「大手企業にM&Aで買収される」といった出口(イグジット)戦略がない場合、彼らにとって投資するメリットは薄くなります。
つまり、エクイティファイナンスを受けるということは、外部からの強いプレッシャーの中で急成長を目指す「約束」をすることでもあるのです。
投資家を納得させる「エクイティストーリー」の重要性
結論:投資家は過去の実績よりも「将来の成長可能性」に出資するため、具体的かつ説得力のある事業計画(エクイティストーリー)が調達成功の鍵となります。
銀行融資の審査では「過去の実績(決算書)」と「返済能力」が重視されますが、エクイティファイナンスで重視されるのは「未来の物語(エクイティストーリー)」です。
ビジョンと成長戦略を語れるか
投資家は、現在の会社の規模ではなく、将来どれだけ化けるかにお金を出します。
「この資金を使ってどのような新製品を開発し、どの市場を狙うのか」「その結果、3年後、5年後に会社はどうなっているのか」という具体的な成長シナリオが必要です。
このシナリオ(事業計画)は、単なる夢物語ではいけません。市場データの裏付けや、競合優位性、そして何より「この経営チームなら実現できる」と思わせる説得力が不可欠です。
このストーリーを磨き上げ、投資家に熱意を持って伝えるプレゼンテーション能力が、経営者には求められます。
ガバナンスの変化:会社は「誰のもの」になるのか
外部資本を入れるということは、会社が「社長個人の私物」から「公の器(パブリックカンパニー)」へと脱皮することを意味します。
これまでのように、社長の勘だけでどんぶり勘定の経営をしたり、会社のお金を私的に流用したりすることは許されません。
定期的な取締役会の開催、予実管理の徹底、透明性の高い会計処理など、コーポレートガバナンス(企業統治)の体制整備が求められます。
これは一見面倒なことのように思えますが、企業が次のステージへ進むためには避けて通れない道です。
外部の目が入ることで経営の規律が保たれ、組織としての成熟度が上がることは、エクイティファイナンスの隠れたメリットとなります。
適切なガバナンスの第一歩として、中小企業の会計に関する基本指針に沿った透明性の高い会計処理が求められます。
エクイティファイナンスに関するよくある質問
Q.一度渡した株式を、将来的に買い戻すことは可能ですか?
A.理論上は可能ですが、実務上は極めて困難です。投資家は「将来の時価」での売却を求めるため、調達時より高額な資金が必要になります。最初から買い戻しを前提にする場合は、デット(借入)や種類株式の活用を検討すべきです。
Q.創業間もない赤字企業でも、エクイティでの調達はできますか?
A.はい、可能です。投資家は現状の利益ではなく「将来のキャッシュフロー」に期待します。赤字であっても、市場の成長性とそれを獲得できる独自のビジネスモデル(エクイティストーリー)があれば、数億単位の調達も夢ではありません。
Q.投資家から「役員を派遣したい」と言われたら拒否すべきですか?
A.ケースバイケースです。派遣役員が業界の強力なネットワークや専門知識を持っている場合、会社の成長を爆発的に加速させます。一方で、監視を目的とした派遣であれば経営の自由度が制限されるため、事前の役割定義が重要です。
まとめ
本記事では、返済不要の資金調達「エクイティファイナンス」について解説しました。
エクイティファイナンスは、借入金では賄えないほどのリスクマネーを調達し、事業を一気に加速させるための強力な手段です。
しかし、それは「会社の所有権を切り売りする」ことと表裏一体であり、一度渡した株式(経営権)を買い戻すのは容易ではありません。
「とりあえず返済がないから」という安易な理由で選ぶのではなく、「経営権を一部渡してでも、このパートナーと組んで大きな世界を見たい」という明確な戦略と覚悟がある場合にこそ、選択すべき道です。
銀行融資による堅実な成長と、増資による爆発的な成長。
自社のビジョンに合わせて、「支配権を守るのか、成長を優先するのか」。
この二者択一に正解はありません。経営者としての信念が試される瞬間です。
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東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。
東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。







