公開日:2024.12.06
更新日:2026.07.31
日本政策金融公庫の審査基準|落ちる理由と通過率を上げる対策
日本政策金融公庫は審査基準を公表していません。それでも、公表されている制度要件と提出書類から、評価される軸は4つに整理できます。
- 審査基準は「経済環境」「業績・財務」「経営者の資質」「事業計画の実現性」の4軸
- 落ちる最大の要因は、個人信用情報の問題と税金・社会保険料の滞納
- 融資実行までは初回でおおむね1か月〜1か月半、再申込みは6か月以上空ける必要がある
- 2024年3月末に新創業融資制度が廃止され、自己資金要件は撤廃された
- 新型コロナウイルス感染症特別貸付は終了し、返済負担の軽減は別制度に役割が移っている
本記事は、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)で法人融資とコーポレートファイナンスを担当し、独立後30年以上にわたって中小企業の資金調達を支援してきた三坂大作が監修しています。借り手側の一般論ではなく、審査する側が決算書のどこを見て、どこで判断を分けるのかという視点で構成しました。
数値・制度要件はすべて2026年7月1日現在の公式情報に基づいています。数年前の情報のまま準備を進めると前提から噛み合わなくなる領域なので、時点を明記しています。
- 公庫が公表している情報と、公表していない情報の切り分け
- 審査で評価される4つの基準と、決算書で見られる財務指標の目安
- 審査に落ちる理由と、落ちた後にとるべき順番
- 制度ごとの限度額・返済期間・利率
- 面談で実際に聞かれることと、答え方でマイナスになるパターン
日本政策金融公庫とは
政府が100%出資する政策金融機関で、法律上の任務は「一般の金融機関が行う金融を補完すること」です。この一語が、公庫の審査を理解する出発点になります。
- 2008年10月設立、全国152支店
- 国民生活事業/中小企業事業/農林水産事業の3事業+危機対応等円滑化業務
- 民間で対応が難しい創業期・業績悪化局面の事業者を対象にできる
- ただし「補完」は「審査が緩い」という意味ではない
政府系金融機関としての役割
公庫の役割は、株式会社日本政策金融公庫法の第1条に明記されています。要点は、一般の金融機関が行う金融を補完することを旨としつつ、国民一般・中小企業者・農林水産業者の資金調達を支援すること。加えて、金融秩序の混乱や大規模災害、感染症などによる被害に対処するために必要な金融を担うことが定められています。
つまり公庫は、民間金融機関と顧客を奪い合う存在ではありません。民間では対応が難しい領域を引き受けることが法律上の任務です。
3つの事業と危機対応等円滑化業務
公庫は3つの事業部門と、危機対応等円滑化業務で構成されています。
- 国民生活事業:小規模事業者・個人事業主向けの小口融資が中心
- 中小企業事業:中小企業向けの長期資金が中心
- 農林水産事業:農林漁業者・食品産業事業者向け
- 危機対応等円滑化業務:災害や金融危機時に、指定金融機関を通じて資金供給を支える
本記事の読者が関わるのは、ほとんどが国民生活事業か中小企業事業です。両者は規模がまったく異なります。
| 国民生活事業 | 中小企業事業 | |
|---|---|---|
| 主な融資制度の限度額 | 7,200万円 | 7億2,000万円 |
| 1先あたりの平均 | 融資残高 約800万円 | 融資金額 約9,000万円 |
| 利用先の特徴 | 約9割が従業者9名以下 | 約8割が従業員20名以上 約9割が資本金1,000万円以上 |
平均融資残高が約800万円という数字は重要です。国民生活事業は限度額7,200万円の制度を持ちながら、実際の1先あたり残高はその9分の1程度にとどまります。限度額まで借りられる前提で資金計画を立てると、まず狂うということが、この1行から読み取れます。
民間金融機関との違いと「補完」の意味
「補完」を具体的に言い換えると、公庫は次のような事業者を対象にできるということです。
- 業歴や返済実績が足りず、銀行融資の土俵に乗らない創業期の会社
- 業績や財務の悪化により、銀行から新規融資を受けられない会社
- 外部環境の急変で一時的に業況が悪化した会社
民間の銀行は、過去の実績と現在の財務内容から返済能力を測ります。実績がなければ判断材料がなく、貸せません。公庫はここに事業計画の実現可能性という軸を持ち込みます。だからこそ、創業前の事業者にも融資ができます。
ただしこれは「審査が甘い」という意味ではありません。判断材料が違うだけで、その材料に対する厳しさは民間以上の場面もあります。
日本政策金融公庫を利用するメリット・デメリット
最大の利点は金利と返済条件、最大の難点はスピードです。公庫は「安く長く借りる」ための調達先で、「急いで借りる」ための調達先ではありません。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 創業期でも融資対象になる/ノンバンクの3分の1以下の金利/設備20年・運転10年の長期返済/据置期間を最長5年設定可/無担保・無保証で使える制度がある/返済実績が今後の信用になる |
| デメリット | 融資実行まで1か月〜1か月半/提出書類が多い/金利の交渉余地がない/限度額いっぱいの借入は困難/経営者個人の信用情報を必ず確認される |
融資を受けやすく、信用にもつながる
銀行融資に比べて入口のハードルが低く、業歴の浅さや直近の業績悪化を理由に一律で断られることがありません。
さらに見落とされがちなのが、返済実績そのものが資産になるという点です。創業期の会社やリスケジュール完了直後の会社は、民間金融機関との取引実績がなく、信用を証明する材料を持っていません。公庫から借り入れて約定どおり返済していけば、それが返済能力の実証になります。その後の銀行融資や信用保証協会付き融資の交渉で、明確な好材料として働きます。
低金利・長期返済が可能
国民生活事業の無担保基準利率は年3.45〜5.20%です(2026年7月1日現在)。ノンバンクのビジネスローンが年10〜14%程度であることを踏まえると、基準利率でもおよそ3分の1、特別利率が適用されれば4分の1以下の水準です。しかも固定金利なので、借入時点から完済まで返済額が変わりません。
| 区分 | 基準利率 | 特別利率A | 特別利率B | 特別利率C |
|---|---|---|---|---|
| 無担保・税務申告2期終えている | 3.50〜5.20% | 3.10〜4.80% | 2.85〜4.55% | 2.60〜4.30% |
| 無担保・2期終えていない | 3.45〜5.15% | 3.05〜4.75% | 2.80〜4.50% | 2.55〜4.25% |
| 有担保 | 2.50〜4.80% | 2.10〜4.40% | 2.00〜4.15% | 1.95〜3.90% |
返済期間の長さも大きな利点です。新規開業・スタートアップ支援資金なら設備資金は20年以内、運転資金は10年以内で、いずれも据置期間を5年以内まで設定できます。据置期間中は元金の返済が猶予され、利息のみの支払いになるため、事業が軌道に乗るまでの資金繰り負担を抑えられます。
ただし据置期間中の利息支払いは返済実績としてカウントされません。追加融資を視野に入れているなら、据置期間はあえて短めに設定する判断もあり得ます。
過去の業績を重視しない
公庫は過去の業績だけで判断しません。創業前の事業者には過去の業績が存在しませんが、それでも融資が実行されている事実がその証拠です。
業歴のある会社も同じです。過去の決算が悪くても、改善に向けた具体的な計画があれば融資の対象になり得ます。逆に言えば、将来の計画を材料に融資を引き出せるのが公庫の特徴です。ただし「計画さえあればよい」わけではなく、その計画に数値の裏付けがあるかどうかが厳しく見られます。
無担保・無保証で借りられる制度がある
代表例がマル経融資(小規模事業者経営改善資金)です。限度額2,000万円、返済期間10年以内(据置2年以内)、担保・保証人は不要。商工会議所や商工会の経営指導を受け、その長の推薦を受けることが条件になります。
新規開業・スタートアップ支援資金は「担保・保証人はお客さまのご希望を伺いながら相談」という扱いで、創業期については原則として無担保・無保証人での取り扱いが可能です。あわせて経営者保証免除特例制度を併用でき、この場合の上乗せ利率はありません。
ただし、すべての制度が無担保・無保証というわけではありません。一般貸付など担保・保証人を相談のうえ決める制度もあり、有担保にすれば利率が下がるという関係にあります。無担保・無保証が基本と考えるのは誤りです。
金利に柔軟性がない
公庫の利率は、制度と要件によって基準利率か特別利率かが機械的に決まります。一見すると選択肢が多いように見えますが、実際には交渉の余地がほとんどありません。
民間の銀行融資は、業績推移・財務内容・融資以外の取引・融資シェアなどを総合的に見て、金融機関の裁量で金利を決めます。取引深耕の見返りに優遇を受けられることもあります。公庫にはこの余地がありません。特別利率の要件に該当するかどうかを事前に確認し、該当するように準備を整えることが、公庫における唯一の金利対策です。
提出書類が多く、融資実行まで時間がかかる
初回の申込みであれば、融資実行までおおむね1か月から1か月半程度を見ておく必要があります。
期間が延びる要因もあります。公庫は支店数に対して案件数が多く、繁忙期や経済情勢の悪化局面では処理が滞りがちです。書類の不備があれば追加提出でさらに時間がかかります。今月末の支払いに間に合わせるという使い方には向きません。
多額の融資は厳しい
国民生活事業の主な融資制度の限度額は7,200万円ですが、前述のとおり1先あたりの平均融資残高は約800万円です。限度額に近い借入は現実的なハードルが高いと考えるべきです。
実務上の感覚として、支店の決裁で収まる範囲を超えると本部決裁に上がり、審査の厳格さが一段変わります。金額が大きくなるほど、事業計画・財務内容・資金使途の説明に求められる精度が上がると理解しておいてください。なお決裁権限の具体的な金額は公庫が公表しているものではなく、筆者の実務経験に基づく目安です。
経営者個人の信用情報を必ず見られる
民間金融機関でも経営者の個人信用情報を照会することはありますが、必ず確認されるとは限りません。一方、公庫は代表者の個人信用情報を必ず確認します。
ここで最も多い失敗は、照会されている事実を知らずにノンバンクからの借入を申告しないことです。隠した事実が判明した時点で、金額の問題ではなく申告内容の信頼性の問題に変わります。これが原因で融資を受けられなくなるケースは非常に多いので、必ず正直に申告してください。
日本政策金融公庫の審査通過率は公表されているのか
公庫は審査基準も審査通過率も公表していません。ネット上で流通する「通過率50〜60%」という数字に公式な裏付けはありません。
- 公庫総合研究所の「新規開業実態調査」にも、申込みに対する承認率のデータは含まれない
- したがって他の金融機関と審査難易度を数値で比較することはできない
- ただし公表されている制度要件から、評価の軸は高い精度で読み取れる
「通過率○%」に根拠がない理由
公庫総合研究所は1991年度から毎年「新規開業実態調査」を公開していますが、これは融資を受けた企業の実態を把握するための調査です。申込件数に対して何件が承認されたかという数字は含まれていません。
つまり「通過率○%だから自社も○%の確率で通る」という考え方は成り立ちません。数字を探すことに時間を使うより、評価される軸を理解して準備するほうが確実です。
では何がわかるのか。公庫が公表している制度要件から、評価の軸は相当な精度で読み取れます。たとえば公庫はセーフティネット貸付の適格要件のなかで「債務償還年数が15年以上である方」という指標を明示的に使っています。制度要件として使われる指標は、審査の場でも当然に見られています。
「審査が甘い」という評判の正体
「公庫の審査は甘い」という評判は、半分正しく半分誤りです。
正しいのは、銀行融資に通らない会社でも公庫なら通る場面が確かにあるという点です。創業前で実績がない会社、直近の決算が赤字の会社、リスケジュールを完了した直後の会社。民間金融機関では判断材料が足りず、あるいはリスクが取れず断られるケースでも、公庫は融資を実行することがあります。
誤りは、これを「基準が緩い」と受け取ることです。公庫は民間とは異なる基準で審査しています。経済環境、経営者の資質、事業の将来性を評価に組み込むため、結果として業績・財務の比重が相対的に小さくなる。それだけのことで、その基準に照らして問題があれば当然に落ちます。
実際、公庫が数値をチェックする厳格さは民間以上の場面があります。後述しますが、公庫は決算書だけでなく総勘定元帳の仕訳データまで確認します。これは民間の銀行融資では珍しい深度です。
財源が財政投融資であるため使途は厳しく見られる
公庫の貸出金の財源は、政府の財政投融資です。財投債などを通じて調達されており、突き詰めれば国民から預かった資金です。営利目的で集めた資金ではありません。
わざわざ国が資金を確保して事業者に貸し出すのですから、使い方は慎重に判断されます。融資を受けた会社が経営を継続し、雇用が維持・拡大され、経済が成長する。この目的に適う効率的・効果的な運用が求められます。
だからこそ、資金使途の説明が曖昧な案件は通りません。「運転資金として」だけでは足りず、何にいくら必要で、それがどう売上や利益に結びつくのかを説明できなければなりません。「政府系だから借りやすい」という理解のまま臨むと、この点で足元をすくわれます。
日本政策金融公庫の審査基準4つ
公表されている情報と実務から見えてくる評価軸は、次の4つです。民間金融機関と同じように業績・財務も見ますが、それだけではありません。
| 審査基準 | 見られるポイント |
|---|---|
| 経済環境・外部環境 | 業況悪化が外的要因によるものか、客観的データで示せるか |
| 業績・財務 | 決算書の内容、総勘定元帳の仕訳データ、融資可能額の水準 |
| 経営者の資質 | 代表者のみの面談で、経営への関与度・中長期視点・誠実さ |
| 事業計画・返済計画の実現性 | 数値の裏付け、売上増加の具体的な手立て、矛盾の有無 |
経済環境・外部環境
景気が急速に悪化する局面では、公庫は積極的に融資する傾向があります。理由は制度の設計にあります。
経済環境が悪化すると多くの会社が資金繰り難に陥りますが、その全てを民間金融機関に任せることはできません。銀行が積極融資に踏み込めば貸倒れが増え、金融システム自体が揺らぎます。逆に銀行が慎重になれば、資金ショートで倒れる会社が続出します。この間を埋めるのが「民間金融機関の補完」という公庫の役割です。
実際、公庫には経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)という制度が用意されており、売上高が前期比5%以上減少しているなど、外的要因による業況悪化に対応できる設計になっています。
したがって、自社の業績悪化が外部環境に起因するものであれば、それを客観的なデータで示すことは審査上プラスに働きます。逆に、内部の経営問題を外部環境のせいにする説明は見抜かれます。
業績・財務
決算書の内容は特に重要で、ここから財務内容、業績推移、売上規模を把握し、融資可能額の水準が決まります。
注意したいのは深度です。公庫は総勘定元帳で仕訳データまで確認します。数値のチェックという点では、銀行融資より厳しいと考えたほうがよいでしょう。決算書の表面だけを整えても、元帳と突き合わせた時点で矛盾が出れば説明を求められます。
そして、決算内容が悪ければ制度上の限度額いっぱいの借入は困難です。銀行融資を断られて公庫に相談するという経緯であれば、そもそも決算内容には課題があるという前提で考えるべきです。融資限度額を基準に資金調達計画を立てると、まず計画どおりにいきません。
経営者の資質
公庫に融資を申し込むと、担当者との面談があります。このとき、経理担当者や税理士・コンサルタントの同席は認められず、代表者だけで面談します。
経営の現状、資金使途、経営計画について直接質問し、代表者本人がどう答えるかを見ます。確認されているのは次のような点です。
- 経営者が自ら経営に取り組んでいるか(部下や専門家に丸投げしていないか)
- 中長期を見据えて経営しているか
- 資金使途の説明に矛盾がないか
- 経営者としての人間性・誠実さ
ここで好印象を与えられれば、決算内容に課題があっても融資が実行される可能性が出てきます。逆に、書類は整っているのに面談で数字を答えられない、想定質問に答えが噛み合わないという状態だと、書類の信頼性そのものが疑われます。
代表者だけで臨む以上、専門家に作らせた計画書の内容を自分の言葉で説明できるかどうかが分水嶺になります。
事業計画・返済計画の実現性
公庫は事業計画書や創業計画書の提出を求め、将来性を審査します。ここが民間金融機関と大きく異なる点です。
新規開業・スタートアップ支援資金の公式ページには、適格要件として「新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方」に限る、と明記されています。制度上の要件として事業計画が位置づけられているわけです。
求められるのは実現性です。売上増加を計画するなら、どのように伸ばすのかという具体的なプランが必要になります。よくある矛盾は次の2つです。
- 売上が増える計画になっているのに、増やすための手立てが書かれていない
- 売上が増えているのに、仕入や人件費などの必要経費が横ばいで推移している
後者は資金繰りの基本を理解していないと起こりがちな矛盾です。売上が伸びれば仕入も先行し、運転資金の必要額も増えます。そこが反映されていない計画は、実現性を疑われます。
融資可否は担当者の総合判断で決まる
4つの基準はいずれも重要ですが、点数化された画一的な基準があるわけではありません。融資の可否は、申込者の状況を担当者が総合的に判断して決定されます。
だからこそ、必要書類を丁寧に準備し、事業計画への理解と熱意を審査の場で十分に伝えられるかどうかが結果を左右します。申込みは事務手続きではなく、担当者に事業を理解してもらう機会だと捉えてください。
審査担当者が決算書で見る財務指標
決算書のどこを見るかは、返済能力に直結する4つの指標に集約されます。公庫は審査基準を公表していませんが、制度要件のなかで実際に使われている指標もあります。
| 指標 | 計算式 | 目安 |
|---|---|---|
| 債務償還年数 | 有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー | 10年以内が望ましい。15年以上は要注意水準 |
| 自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資本 | 高いほど安全性が高い。債務超過は最も重い減点 |
| 簡易キャッシュフロー | 税引後利益 + 減価償却費 | 返済原資そのもの。マイナスは融資が困難 |
| 売上高経常利益率 | 経常利益 ÷ 売上高 | 前期・前々期からの推移が見られる |
債務償還年数
有利子負債を簡易キャッシュフローで割った数値で、「いまの利益水準で借入を返し切るのに何年かかるか」を示します。融資審査で最も重視される指標のひとつです。
この指標が公庫の審査で使われていることは、制度要件から確認できます。経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)の適格要件のひとつに、「前期の決算期において税引前損益または経常損益で損失を生じており、最近の決算期において利益が増加したものの債務償還年数が15年以上である方」という記述があります。
つまり公庫は、債務償還年数15年以上を「支援を必要とする状態」として制度上に位置づけています。逆に言えば、この水準を大きく超えている会社は通常の融資では厳しく見られるということです。
自己資本比率
自己資本とは、返済義務のない資本です。これに対し、借入金など返済義務のある資本は他人資本といいます。自己資本比率は総資本に占める自己資本の割合で、これが高いほど経営の安全性が高いと評価されます。
審査で決定的にマイナスとなるのは債務超過です。自己資本がマイナスの状態は、それだけで融資が難しくなります。逆にいえば、自己資本比率を改善することは審査対策として最も効果が見えやすい打ち手です。具体的な方法は後述します。
償却前営業利益と簡易キャッシュフロー
返済の原資は利益ではなくキャッシュです。減価償却費は現金支出を伴わない費用なので、これを税引後利益に足し戻した簡易キャッシュフローが、実質的な返済能力を表します。
帳簿上は赤字でも、減価償却費が大きければ簡易キャッシュフローはプラスになることがあります。この場合は「赤字だから借りられない」とは限りません。赤字決算で相談する場合は、簡易キャッシュフローを自分で計算して、返済原資が確保できることを説明できる状態にしておいてください。
キャッシュフローの安定性
金額だけでなく、入金と出金のタイミングも見られます。売上の入金が遅く、仕入や人件費の支払いが先に来る構造だと、利益が出ていても資金不足に陥りやすくなります。
公庫はこの点を制度要件にも織り込んでいます。経営環境変化対応資金の適格要件には「最近の取引条件が回収条件の長期化または支払条件の短縮化等により、0.1ヵ月以上悪化している方」という項目があります。取引条件の変化を月数で測っているということです。
月別の売上予測と経費の一覧を用意し、返済がどのタイミングでどう行われるかを数値で示せると、審査担当者に安心感を与えられます。
支店決裁と本部決裁の分岐
融資金額が大きくなると、支店の決裁で収まらず本部決裁に上がります。本部決裁になると、事業計画・財務内容・資金使途の説明に求められる精度が一段上がり、審査期間も延びる傾向があります。
希望額を決める際は、必要額を積み上げて算出することが前提ですが、決裁ラインを意識して申込みのタイミングや金額を組み立てるという発想もあります。なお決裁権限の具体的な金額は公庫が公表しているものではなく、筆者の実務経験に基づく目安です。
国民生活事業と中小企業事業で審査はどう違うか
同じ公庫でも、窓口によって規模も金利水準も異なります。
| 国民生活事業 | 中小企業事業 | |
|---|---|---|
| 主な融資制度の限度額 | 7,200万円 | 7億2,000万円 |
| 1先あたりの平均 | 融資残高 約800万円 | 融資金額 約9,000万円 |
| 利用先の特徴 | 約9割が従業者9名以下 | 約8割が従業員20名以上 約9割が資本金1,000万円以上 |
| 利率の水準 (2026年7月1日現在) | 無担保の基準利率 3.45〜5.20% | 貸付期間5年以内の基準利率 2.65% |
中小企業事業は原則として長期資金・有担保を前提とした窓口で、利率水準も低く設定されています。一方で対象は従業員20名以上クラスが中心となるため、小規模事業者や個人事業主は国民生活事業が窓口になります。
どちらに相談すべきか迷う場合は、従業員数と資本金の分布を目安にしてください。規模が大きい会社が国民生活事業に相談すると限度額が足りず、規模が小さい会社が中小企業事業に相談すると対象外になるという行き違いが起こります。
審査でチェックされる具体項目【チェックリスト】
申込み前に自社で確認できる項目は7つあります。このうち上の3つは、該当すると財務内容にかかわらず審査が厳しくなる項目です。
| 確認項目 | 該当した場合の影響 |
|---|---|
| 個人信用情報に金融事故がある | 非常に大きい。解消まで待つ判断も必要 |
| 税金・社会保険料を滞納している | 非常に大きい。解消してから申込む |
| カードローン・キャッシングを利用中 | 大きい。可能なら完済してから申込む |
| 自己資金が乏しい | 制度要件ではないが実務上は影響する |
| 融資希望額が使途に対して過大 | 審査が長引く、減額される |
| 業界経験がない | 補う説明が必要 |
| リスケジュール中・税金を分納中 | 条件付きで対応可能な場合がある |
個人信用情報と金融事故
公庫は代表者の個人信用情報を必ず照会します。問題とみなされるのは主に次のような情報です。
- ノンバンクからの借入がある
- クレジットカードや住宅ローンなどの返済を滞納した履歴がある
- 債務整理をしている
- クレジットカードの強制解約を受けている
とくに債務整理や強制解約の情報が残っている間は、審査に通る可能性はほぼありません。すでに解消していても履歴が残っている期間は不利に働くため、情報が消えるのを待つという判断も現実的な選択肢になります。
申込みの前に、信用情報機関へ開示請求をして自分の情報を確認しておくことを強く推奨します。記憶と実際の登録内容が食い違っているケースは珍しくありません。
税金・社会保険料・公共料金の滞納
税金、社会保険料、公共料金の支払いに問題がある場合、審査通過はきわめて厳しくなります。
民間金融機関でも「税金を納められない会社が返済できるはずがない」と判断して融資を断りますが、公庫はそれ以上に厳しく評価します。理由は明確です。政府の財源である税金を納めていない会社に、政府系金融機関が融資を出せる理屈がないのです。
未納がある場合は、必ず解消してから申し込んでください。納税証明書の提出を求められるため、隠すことはできません。
カードローン・キャッシングの利用状況
カードローンやクレジットカードのキャッシングを利用している場合、返済が順調であっても審査上のマイナス要素になります。
理由は、無担保で高金利の借入を使っている状態が「資金繰りに余裕がない」というシグナルとして読まれるためです。事業性の借入か個人的な借入かは問われません。
現在利用中であれば、可能な範囲で完済してから申し込むほうが安全です。完済が難しい場合も、残高と返済計画を正直に申告してください。
自己資金の水準と認められる資金・認められない資金
まず制度面を正確に押さえてください。2024年3月末に新創業融資制度が廃止されたタイミングで、自己資金要件(創業資金総額の10分の1以上)は撤廃されました。現行の新規開業・スタートアップ支援資金の公式ページに、自己資金に関する要件の記載はありません。
ただし、これは「自己資金がなくても同じ条件で借りられる」という意味ではありません。制度上の要件がなくなっただけで、実務上は自己資金の水準が事業計画の実現性や本気度の判断材料として見られます。
公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査では、新規開業企業の資金調達額は平均1,219万円で、そのうち自己資金が平均279万円でした。割合にすると2割強です。開業費用は平均975万円、中央値600万円となっています。この水準が実際の分布として参考になります。
自己資金として認められるかどうかにも線引きがあります。
| 認められやすいもの | 認められにくいもの |
|---|---|
| 通帳で形成過程を確認できる預金 | いわゆるタンス預金 |
| 資産を売却して得た現金(売却の記録あり) | 直前に一括で入金された出所不明の資金 |
| 贈与を受けた資金(贈与契約書などの裏付けあり) | 返済義務のある借入金 |
重要なのは金額そのものより形成過程が説明できるかです。毎月コツコツ積み上げた履歴が通帳に残っていれば、それ自体が計画性の証明になります。逆に申込み直前にまとまった資金が入金されている場合、一時的に用意した資金ではないかと疑われ、説明を求められます。
融資希望額の妥当性
できるだけ多く借りたいと考えるのは自然ですが、公庫では目的を達成するために必要な額しか融資を受けられません。
設備投資であれば見積書、仕入であれば発注や契約の裏付けが必要です。使途に対して妥当と判断されない金額を希望すると、審査が長引いたり減額されたりします。「多めに申請して減額されればいい」という発想は、資金使途の詰めが甘いという評価につながるため避けてください。
事業経験・業界経験
創業融資では、代表者がその業界でどれだけ経験を積んでいるかが評価されます。同業での勤務経験や実績があれば、審査担当者の安心感につながります。
未経験分野に参入する場合は、その分野に必要な知見やノウハウをどう補うのかを具体的に説明する必要があります。共同経営者の経験、取引先からの技術支援、研修の受講計画など、埋め方を示せるかどうかが分かれ目です。
リスケジュール中・税金分納中の扱い
民間金融機関でリスケジュール(返済条件の変更)をしている状態でも、公庫の融資は不可能ではありません。ただし条件があります。
公庫は、リスケジュール中の他の金融機関に同意を求めます。リスケ決定後に公庫が新規融資を実行すると、民間金融機関へのリスケと公庫への返済が同時進行することになるためです。不利益を被ると判断した民間金融機関が同意しなければ、公庫は融資できません。
つまりこのケースでは、公庫の審査だけでなく既存の取引金融機関との調整が実質的な関門になります。事前に取引銀行の意向を確認しておくことが不可欠です。
税金を分納している場合も同様で、完納していない事実自体は不利ですが、税務署と正式に分納の合意をして約定どおり納付している状態であれば、事情を説明する余地があります。無断で滞納している状態とは扱いが異なります。
日本政策金融公庫から借りられない人・対象外になるケース
審査以前の段階で対象外になるケースがあります。該当していると、事業計画をどれだけ作り込んでも結果は変わりません。
- 個人信用情報に債務整理・強制解約などの記録が残っている
- 公庫の融資対象とならない業種を営んでいる
- 創業からの期間が極端に短い
- 資金使途が事業に必要な設備資金・運転資金と認められない
個人信用情報に問題がある
前述のとおり、債務整理や強制解約の記録が残っている間は、審査に通る可能性はほぼありません。この場合、事業計画の完成度で覆せる性質の問題ではありません。
情報が消えるまで待つか、代表者を変更するか、あるいは融資以外の資金調達手段を検討することになります。
融資対象外の業種
公庫の融資は「ほとんどの業種」が対象ですが、公式ページには「業種や経営内容等によってはご利用いただけない場合がございます」と明記されています。
自社が対象になるかどうかは、事業資金相談ダイヤル(0120-154-505)または最寄りの支店で事前に確認するのが確実です。書類を作り込んでから対象外と判明するのは、時間の損失が大きすぎます。
創業後の期間が極端に短いケース
創業直後は判断材料が乏しいため、審査が慎重になります。実績がまったくない段階では、事業計画と自己資金、経営者の経験がほぼすべての判断材料になります。
なお創業前でも申込みは可能です。新規開業・スタートアップ支援資金の対象は「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」で、開業前から利用できます。
資金使途が認められないケース
公庫の融資は、事業に必要な設備資金と運転資金が対象です。次のような使途は認められません。
- 代表者個人の生活費や住宅ローンの返済
- 事業と関係のない投資
- 他社への貸付
なお、既往債務の返済に充てる資金は原則として対象外ですが、例外があります。廃業歴等があり創業に再チャレンジする場合の前事業に係る債務、そして後述する危機対応後経営安定資金では、既往債務の返済負担軽減を目的とした運転資金が認められています。
制度別に見る審査のポイント
どの制度で申し込むかによって、限度額・返済期間・利率・見られる要件が変わります。国民生活事業の主な制度を整理しました(いずれも2026年7月1日現在)。
| 制度 | 融資限度額 | 返済期間(うち据置期間) | 担保・保証人 |
|---|---|---|---|
| 新規開業・スタートアップ支援資金 | 7,200万円 (うち運転資金4,800万円) | 設備20年以内(5年以内) 運転10年以内(5年以内) | 相談のうえ決定 |
| 一般貸付 | 運転4,800万円 設備4,800万円 特定設備7,200万円 | 運転5年以内・特に必要な場合7年以内(1年以内) 設備10年以内(2年以内) 特定設備20年以内(2年以内) | 相談のうえ決定 |
| マル経融資 | 2,000万円 | 10年以内(2年以内) | 無担保・無保証人 |
| 経営環境変化対応資金 | 7,200万円 | 設備20年以内(3年以内) 運転10年以内(3年以内) | 相談のうえ決定 |
| 危機対応後経営安定資金 | 別枠7,200万円 | 20年以内(2年以内) | 相談のうえ決定 |
新規開業・スタートアップ支援資金(旧・新創業融資制度)
創業融資の中心となる制度です。対象は「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」で、法人・個人事業主を問わず利用できます。
制度の変遷を押さえておいてください。かつて創業融資の中心だった新創業融資制度は2024年3月末に廃止され、新規開業資金へ統合されました。その後2025年3月に「新規開業・スタートアップ支援資金」へ名称が変更されています。統合にあわせて自己資金要件が撤廃され、返済期間も延長されました。
審査で見られるのは、公式ページに明記された「適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる」かどうかです。創業計画書の提出により、事業計画の内容が確認されます。
なお、廃業歴等があり創業に再チャレンジする場合は、前事業に係る債務の返済に必要な資金も使途に含められ、運転資金の返済期間は15年以内(うち据置期間5年以内)まで利用できます。
一般貸付
ほとんどの業種の中小企業が利用できる、公庫の基本となる制度です。他の制度に該当しない場合の受け皿になります。
注意点は返済期間です。運転資金は5年以内(特に必要な場合7年以内)で、据置期間も1年以内。新規開業・スタートアップ支援資金の運転10年・据置5年と比べると、条件面ではかなり差があります。創業から7年以内であれば、一般貸付より新規開業・スタートアップ支援資金を検討すべきということです。
経営改善貸付(マル経融資)
商工会議所、商工会または都道府県商工会連合会の経営指導を受けている小規模事業者が、その長の推薦を受けて利用する制度です。無担保・無保証人で、利率は特別利率Fの年2.60%。国民生活事業の無担保基準利率と比べて1ポイント近く低い水準です。
限度額は2,000万円で、返済期間は10年以内(据置2年以内)。条件は良い一方、商工会議所等の経営指導を受けていることが前提になるため、思い立ってすぐ使える制度ではありません。小規模事業者であれば、平常時から商工会議所との関係を作っておく価値があります。
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性劣後ローン)
財務体質の強化を目的とした制度で、借入金でありながら金融機関の審査上は自己資本とみなせる性質を持ちます。新事業展開、海外展開、事業再生などに取り組む事業者が対象です。
特徴的なのは返済と利率の仕組みです。期限一括返済で、利息は毎月払い。そして毎年の業績に応じた利率が適用されます。業績が悪い年は利率が下がるため、赤字局面での負担が軽くなる設計です。
自己資本比率の改善に直接効く制度なので、債務超過や自己資本比率の低さがネックになっている場合は検討に値します。ただし要件が限定的なので、支店への相談が前提です。
女性、若者/シニア起業家支援資金
正確には独立した制度ではなく、新規開業・スタートアップ支援資金の特別利率が適用される要件のひとつです。女性の方、35歳未満の方、55歳以上の方が創業する場合、特別利率Aが適用されます。
基準利率との差は0.4ポイント。無担保・税務申告2期未終了なら、基準利率3.45〜5.15%に対して特別利率Aは3.05〜4.75%です。該当する方が多い実用的な優遇なので、必ず確認してください。
金利・融資額・保証人はどう決まるか
これらはいずれも融資制度と申込者の状況によって個別に判断されます。法人・個人事業主で区別されることはありません。
- 金利:制度・使いみち・返済期間・担保の有無・特別利率の該当要件で決まる
- 融資額:事業計画の内容と資金使途の妥当性、自己資金の水準で決まる
- 保証人:信用力、担保の有無、事業計画の内容を総合評価して個別に判断される
画一的な基準がないということは、準備次第で条件が変わるということでもあります。特別利率の要件を満たせるよう組み立てる、経営者保証免除特例制度の併用を相談するといった働きかけには意味があります。
セーフティネット貸付の審査
売上減少や利益悪化が起きている場合、通常の融資制度ではなくセーフティネット貸付が窓口になります。公庫のセーフティネット貸付は用途別に3つに分かれています。
| 制度 | 対象となる状況 |
|---|---|
| 経営環境変化対応資金 | 外的要因により一時的に売上減少・業況悪化をきたしている |
| 取引企業倒産対応資金 | 取引先の倒産により経営に困難を来している |
| 危機対応後経営安定資金 | 過去の災害・感染症等の影響で既往債務の返済負担が生じている |
経営環境変化対応資金の対象となる要件
対象は「社会的、経済的環境の変化等外的要因により、一時的に売上の減少等業況悪化をきたしているが、中長期的にはその業況が回復し発展することが見込まれる方」で、次のいずれかに該当する必要があります。
- 最近の決算期における売上高が前期または前々期に比し5%以上減少している
- 最近3か月の売上高が前年同期または前々年同期に比し5%以上減少しており、かつ今後も売上減少が見込まれる
- 最近の決算期における純利益額または売上高経常利益率が前期または前々期に比し悪化している
- 最近の取引条件が回収条件の長期化または支払条件の短縮化等により、0.1か月以上悪化している
- 社会的な要因による一時的な業況悪化により資金繰りに著しい支障を来している、または来すおそれがある
- 最近の決算期において、赤字幅が縮小したものの税引前損益または経常損益で損失を生じている
- 前期に損失を生じており、最近の決算期において利益が増加したものの、利益準備金および任意積立金等の合計額を上回る繰越欠損金を有している
- 前期に損失を生じており、最近の決算期において利益が増加したものの債務償還年数が15年以上である
融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内(据置3年以内)、運転資金10年以内(据置3年以内)です。
原油価格上昇をはじめとした原材料・エネルギーコスト増、中東・ウクライナ情勢の変化、米国自動車関税措置等の影響を受けており、かつ最近の売上高・売上高総利益率・売上高営業利益率が前期比5%以上減少している場合は、特別利率Qが適用されます。
審査で見られるポイント
この制度で決定的に重要なのは、要件の後半にある「中長期的にはその業況が回復し発展することが見込まれる」という条件です。
売上が5%以上減少していれば形式要件は満たします。しかしそれだけでは足りません。減少が外的要因によるものであることと、回復の見通しに根拠があることの両方を示す必要があります。
したがって準備すべきものは明確です。
- 売上減少の推移を示す試算表・月次データ
- 減少が外的要因によることを裏付ける資料(業界統計、取引先の状況、コスト単価の推移など)
- 回復に向けた具体的な取り組みと、その効果が数字に表れる時期を示した計画
「売上が落ちたので資金が必要」という説明だけでは、要件の前半しか満たしていないことになります。
他の制度との使い分け
取引先の倒産が原因であれば、経営環境変化対応資金ではなく取引企業倒産対応資金が窓口になります。売上減少という結果は同じでも、原因によって制度が分かれます。
また、コロナ関連融資の返済負担が原因であれば危機対応後経営安定資金が該当します。こちらは別枠7,200万円という扱いになるため、既存の借入枠とは切り離して検討できます。詳細は後述します。
どの制度で申し込むかを間違えると、要件に合わず時間を無駄にします。自社の状況の「原因」を整理してから相談してください。
提出書類一覧とチェックされるポイント
公庫の提出書類は民間金融機関より多く、不備があると審査が延びます。書類は「申込み時」と「面談時」の2段階で必要になるため、早い段階でまとめて準備しておくのが得策です。
法人が提出する書類
| 書類 | チェックされる点 |
|---|---|
| 借入申込書 | 記入漏れ・誤記がないか、資金使途が明確か |
| 登記簿謄本(履歴事項全部証明書) | 商号・所在地・役員・事業目的の整合性 |
| 過去3期分の決算書 | 業績推移、財務内容、勘定科目明細 |
| 直近の試算表 | 決算期以降の動向。決算書との連続性 |
| 総勘定元帳 | 仕訳データと決算書の整合性 |
| 納税証明書 | 法人税・消費税等の滞納の有無 |
| 会社と代表者個人の通帳 | 売上入金額が決算書・試算表と一致するか |
| 代表者の身分証明書 | 本人確認 |
| 事務所・店舗の賃貸借契約書 | 家賃額と決算書の整合性、事業実態 |
| 所有不動産の登記簿謄本 | 担保余力の把握 |
| 許認可が必要な事業の許可書 | 事業の適法性 |
| 事業計画書・経営計画書 | 実現性、数値の裏付け |
| 見積書・契約書・請求書 | 設備資金・仕入資金の使途の裏付け |
個人事業主が提出する書類
| 書類 | チェックされる点 |
|---|---|
| 借入申込書 | 記入漏れ・誤記がないか |
| 本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等) | 本人確認。原本提出を求められる場合がある |
| 住所確認書類(住民票、公共料金の領収書、賃貸借契約書等) | 申込書の住所と一致しているか |
| 確定申告書(過去2〜3期分) | 所得の推移、事業規模 |
| 創業計画書・事業計画書 | 実現性、数値の裏付け |
| 預金通帳の写し(6か月分程度) | 自己資金の形成過程、売上入金の実態 |
| 納税証明書 | 所得税・消費税等の滞納の有無 |
| 公共料金の請求書・領収書 | 支払いの遅延の有無 |
| 資産証明書 | 自己資金・担保余力の裏付け |
個人事業主の場合、通帳は事業用と個人用の両方を求められることが一般的です。事業と家計が混在していると実態把握が難しくなるため、可能であれば申込みの前から口座を分けておくことを推奨します。
書類でよくある不備
実務でとくに多いのは次の5つです。いずれも防げるものです。
- 通帳の入金額が試算表と合わない:計上時期のずれであれば説明できるように整理しておく
- 申込書の住所と住所確認書類の住所が違う:転居後の変更手続き漏れが原因になりやすい
- 設備資金の見積書がない:金額の妥当性を判断できないため必ず求められる
- 決算書の勘定科目明細が添付されていない:貸付金・仮払金などの中身が確認できない
- 試算表が古い:直近の月次まで作成されていないと現況が把握できない
書類が揃っていない状態で申し込むと、追加提出のやり取りで数週間が失われます。提出前に第三者に一度確認してもらうだけで、この手戻りは大幅に減ります。
創業計画書・事業計画書の書き方と審査での見られ方
計画書の評価は「数字に根拠があるか」の一点に集約されます。公庫の様式は公式サイトからダウンロードできますが、様式を埋めるだけでは審査を通りません。
- 売上の根拠を、単価×数量×稼働などの積み上げで示す
- 見積書・契約書・請求書などの客観資料を添付する
- 売上が伸びる計画なら、伸ばす手立てと必要経費の増加も書く
- 返済計画は月次のキャッシュフローと突き合わせる
計画書を作る2つの意味
計画書には2つの役割があります。ひとつは審査担当者に事業の実現性を伝えること。もうひとつは、経営者自身が事業の全体像と課題を把握することです。
文章と数字にしてみると、頭のなかで曖昧だった部分が浮き彫りになります。原価の把握が甘い、集客の手段が具体化していない、必要な運転資金を過小に見積もっている。こうした問題は、作成の過程で自分で気づけます。
面談で代表者だけが対応する以上、計画書は「自分で作った内容を自分で説明できる状態」でなければ意味がありません。専門家の支援を受ける場合も、丸投げではなく一緒に作る形が前提です。
創業動機を明確にする
創業のきっかけや事業への思いは、当事者にとって当然でも第三者には伝わりません。なぜこの事業を選んだのか、どの課題を解決するのかを言葉にしてください。
ここが曖昧だと、事業の必然性や差別化要素が伝わりません。ただし熱意だけを並べても評価されません。動機と、その動機を裏付ける経験・準備が結びついているかが見られます。
経営者の略歴を強みに変える
同業界での勤務経験、担当していた業務、取得資格、実績数値。事業に活きる要素を整理して記載します。「○年勤務」ではなく「○年間、○○の業務で年間○件を担当」といった具体性が必要です。
未経験の場合は、関連するスキル、人脈、学習の実績で補います。前職で培った営業力、既に確保している見込み客、受講済みの専門研修など、埋め方を示せれば評価は変わります。
事業内容と差別化要素
提供する商品・サービスの特徴を具体的に書きます。一般的な説明だけでは差別化が伝わりません。
新しい手法で原価を下げられるのか、独自の仕入ルートがあるのか、立地に優位性があるのか。「なぜ自社が選ばれるのか」に一文で答えられる状態にしてから書き始めると、内容が締まります。
市場規模と競合状況の把握
ターゲットとする市場に一定の規模があることを示します。商圏人口、業界統計、地域の需要動向など、公的統計を使うと説得力が増します。
競合についても、近隣の類似店舗や同業他社の状況を客観的に記載します。競合がいないと書くより、いる前提でどう差別化するかを書くほうが信頼されます。
必要資金の洗い出し
設備資金と運転資金を分けて、項目ごとに金額を積み上げます。設備資金には必ず見積書を添付してください。
運転資金は見落としやすい部分です。仕入代金の先払い、家賃、人件費、そして売上入金までのタイムラグ。入金より支払いが先に来る期間を何か月分カバーする必要があるのかを計算して、その根拠を書きます。
収支予測と返済シミュレーション
売上予測は積み上げで作ります。飲食店なら客単価×席数×回転率×営業日数、小売なら客単価×客数、受注型なら単価×件数といった形です。「前年比110%」のような書き方では根拠になりません。
返済シミュレーションでは、月々の返済額と月次のキャッシュフローを突き合わせます。公庫の公式サイトには返済シミュレーションのツールが用意されているので、活用してください。
黒字化までに時間がかかる計画であれば、その間の資金繰りをどう持たせるのかもあわせて示します。据置期間の活用もここで検討します。
取引先情報と人員計画
すでに取引が決まっている、あるいは見込み段階の取引先があれば必ず記載します。売上の根拠として直接評価されるためです。長期的な取引契約があれば、それは安定した売上見通しの裏付けになります。
ただし未確定の情報を確定のように書くのは避けてください。面談で確認され、答えられなければ計画全体の信頼性が落ちます。
人員計画では、採用の時期と人数、人件費の見込みを書きます。人員計画が曖昧だと将来の人件費が読めず、疑問を持たれます。小規模で始めて段階的に拡大するという計画も、根拠があれば十分に評価されます。
数値の根拠を示す添付資料
計画書の説得力は添付資料で決まります。用意できるものを挙げます。
- 設備の見積書
- 取引先との契約書・発注書
- 過去の受注実績を示す請求書
- 物件の賃貸借契約書または申込書
- 市場規模を示す公的統計
- 自己資金の形成過程がわかる通帳
「たぶんこれくらい売れる」「何とかなる」という説明では融資を受けられません。数字にはすべて出所がある状態を目指してください。
「空論」と判断される計画書の共通点
審査で実現性を疑われる計画書には、はっきりした共通点があります。
- 売上が右肩上がりなのに、経費が横ばい
- 売上増加の手立てが「営業を強化する」など抽象的
- 創業初月から想定売上の満額が立っている
- 返済額が月次キャッシュフローの上限に張り付いている
- 競合の記載がまったくない
とくに最後から2番目は要注意です。返済可能な上限ギリギリの計画は、少しの計画未達で返済不能になります。余裕を持たせた計画のほうが評価されます。
作成手順とテンプレートの使い方
一度に完成させようとすると進みません。次の順序で組み立ててください。
- 全体構成を決める(公庫の様式に沿って項目を洗い出す)
- 事業概要と市場分析を下書きする
- 創業動機と経営者略歴を整理する
- 必要資金を積み上げ、収支計画と返済シミュレーションを作る
- 取引先情報と人員計画を検討する
- 全体を通して矛盾がないか確認し、添付資料を揃える
公庫や自治体が提供するサンプルは、必要事項の抜け漏れを防ぐうえで有用です。ただしテンプレートの文言をそのまま使うと独自性が伝わりません。自社の強みと戦略を自分の言葉で落とし込んでください。
面談で聞かれること【想定質問リスト】
面談は代表者ひとりで臨みます。税理士やコンサルタントの同席は認められません。したがって、計画書の内容を自分の言葉で説明できる状態が必須になります。
面談は代表者のみで受ける
経理担当者や外部の専門家が同席できないのは、公庫が代表者本人の理解度と資質を見ているからです。書類の作成を支援してもらうことは問題ありませんが、説明は自分でしなければなりません。
事前準備としては、想定される質問と回答を書き出し、声に出して説明してみることが有効です。書けるが話せないという状態は珍しくありません。
事業内容・資金使途に関する質問
- どのような事業を、誰に対して行うのですか
- 競合と比べて、どこに強みがありますか
- 今回の資金は、具体的に何にいくら使いますか
- その設備投資で、売上や利益はどう変わりますか
- なぜこの金額が必要なのですか。減らすことはできますか
- 主な取引先はどこですか。取引はどのように始まりましたか
- 今後の販売先の開拓は、どう進める予定ですか
数字に関する質問
- 直近の月商はいくらですか
- 原価率と粗利率はどれくらいですか
- いまの借入残高は合計でいくらですか。毎月の返済額は
- 売上の入金は何日後ですか。仕入の支払いは何日後ですか
- 計画では○年目に黒字化していますが、その根拠は何ですか
- 前期の赤字の原因は何ですか。今期はどう変わりましたか
- 月々の返済額を、どの利益から支払う想定ですか
この区分の質問には即答できる状態が必要です。月商や借入残高を答えられないと、数字を把握していない経営者と受け取られます。主要な数値は暗記しておいてください。
経営者個人に関する質問
- これまでの職歴と、担当してきた業務を教えてください
- この事業を始めようと思ったきっかけは何ですか
- 自己資金はどのように準備しましたか
- 個人的な借入はありますか
- ご家族はこの事業について理解していますか
- 事業がうまくいかなかった場合、どう対応しますか
個人的な借入については、必ず正直に答えてください。前述のとおり公庫は個人信用情報を照会するため、隠しても判明します。
マイナス評価になる答え方
内容以前に、答え方でマイナスになるパターンがあります。
- 数字を答えられない:資料を探し始める、担当者に聞かないとわからないと答える
- 回答が計画書と食い違う:計画書を自分で作っていないことが露呈する
- 感情的になる、高圧的な態度をとる:返済交渉の場面が想像され、印象を大きく損ねる
- 泣き落としに頼る:資金がないと倒産すると訴えても、返済能力の説明にはならない
- 質問に答えず持論を展開する:聞かれたことに答えるのが基本
面談は説得の場ではなく、事実と計画を正確に伝える場です。落ち着いて、聞かれたことに数字で答える。これが最も評価されます。
申込みから融資実行までの流れと審査期間
初回の申込みなら、融資実行までおおむね1か月から1か月半が目安です。追加融資で経営が順調なら2週間程度で実行に至るケースもあります。
標準スケジュール
| 工程 | 所要期間の目安 | この段階でやること |
|---|---|---|
| 1. 申込み・書類提出 | 1週間 | 相談、必要書類の確認と提出、面談日の設定 |
| 2. 面談 | 1日 | 代表者のみで対応。書類をもとにヒアリング |
| 3. 審査 | 2〜3週間 | 書類審査、必要に応じて追加資料の提出 |
| 4. 契約・融資実行 | 1週間 | 契約書類のやり取り、指定口座への入金 |
経済情勢の悪化で申込みが殺到する局面や、繁忙期にはこれより長くかかります。資金が必要な時期から逆算して、最低でも2か月前には動き始めてください。
1. 融資を申し込む
申込みは支店窓口、電話、インターネットのいずれからも可能です。初めての場合は、事業資金相談ダイヤル(0120-154-505)で必要書類や流れを確認してから動くとスムーズです。創業予定の方や創業間もない方、個人企業・小規模企業の方は平日19時まで受付されています。
いきなり訪問しても相談はできますが、ワンクッションあったほうが進みやすいのは事実です。商工会議所や顧問税理士からの紹介があると、初期の説明が省略でき、審査全体が円滑に運びやすくなります。
申込み後、おおむね1週間程度で面談日が設定されます。それまでに書類を揃えてください。
2. 面談を受ける
支店を訪問し、提出資料をもとに面談を受けます。前述のとおり代表者のみで対応します。
提出書類のなかで特に確認されるのは次の4点です。
- 社会保険や税金の滞納がないか
- 民間金融機関からの借入と返済の状況(とくに延滞の有無)
- 売上の入金額が決算書・試算表と一致するか
- 将来の経営計画に実現性があるか
あわせて代表者の個人信用情報も照会されます。書類の数値と計画、個人の信用を確認するだけでなく、質疑応答を通じて代表者の資質も審査対象になっています。
3. 審査
面談の時点で明確な問題があれば、形式的な審査を経て融資謝絶となります。公庫は支店ごとに抱える案件数が多いため、面談で問題が見つかった案件は早い段階で結論が出ます。
面談に問題がなければ、その内容をもとに書類審査が進み、融資の可否と金額が判断されます。この段階で追加資料を求められることもあります。追加依頼への対応が遅いと審査期間がそのまま延びるので、依頼があれば速やかに提出してください。
なお民間金融機関でリスケジュールをしている場合は、前述のとおり他行への同意確認が入ります。
4. 融資実行
審査に通れば契約書類が送付されます。返送後、おおむね1週間程度で指定口座に入金されます。電子契約に対応している場合は、この期間が短縮されることがあります。
返済は原則として融資実行の翌月から始まります。据置期間を設定している場合は、その期間中は利息のみの支払いです。返済方法には元金均等返済、元利均等返済、段階返済などがあり、面談時や契約時に相談できます。
追加融資の場合と審査期間が延びるケース
追加融資は確認事項が少ないため、経営が順調であれば2週間程度で実行に至ることもあります。すでに提出済みの資料が活用できるためです。
一方、期間が延びるのは次のようなケースです。
- 提出書類に不備があり、追加提出が発生した
- 申込みが集中する局面(経済情勢の悪化時、年度末など)
- 融資金額が大きく、本部決裁が必要になった
- リスケジュール中で、他の金融機関との調整が必要になった
審査に落ちる主な理由
落ちる理由は7つに整理できます。上位2つは財務内容にかかわらず結果を決めてしまう要因です。
| 順位 | 理由 | 対処の難易度 |
|---|---|---|
| 1 | 個人信用情報に問題がある | 高い(時間が必要) |
| 2 | 税金・公共料金の未払い | 低い(解消すればよい) |
| 3 | 自己資金が少ない | 中程度 |
| 4 | 経営計画に矛盾がある | 低い(作り直せる) |
| 5 | 面談での失敗 | 低い(準備で防げる) |
| 6 | 融資希望額が使途に対して過大 | 低い(金額を見直す) |
| 7 | 返済能力を疑問視された | 高い(業績改善が必要) |
1. 個人信用情報に問題がある
公庫は代表者の個人信用情報を必ず確認します。債務整理や強制解約の記録があれば、審査に通る可能性はほぼありません。この項目は事業計画で補えないため、最も対処が難しい理由です。
2. 税金・公共料金の未払い
税金や社会保険料の未納がある状態では、ほぼ確実に審査に落ちます。ただし解消すれば解決する問題なので、対処の難易度は低いといえます。未納があるまま申し込むのは時間の無駄です。
3. 自己資金が少ない
制度上の要件は撤廃されましたが、実務では自己資金の水準が判断材料になります。とくに創業融資で自己資金がほとんどない場合、早い段階から売上が見込める根拠がなければ厳しくなります。
4. 経営計画に矛盾がある
売上増加の手立てが書かれていない、売上が伸びるのに経費が横ばい、返済額が返済能力の上限に張り付いている。こうした矛盾は面談で必ず指摘されます。前述の「空論と判断される計画書の共通点」を確認してください。
5. 面談での失敗
数字を答えられない、計画書の内容と回答が食い違う、態度に問題がある。書類が整っていても、面談でつまずけば結果は変わります。想定質問への準備で防げる項目です。
6. 融資希望額が使途に対して過大
必要額の積み上げがなく、根拠のない金額を希望すると審査が長引くか減額されます。見積書や契約書で裏付けられる金額に絞り込んでください。
7. 返済能力を疑問視された
簡易キャッシュフローがマイナス、債務償還年数が極端に長い、業績が継続的に悪化している。この場合は業績自体の改善が必要になるため、短期での解決は困難です。
審査に落ちた後にとるべき対策
公庫への再申込みは6か月以上空ける必要があります。その間に何をするかで次回の結果が変わります。並行して別の調達手段も検討してください。
落ちた理由の特定と改善
最初にやるべきは、落ちた理由の特定です。これがわからないまま再申込みを繰り返しても結果は変わりません。資金調達できない期間が長期化すれば、経営自体が悪化していきます。
前章のチェックリストと照らし合わせて、自社の問題を洗い出してください。ただし経営者本人の見立てだけでは見落としが生じます。第三者に確認してもらうことで、自分では気づけなかった要因が見つかります。
再申込みは6か月後が原則
公庫に再度申し込む場合、審査落ちから6か月以上空ける必要があります。それより短い期間では再審査を受け付けてもらえないのが実情です。
融資できる水準まで経営を改善するには一定の時間がかかるため、期間を空けるのは合理的です。逆にいえば、6か月が経過しても取り組みが不十分であれば、また落ちます。期間の経過そのものが評価されるわけではありません。
自己資本比率を上げる
6か月間で最も効果が見えやすい打ち手が、自己資本比率の改善です。方法は2つあります。
- 借入金の返済を進め、他人資本の比率を下げる
- 経営者の個人資産を会社に移し、自己資本を厚くする
前者は6か月では大きな効果が出にくいため、後者を軸に考えるのが現実的です。経営者個人の資産を会社名義に移す、経営者から会社に貸し付けて役員借入金として計上する(ただし他人資本になる点に注意)、増資を行うといった選択肢があります。
なお、財務体質の強化を目的とするなら、前述の資本性劣後ローンも検討対象になります。
認定支援機関を活用する
認定経営革新等支援機関とは、国が認定した支援機関です。経営のアドバイスや事業計画作成の支援を行います。
公庫にとってもメリットがあります。認定支援機関と公庫はどちらも国の政策に基づく機関であり、方向性が揃っています。認定支援機関は経営支援、公庫は資金繰り支援という形で同じ事業者を支えるという関係です。
さらに実利もあります。新規開業・スタートアップ支援資金では、中小企業の会計に関する基本要領等を適用し、自ら事業計画を策定して認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けている場合、特別利率Aが適用されます。審査面と金利面の両方で有利になります。
信用保証協会の保証付融資
6か月待てない場合は、信用保証協会の保証枠を確認してください。すでに枠を使い切っていると考えている会社でも、見落としがあることは珍しくありません。
また経済情勢に大きな問題がある局面では、通常の保証枠とは別枠で保証付融資を受けられる制度が設けられることがあります。現在利用できる別枠があるかどうかは、取引金融機関または信用保証協会に確認してください。
自治体の制度融資
保証枠に余裕があるなら、自治体の制度融資も検討対象です。通常の保証付融資が信用保証協会と金融機関の2者による仕組みであるのに対し、制度融資は自治体・信用保証協会・金融機関の3者が協調する仕組みです。
保証料や金利の一部を自治体が補助する制度もあるため、実質負担を抑えられる場合があります。ただし内容は自治体ごとに大きく異なるので、まず自社の所在地の制度を調べてください。
公庫と制度融資の併用戦略
公庫と制度融資は排他的な関係ではありません。両方を組み合わせて調達枠を分散させるのが、実務では標準的な考え方です。
創業期であれば、公庫の新規開業・スタートアップ支援資金と自治体の創業向け制度融資を並行して申し込む方法があります。一方に依存すると、断られた時点で資金計画が止まります。複数のルートを同時に走らせることでリスクを分散できます。
ただし同時申込みの際は、双方に対して借入予定を正直に申告してください。他行の申込状況を隠すと、信用情報から判明した時点で信頼を失います。
融資以外の選択肢
個人信用情報に問題がある、返済能力が不足しているといった理由で落ちた場合、民間金融機関や信用保証協会付き融資も同様に難しくなります。この場合は融資以外の手段を検討することになります。
- ファクタリング:売掛金を売却して早期に現金化する
- 手形割引:受取手形を期日前に現金化する
- リースバックを含む資産売却:保有資産を現金に換える
いずれも自社の資産を使う内部資金調達なので、審査のハードルは融資と異なります。ただし使い方を誤ると調達コストが膨らみ、かえって資金繰りが悪化します。手数料や割引料を年率換算して比較し、自社に合った方法を選んでください。
コロナ融資(ゼロゼロ融資)返済中の事業者はどう審査されるか
新型コロナウイルス感染症特別貸付は終了していますが、返済負担の軽減を目的とした制度は現在も用意されています。ゼロゼロ融資の返済が本格化した局面で資金繰りに窮している場合、この制度が窓口になります。
- コロナ特別貸付そのものは新規の受付を終了
- 返済負担軽減の受け皿は「危機対応後経営安定資金(セーフティネット貸付)」
- コロナ関連融資の貸付残高があることが要件
- 限度額は別枠7,200万円、返済期間20年以内(据置2年以内)
新型コロナウイルス感染症特別貸付は終了している
コロナ禍で多くの事業者が利用した新型コロナウイルス感染症特別貸付は、すでに新規の取扱いを終了しています。「コロナ融資を申し込みたい」という相談は、現時点では成立しません。
いま論点になっているのは、その返済です。据置期間を経て元金返済が始まり、返済負担が重くのしかかっている事業者が多数存在します。公庫はこの局面に対応する制度を別に設けています。
返済が本格化した局面で公庫は何を見るか
危機対応後経営安定資金の対象は、「過去の大規模な災害、感染症等の影響を受け、既往債務の返済負担が生じているが、中長期的にはその業況が回復し発展することが見込まれる方」です。あわせて、次のいずれかの制度の貸付残高を有していることが要件になります。
- 新型コロナウイルス感染症特別貸付
- 新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付
- 新型コロナウイルス感染症にかかる衛生環境激変特別貸付
- 危機対応後経営安定資金(セーフティネット貸付)
使いみちは既往債務の返済負担軽減のために必要とする運転資金に限定されます。融資限度額は別枠7,200万円、返済期間は20年以内(うち据置期間2年以内)で、利率は基準利率です。
重要なのはやはり「中長期的には業況が回復し発展することが見込まれる」という条件です。返済が苦しいという事実だけでは足りません。返済負担を軽減すれば事業が立ち直るという道筋を、数字で示す必要があります。
なお、この制度には一定の要件を満たす必要があり、詳細な要件は支店への問い合わせが必要とされています。自社が該当するかどうかは、まず相談してください。
リスケジュール中に公庫へ申し込めるか
結論として、可能ですが条件があります。前述のとおり、公庫はリスケジュール中の他の金融機関に同意を求めます。
公庫が新規に融資すれば、民間金融機関へのリスケと公庫への正常返済が同時に進むことになります。民間金融機関から見れば、自分たちは返済を待っているのに公庫には返済されるという構図です。不利益を被ると判断されて同意が得られなければ、公庫は融資できません。
つまりこのケースでは、公庫の審査より先に既存取引先との調整が関門になります。取引銀行に事前相談し、意向を確認してから公庫に持ち込む順序が現実的です。
借換・条件変更という選択肢
新規の借入ではなく、既存借入の条件を変える選択肢もあります。公庫は金融円滑化に向けた取り組みとして、返済条件の変更に関する相談窓口を設けています。
危機対応後経営安定資金による借換も、実質的には返済負担の平準化として機能します。返済期間20年という長さは、月々の負担を大きく圧縮できる水準です。
ただし借換や条件変更は、その後の新規融資に影響します。安易に選ぶのではなく、事業を立て直す期間として何年必要なのかを見極めてから判断してください。
返済が難しい場合に先に相談すべき順番
返済に窮したときの相談順序には定石があります。
- 延滞する前に公庫の支店へ相談する:延滞してからでは選べる手段が減ります
- 顧問税理士・認定支援機関に現状を整理してもらう:数字を揃えないと相談が進みません
- 取引金融機関全体の方針を確認する:公庫だけの調整では済まないことが多い
- 制度の該当可否を確認する:危機対応後経営安定資金などに該当するか
最も避けるべきは、無断で延滞することです。延滞情報が記録されれば、その後の資金調達が全面的に困難になります。返済が難しいと見込んだ時点で、先に相談してください。
個人事業主・法人・創業前で審査はどう違うか
審査基準そのものは同じです。ただし見られ方に違いがあります。個人事業主だから不利という単純な話ではありません。
| 審査での特徴 | |
|---|---|
| 法人 | 決算書3期分で業績推移を判断される。代表者の個人信用情報も確認される |
| 個人事業主 | 確定申告書で判断。事業と家計の区分が問われる。事業主個人の信用情報の影響が大きい |
| 創業前・創業直後 | 実績がないため、事業計画・自己資金・経営者の経験がほぼすべての判断材料になる |
個人事業主も融資の対象
公庫の融資対象は法人だけではありません。個人事業主も同じ制度を利用でき、金利・融資額・保証人の条件も法人と区別されることなく、制度と申込者の状況によって判断されます。
むしろ国民生活事業は、利用先の約9割が従業者9名以下という構成です。個人事業主やフリーランスは、まさに中心的な利用者層といえます。
個人事業主が不利になりやすい点
不利に働きやすい要素は主に2つです。
ひとつは事業と家計の混在です。個人事業主は事業資金と生活費が同一口座で動いていることが多く、事業の実態が読み取りにくくなります。家計の問題が事業に直結しやすい構造でもあります。可能であれば、申込みの前から事業用口座を分けておいてください。
もうひとつは個人信用情報の影響度です。法人であれば会社と代表者を一定程度切り分けて見ることができますが、個人事業主は事業主個人の信用情報がそのまま事業の信用として扱われます。同じ内容の情報でも、法人代表者より重い材料になります。
個人事業主が有利になる点
見落とされがちですが、有利に働く面もあります。
個人事業主は事業主ひとり、あるいはごく少人数で経営していることが多く、意思決定にしがらみがありません。事業計画書に事業主自身の考えがそのまま反映されるため、計画の一貫性が高くなります。面談でも、計画を作った本人が説明するという状態が自然に成立します。
多数の従業員や関係者を抱える法人では、計画と実際の意思決定にずれが生じることがあります。その点、個人事業主は事業の実現性を直接評価してもらいやすい立場にあります。
したがって、業績や財務に大きな問題がなく、個人信用情報もクリーンであれば、あとは事業計画書の精度を上げることで審査通過の可能性は十分に高まります。
創業前・創業直後の場合
創業前でも申し込めます。新規開業・スタートアップ支援資金の対象は「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」です。
ただし判断材料が限られます。過去の実績がないため、事業計画・自己資金・経営者の経験がほぼすべてになります。この3つのうち2つ以上に弱さがあると厳しくなるため、どこで勝負するかを明確にしてください。
なお、新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方については、公庫の創業融資の案内ページに専用の窓口が用意されています。該当する場合はそちらから相談するとスムーズです。
業種別の審査傾向
業種によって、審査で重点的に確認される項目が変わります。自社の業種でどこを突かれやすいかを知っておくと、準備の優先順位が決まります。
| 業種 | とくに見られる点 | 準備しておくもの |
|---|---|---|
| 飲食業 | 立地と商圏、客単価×席数×回転率の根拠、設備投資額の妥当性 | 物件資料、内装・厨房の見積書、商圏データ |
| 美容・理容業 | 指名客の見込み、リピート率、スタッフ確保 | 前職での顧客数、採用計画 |
| 建設業 | 入金サイクルの長さ、完成工事高の推移、下請比率 | 工事請負契約書、入出金サイクルの資料 |
| 運送業 | 車両投資額、燃料費の変動、ドライバー確保 | 車両見積書、運送契約書、人員計画 |
| IT・受託開発 | 受注の安定性、単価と稼働率、人材の定着 | 基本契約書、受注実績、稼働見込み |
| 小売業 | 在庫回転率、仕入条件、粗利率 | 仕入先との条件、在庫の状況 |
飲食業、理容室・美容室、旅館・ホテル、クリーニング店、公衆浴場などは生活衛生関係営業に該当し、専用の生活衛生貸付が用意されています。該当する業種であれば、通常の制度より条件が有利になる場合があるため、必ず確認してください。
建設業や運送業のように入金より支払いが先に立つ構造の業種では、運転資金の必要額の説明が特に重要になります。工事完成までの立替期間を月数で示し、その期間の資金需要を計算した資料を用意してください。
よくある質問
日本政策金融公庫の審査通過率はどのくらいですか
公庫は審査通過率を公表していません。ネット上で見られる「50〜60%」といった数字に公式な裏付けはありません。公庫総合研究所の新規開業実態調査にも、申込みに対する承認率のデータは含まれていません。
日本政策金融公庫の金利はいくらですか
事業区分・制度・担保の有無・税務申告の期数によって変わります。国民生活事業で無担保・税務申告2期未終了の場合、基準利率は年3.45〜5.15%(2026年7月1日現在)。要件を満たせば特別利率A〜Cが適用され、下限は年2.55%です。中小企業事業は水準が異なり、貸付期間5年以内の基準利率は年2.65%です。利率は金融情勢により改定されるため、申込み前に公庫の金利情報ページで確認してください。
自己資金がないと融資を受けられませんか
2024年3月末の新創業融資制度の廃止にあわせて、自己資金要件(創業資金総額の10分の1以上)は撤廃されました。制度上は自己資金なしでも申し込めます。ただし実務では自己資金の水準が判断材料になり、乏しい場合は事業計画や経営者の経験がより厳しく見られます。
審査に落ちた場合、すぐに再申込みできますか
6か月以上空ける必要があります。それより短い期間では再審査を受け付けてもらえないのが実情です。期間の経過だけでは評価されないため、その間に落ちた理由を特定して改善してください。
赤字決算でも融資を受けられますか
可能性はあります。返済の原資は利益ではなくキャッシュなので、減価償却費を足し戻した簡易キャッシュフローがプラスであれば返済能力を説明できます。赤字の原因と改善策を数字で示せるかどうかが分かれ目です。
面談に税理士は同席できますか
できません。面談は代表者のみで受けます。書類作成の支援を受けることは問題ありませんが、説明は自分で行う必要があります。
創業前でも申し込めますか
申し込めます。新規開業・スタートアップ支援資金の対象は「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」で、開業前から利用できます。
コロナ融資は今も申し込めますか
新型コロナウイルス感染症特別貸付は新規の取扱いを終了しています。返済負担の軽減が目的であれば、危機対応後経営安定資金(セーフティネット貸付)が該当する可能性があります。コロナ関連融資の貸付残高があることなどが要件です。
リスケジュール中でも公庫に申し込めますか
可能ですが、公庫はリスケジュール中の他の金融機関に同意を求めます。同意が得られなければ融資はできません。先に取引銀行の意向を確認してください。
融資限度額まで借りられますか
現実的には困難です。国民生活事業の主な制度の限度額は7,200万円ですが、1先あたりの平均融資残高は約800万円です。限度額を前提に資金計画を立てると計画どおりになりません。必要額を積み上げて算出してください。
担保を出すと金利は下がりますか
下がります。国民生活事業の基準利率は、無担保が年3.45〜5.20%、有担保が年2.50〜4.80%です(2026年7月1日現在)。ただし創業期に無理に担保を提供する判断は慎重に検討してください。
経営者保証を外すと金利が上がりますか
公庫の経営者保証免除特例制度では、各種融資制度に定める利率がそのまま適用され、上乗せ利率はありません。
提出書類に不備があるとどうなりますか
追加提出のやり取りが発生し、審査期間が延びます。数週間単位で遅れることもあるため、提出前に第三者に確認してもらうことを推奨します。
まとめ
日本政策金融公庫の審査基準は公表されていません。しかし、公表されている制度要件と提出書類から、評価される軸は明確に読み取れます。
- 審査基準は「経済環境」「業績・財務」「経営者の資質」「事業計画の実現性」の4軸
- 個人信用情報の問題と税金の滞納は、財務内容にかかわらず結果を決める
- 公庫は総勘定元帳の仕訳まで確認する。数値のチェックは民間以上に厳格
- 面談は代表者のみ。計画書を自分の言葉で説明できる状態が必須
- 再申込みは6か月以上空ける必要がある。その間に自己資本比率の改善が効く
- 制度選択を間違えると要件に合わない。原因を整理してから相談する
準備の質がそのまま結果に表れる審査です。書類を揃え、数字に根拠を持たせ、想定質問に答えられる状態を作ってから申し込んでください。それができていれば、公庫は創業期や業績悪化局面の事業者に対しても十分に前向きな金融機関です。
申込み前の最終チェック
- 個人信用情報を開示請求で確認したか
- 税金・社会保険料の未納を解消したか
- 自己資金の形成過程を通帳で説明できるか
- 設備資金の見積書、仕入の契約書を用意したか
- 月商・原価率・借入残高を即答できるか
- 売上計画の根拠を積み上げで示せるか
- 返済額が月次キャッシュフローに対して余裕があるか
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公庫の融資実行までのつなぎ資金という選択肢
公庫は低金利で長期の借入ができる一方、融資実行までに1か月以上かかります。この期間に支払いが集中する場合、公庫の融資を待ちながら別の手段で一時的に資金を確保するという組み立て方があります。
ビジネスローンはその選択肢のひとつです。金利は公庫より高くなりますが、必要な期間だけ短期で使い、公庫の融資が実行された時点で返済するという運用であれば、負担を限定できます。重要なのは、公庫の代わりに使うのではなく、公庫が実行されるまでの橋渡しとして使うという位置づけです。
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