2025.12.12
実家の遺産を円満に分割したい!ローン活用のメリットと注意点
両親が高齢になってくると、相続について考え始めるかもしれません。特に、実家や土地などの不動産が遺産に含まれると、相続財産の公平な分割が難しくなります。「実家は残したいが、他の相続人にも公平に分けたい」「手元に現金がなく、代償金が払えない」といった悩みを抱える方は多いでしょう。
このような状況で活用できるのが、不動産担保ローンやリバースモーゲージといった金融商品です。本記事では、遺産分割時におけるローン活用方法について解説します。不動産を手放さずに遺産分割を円満に進める方法や、ローン活用時の注意点、手続きの流れなどを詳しく説明します。
- 実家を売らずに分けるなら「代償分割」+「ローン活用」が解決策
- 手元資金がなくても、相続不動産を担保に現金を調達できる
- 共有名義は将来のトラブルの元。ローンを使ってでも「単独名義」にすべき
- 法人経営者なら、ビジネスローン活用で事業資金と合わせて解決可能
遺産分割における代償分割
遺産分割(国税庁No.4176)方法には、いくつかの種類がありますが、不動産が含まれる場合によく用いられるのが代償分割です。
(不動産を取得)
(不動産を担保に融資)
(代償金を受取)
💡 不動産を売却せず、ローンで得た現金を他の相続人に渡すことで、円満かつ公平な分割が可能になります。
代償分割の仕組み
代償分割とは、特定の相続人が不動産などの財産を取得する代わりに、他の相続人に対して金銭(代償金)を支払う方法です。例えば、実家を長男が相続し、その代わりに、実家の価値に応じた金額を他の兄弟に支払うといったケースが代表的です。
この方法の最大の利点は、不動産などの分割しにくい財産を分割せずに済むことです。特に、思い入れのある実家や事業用の不動産を分割せずに継承できるため、多くの相続で採用されています。
ただし、代償分割を選択する場合、代償金を支払う側に十分な資金が必要となります。不動産の評価額が高額な場合、支払うべき代償金も高額になるため、資金繰りが課題となることが少なくありません。
銀行員時代、最も融資審査で難航したのは「不動産が兄弟間の共有名義になっているケース」です。共有状態では、将来その不動産を担保に事業資金を借りようとしても、他の共有者全員の同意(実印)が必要となり、事実上の「資産凍結」状態に陥ります。
将来の自由度を確保するためにも、無理をしてでもローンを活用し、代償金を支払って「単独所有」にしておくことを強く推奨します。
代償分割が必要となるケース
代償分割が選択されるのは、主に次で挙げるようなケースです。
まず、相続財産の大部分が不動産で構成されているケースです。現金や預貯金が少なく、不動産が主な財産である場合、それを物理的に分割することは困難です。このような場合、一人の相続人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払うことで解決を図ります。
また、実家に住み続けたい相続人がいる場合も代償分割が適しています。親の死後も実家に住み続けたい子どもがいる一方で、他の子どもたちにも相続権がある場合、実家に住む子どもが不動産を取得し、他の子どもたちに代償金を支払うことで円満な解決が可能になります。
さらに、事業用不動産がある場合も代表的なケースです。親の事業を継ぐ子どもがいる場合、事業用不動産を分割してしまうと、事業継続が困難になります。このような場合も、事業を継ぐ子どもが不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払うことで解決できます。
遺産分割時の代償金支払いへのローンの活用
結論:一般的には「不動産担保ローン」が検討されますが、銀行の担保査定には数週間〜1ヶ月以上かかることが大半です。「遺産分割協議を早くまとめたい」「納税期限が迫っている」という場合は、審査スピードが早い「無担保のビジネスローン」で現金を用意する方がスムーズなケースも多々あります。
代償分割を行う際に課題となるのが、代償金の支払いです。手元に十分な資金がない場合、ローンを活用する方法が考えられます。
不動産担保ローン
不動産担保ローンは、相続した不動産を担保として金融機関から融資を受ける方法です。この融資で得た資金を、代償金として他の相続人に支払うことができます。
不動産担保ローンの最大の特徴は、無担保ローンと比較して高額な融資枠を確保しやすい点です(※審査により異なります)。一般的に、不動産評価額の50〜70%程度を目安に融資を受けられるケースが多く、代償金の支払いに必要なまとまった資金調達に適しています。
金利は、固定金利と変動金利があり、返済期間は通常5〜35年程度設定できます。年齢や収入によって、借入可能額や返済期間が制限される場合もあるため、事前に金融機関に相談することが重要です。
ただし、不動産担保ローンは、月々の返済が必要となるため、安定した収入源がある方に適した方法です。返済計画をしっかり立てておかないと、将来的に返済が困難になるリスクがあります。
リバースモーゲージ
リバースモーゲージは、主に高齢者向けの融資商品で、自宅などの不動産を担保に融資を受け、借入者が亡くなった後に不動産を売却して返済する仕組みです。
通常のローンとは異なり、生存中の返済義務が限定的であるため、収入が少ない高齢者でも利用しやすいのが特徴です。月々の返済は金利のみか、もしくは返済不要(融資元金に金利が加算される形式)となる商品もあります。
遺産分割においては、実家を相続した高齢の相続人が、リバースモーゲージを利用して代償金を捻出するケースが考えられます。例えば、60代以上の親と同居していた子どもが実家を相続し、リバースモーゲージで資金を調達して、他の兄弟に代償金を支払うといった使い方です。
ただし、リバースモーゲージは、提供している金融機関が限られており、審査基準も厳しい傾向があります。また、不動産の評価額や借入者の年齢によって借入可能額が変わるため、代償金全額をカバーできるかどうかは個別のケースによります。
その他の選択できるローン
不動産担保ローンやリバースモーゲージ以外にも、遺産分割時に活用できるローンがあります。
フリーローンやカードローンは、担保不要で比較的手軽に利用できる融資商品です。代償金が少額の場合や、一時的な資金不足を補う目的で利用できます。ただし、融資上限額が不動産担保ローンと比べて低く、金利も高めに設定されているため、少額の資金調達に適しているといえるでしょう。
また、親族間融資という選択肢もあります。親族から借り入れを行い、代償金を支払うという方法です。法的には、金銭消費貸借契約を結ぶことで、正式な借入として扱うことができます。ただし、後々のトラブルを避けるためにも、きちんと契約書を作成し、返済条件を明確にしておくことが重要です。
さらに、遺産分割の方法を工夫することで、一時的な代償金の支払い負担を軽減する方法もあります。例えば、分割払いによる代償分割を遺産分割協議で合意するといった方法です。この場合、公正証書を作成するなど、合意内容を法的に明確にしておくことが望ましいでしょう。
ローン活用のメリット
遺産分割時にローンを活用することには、いくつかの重要なメリットがあります。
円満な遺産分割を実現できる
ローンを活用することで、相続人全員が納得できる遺産分割が可能になります。特に不動産が主な遺産である場合、物理的な分割が難しく、相続人間で不公平感が生じやすいものです。
ローンで調達した資金を代償金として支払うことで、不動産を取得する相続人と現金を受け取る相続人の双方が納得できる解決策となります。これにより、相続をめぐる家族間の対立を防止できるのです。
また、感情的な対立が少ないことで、相続手続きもスムーズに進みやすくなります。遺産分割協議がまとまらないと、家庭裁判所での調停や審判に発展することもありますが、ローン活用により円満な解決ができれば、そうした時間と手間のかかる手続きを避けることができます。
実家を売却せずに済む
多くの人にとって、親の残した実家には思い出や愛着があります。しかし、他の相続人への代償金を支払う資金がなければ、不本意ながら、実家を売却せざるを得ないケースも少なくありません。
ローンを活用することで、実家を売却せずに継続して所有することが可能になります。これにより、家族の思い出が詰まった実家に住み続けることができたり、将来的な資産として保有し続けることができたりします。
特に、親と同居していた子どもにとっては、住み慣れた家に住み続けられることは大きなメリットです。また、不動産市場の状況が芳しくない時期に無理に売却する必要がなくなるため、資産価値を守る観点からも有利といえるでしょう。
代償金を捻出しやすい
相続発生時に、代償金として一括で大きな金額を支払う必要がある場合、多くの人は資金の捻出に苦労します。特に不動産の価値が高額な場合、代償金も高額になりがちです。
ローンを活用することで、この一時的な資金負担を長期間に分散させることができます。月々の返済という形で計画的な資金計画が立てやすくなり、家計への影響を最小限に抑えることが可能です。
また、不動産を売却して現金化する場合と比べて、税務上のメリットが生じる可能性もあります。不動産を売却すると譲渡所得税がかかる場合がありますが、ローンを利用して保有し続ければ、こうした税負担を回避または先送りできることもあります。
さらに、将来的に資金状況が改善した場合には、繰り上げ返済によってローン負担を軽減することも可能です。このように、ローン活用は短期的な資金調達だけでなく、長期的な資産管理の観点からも柔軟性をもたらします。
遺産分割時に受けるローンの審査におけるポイント
遺産分割のためにローンを利用する場合、一般的なローンと同様に審査があります。審査をスムーズに通過するためのポイントを理解しておきましょう。
収入と返済能力
ローン審査で最も重視されるのが、安定した収入と返済能力の有無です。金融機関は、借入希望者の年収や職業、勤続年数などを確認し、返済能力を判断します。
一般的に、年収に対する返済負担率(年間の返済額÷年収)が一定基準以下であることが求められます。多くの金融機関では、この比率が30〜40%以下であることを目安としています。そのため、安定した収入証明を準備することが重要です。
会社員であれば源泉徴収票や給与明細、自営業者であれば確定申告書や決算書が必要になります。特に自営業者の場合は、複数年分の収入証明を求められることが多いため、直近2〜3年分の書類を用意しておくとよいでしょう。
また、他のローンやクレジットカードの返済状況も審査対象となります。過去に返済遅延があると、審査に悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
もしあなたが法人経営者や個人事業主であれば、個人の住宅ローンとして申し込むよりも、「事業性融資(ビジネスローン)」として不動産担保活用を検討する方がスムーズな場合があります。特に決算書の内容によっては、個人の年収審査よりも柔軟に対応してもらえるケースがあるため、選択肢を狭めないことが重要です。
担保となる不動産の評価
不動産担保ローンやリバースモーゲージでは、担保となる不動産の評価が融資額を左右します。金融機関は、独自の基準で不動産の担保評価額を算出し、その一定割合を上限として融資を行います。
不動産の担保評価では、立地や建物の状態、築年数などが考慮されます。特に築年数が古い物件や、地方の需要が低い地域の不動産は、市場価値より低く評価される傾向があります。
また、不動産に既存の抵当権がある場合、その残債を差し引いた価値が担保評価の対象となります。そのため、すでに住宅ローンなどで抵当権が設定されている場合、新たに借りられる金額は制限されることになります。
担保評価を高めるためには、不動産の登記事項証明書や固定資産税評価証明書、場合によっては不動産鑑定評価書などを準備し、物件の価値を適切に伝えることが重要です。
年齢や健康状態
借入者の年齢や健康状態も、ローン審査において重要な要素です。一般的な住宅ローンでは、返済終了時の年齢に上限が設けられていることが多く、高齢者の場合は融資を受けられない、または返済期間が短くなるケースがあります。
例えば、多くの金融機関では、返済終了時の年齢が80歳以下という条件があります。60歳の方が申し込む場合、最長でも20年の返済期間となり、月々の返済額が高くなる可能性があります。そのため、年齢に応じた返済計画を立てることが重要です。
リバースモーゲージの場合は逆に、一定以上の年齢(多くは55〜60歳以上)であることが条件となります。また、契約時に健康診断を求められることもあります。
健康状態については、団体信用生命保険への加入が融資条件となっているケースが多いため、持病がある場合は、事前に金融機関に相談することをお勧めします。場合によっては、保証人や連帯保証人を立てることで、融資を受けられることもあります。
ローン活用時の法的な手続き
遺産分割でローンを活用する際には、適切な法的手続きを踏むことが重要です。手続きを正確に行うことで、将来的なトラブルを防止できます。
遺産分割協議書の作成
遺産分割でローンを活用する場合、まずは、相続人全員の合意による遺産分割協議書の作成が必要です。この文書は、誰がどの財産を相続し、代償金をいくら支払うかなどを明記した重要な合意書です。
遺産分割協議書には、相続財産のリストとその評価額、各相続人の取得分、代償金の金額と支払い方法、支払い期限などを明確に記載すべきです。特に、ローンを利用して代償金を支払う場合は、その旨も記載しておくと良いでしょう。
協議書は、相続人全員が署名・押印する必要があります。また、後々のトラブルを避けるためにも、単なる私文書ではなく、公正証書として作成することをお勧めします。公正証書にすることで、法的な強制力が生まれ、万が一代償金の支払いが滞った場合でも、裁判手続きを経ずに強制執行できるようになります。
なお、遺産分割協議書の作成には、相続財産の正確な把握と評価が前提となります。不動産の評価額は、相続税評価額、固定資産税評価額、市場価格など複数の基準がありますが、相続人間で合意できる評価方法を選択することが重要です。
登記手続き
遺産分割協議が成立したら、不動産の名義変更(相続登記)と、ローンのための抵当権設定登記が必要になります。これらの登記手続きは、原則として司法書士に依頼するのが一般的です。
まず、相続登記では、被相続人(亡くなった方)名義の不動産を相続人の名義に変更します。この手続きには、遺産分割協議書のほか、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本や住民票、印鑑証明書などが必要です。相続登記は、法定期限内に完了させる必要があります。
次に、ローンを利用する場合は、金融機関のために抵当権設定登記を行います。これは、ローン契約と同時に進められることが多く、金融機関の指示に従って必要書類を準備します。抵当権設定登記には、登録免許税などの費用がかかります。
なお、2024年4月からは相続登記が義務化され(不動産登記の申請義務化(法務局))、正当な理由なく期限内(相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内)に申請しなかった場合、過料が科される可能性があります。そのため、遺産分割協議が成立したら、速やかに登記手続きを進めることが重要です。
ローン活用時の注意点
遺産分割時にローンを活用する方法には、多くのメリットがありますが、同時に注意点も存在します。これらのリスクを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
返済不能時のリスクの大きさ
ローンを利用する最大のリスクは、返済が困難になった場合の問題です。特に不動産担保ローンの場合、返済が滞ると、最終的には担保不動産が競売にかけられる可能性があります。
このリスクを軽減するためには、まず、無理のない返済計画を立てることが重要です。月々の返済額が収入に対して過大にならないよう、十分な余裕をもった計画を立てましょう。一般的には、月収の25〜30%以内に月々の返済額を抑えることが推奨されています。
また、万が一の事態に備えて、団体信用生命保険への加入も検討すべきです。この保険は、借入者が死亡または高度障害状態になった場合に、残りのローン残高が保険金で返済される仕組みです。多くの金融機関では、住宅ローンなどの長期ローンに団信加入を義務付けていますが、任意の場合もあります。
さらに、収入が不安定な場合は、ある程度のまとまった資金を緊急時の返済資金として確保しておくことも有効です。3〜6か月分の返済額に相当する資金を準備しておけば、一時的な収入減少にも対応できます。
金利変動のリスク
変動金利型のローンを選択した場合、将来的な金利上昇によって、返済額が増加するリスクがあります。特に長期間のローンでは、この金利変動リスクが大きな影響を与える可能性があります。
このリスクへの対策としては、まず、固定金利型を選択するという方法があります。固定金利では、契約期間中は金利が変わらないため、返済計画が立てやすいというメリットがあります。ただし、変動金利と比較して、当初の金利が高めに設定されていることが多いため、総返済額とのバランスを考慮する必要があります。
また、変動金利と固定金利を組み合わせたミックス型ローンの活用も一つの選択肢です。ローン全体の一部を固定金利、残りを変動金利にすることで、リスクを分散させることができます。
さらに、金融情勢を定期的にチェックし、金利上昇が予測される場合には、可能であれば固定金利への借り換えや繰り上げ返済を検討することも有効です。特に、借入当初は元金の減少が遅いため、この時期に繰り上げ返済を行うことで、総返済額を大きく減らすことができます。
相続人の間のトラブル
ローンを活用した遺産分割では、後々相続人間でトラブルが発生するリスクもあります。特に代償金の支払いが滞った場合や、不動産の価値に関する評価が分かれる場合などに、問題が生じやすくなります。
こうしたトラブルを防止するためには、遺産分割協議の段階で詳細な取り決めを文書化することが重要です。遺産分割協議書には、不動産の評価方法、代償金の金額、支払い方法と期限、支払いが滞った場合の対応などを明確に記載しましょう。
また、代償金の支払いスケジュールを守れるよう、返済計画は保守的に立てることをお勧めします。余裕をもった計画であれば、一時的な収入減少があっても約束を守りやすくなります。
さらに、遺産分割協議書は、私文書ではなく公正証書として作成することで、法的強制力を持たせることができます。公正証書であれば、代償金の支払いが滞った場合に、裁判を経ずに強制執行が可能になるため、トラブル解決が容易になります。
相続問題は、感情的な側面も大きいため、必要に応じて弁護士や専門の相続コンサルタントなど、第三者の専門家を交えて協議を進めることも、トラブル防止に効果的です。
まとめ
遺産分割において、不動産を中心とした財産を円満に分割するためには、ローンの活用が有効な選択肢となります。代償分割の方法で不動産を取得し、ローンで調達した資金を代償金として他の相続人に支払うことで、実家などの大切な不動産を手放さずに済みます。
ただし、ローン活用には、メリットだけでなくリスクも伴います。返済不能になった場合の不動産競売リスクや金利変動リスク、相続人間のトラブルなどに備えて、適切な計画と対策が必要です。遺産分割協議書の作成や登記手続き、税金面での配慮など、法的・税務的な側面にも注意が必要でしょう。
遺産分割をスムーズに進めるためには、弁護士、税理士、金融機関など各分野の専門家に相談することをお勧めします。専門家のサポートを受けながら、相続人全員が納得できる遺産分割を目指しましょう。
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