公開日:2026.01.26
更新日:2026.01.27
株価52,000円時代の正体。「熱狂なき上昇」の裏側と、元銀行員が語る成熟社会の経営論
2024年3月、日経平均株価が史上初めて40,000円の大台を突破してから、およそ2年の月日が流れました。
当時、市場は半導体関連銘柄を中心に活況を呈し、「未知の領域」への突入として大きなニュースとなりました。
あれから時を経て、現在の日経平均株価は52,000円台後半で推移しています。直近では52,885円と反落する場面も見られますが、2年前とは比較にならない高水準を維持しています。
かつてのバブル経済期を上回る株価水準が常態化している現在ですが、私たちの生活実感として「景気が良い」「儲かって仕方がない」といった高揚感は驚くほど希薄ではないでしょうか。
なぜ、株価という数字だけが歴史的な高みを極めているのに、世の中はこれほどまでに冷静なのか。
本記事では、金融の最前線でバブル経済の「熱狂」とその後の「崩壊」をつぶさに見てきた経験に基づき、現在の株価上昇の性質と、日本社会の成熟について掘り下げていきます。
この記事の要点(30秒で理解)
- 熱狂なき株価5万円:実体経済と乖離した株価上昇は、バブルではなく「社会の成熟」と「個の価値観の多様化」によるもの。
- 元銀行員の視点:かつての不動産バブルのような一極集中型の熱狂は消滅し、資金は分散投資される健全なフェーズへ移行した。
- 経営への示唆:浮かれることなく、好業績を「内部留保」ではなく「戦略的投資(賃上げ・設備)」へ回す企業だけが生き残る。
株価4万円時代定着までの軌跡と経済の現在地
結論:株価は史上最高値圏にありますが、賃金や生活実感との乖離が続く「実感なき好景気」の状態です。
まずは、ここ数年の市場の動きと、経済の基礎知識について整理しておきましょう。
日経平均株価が示すもの、示さないもの
そもそも「日経平均株価」とは、日本経済新聞社が選定した日本を代表するプライム市場上場の225社の株価から算出される平均値です。
あくまで「選ばれた225社」の平均であるため、株式市場全体の動きを概ね表しているとはいえ、すべての上場企業や中小企業の業績と完全に連動するわけではありません。
しかし、日本の景気動向を判断する最も重要な先行指標の一つとして、国内外の投資家や経済界、そして私たち一般市民からも常に注目され続けています。
「数字」と「実感」の乖離
「株価が上がる=景気が良い」というのが経済の教科書的な理解ですが、現在の状況はこの図式が単純には当てはまらない側面があります。
2024年の4万円突破、そして現在の株価水準。数字を見れば間違いなく「好景気」の領域にあります(内閣府「月例経済報告(最新)」)。賃上げも進み、企業の設備投資も活発化しています。
しかし、多くの人々が抱く実感は「生活防衛」や「将来への備え」といった堅実なものであり、かつてのような「浮かれた空気」は微塵もありません。
この「数字と実感のギャップ」を理解するためには、過去に日本が経験した「本当の熱狂」と比較する必要があります。そう、1980年代後半のバブル経済です。
回顧するバブル経済:あの頃、街は「熱狂」に包まれていた
結論:1980年代後半のバブル期は、不動産や投機に資金が一点集中し、国全体が異常な熱狂状態にありました。
今から35年以上前、1980年代後半の日本は、現在の静かな株価上昇とは全く異なる、異様なエネルギーに満ちていました。
当時、銀行員として金融の現場、特に東京の青山や赤坂といったエリアで勤務していた経験から言えば、当時の空気感は「お祭り騒ぎ」という言葉すら生ぬるい、ある種の集団催眠のような状態でした。
異常なまでの不動産融資と「億単位」の日常
当時の銀行業務を振り返ると、その異常さが際立ちます。
毎日のように持ち込まれる地上げ案件への融資相談、都心一等地の不動産開発プロジェクト、地主への執拗な開発営業。大口案件のほとんどすべてが不動産に関連していました。
銀行内部の目標設定も常軌を逸しており、貸出目標金額も預金獲得目標も「前年比プラス20%」といった数字が当たり前のように掲げられていました。
今の感覚では信じがたい高いハードルですが、当時はそれが達成可能なほど、世の中にお金が溢れていたのです。
応接室で繰り返された「にわか富裕層」の誕生
不動産売買取引の多くは、金融支援を行う銀行の店舗で行われます。当時の銀行の応接室や会議室は、連日のように売買契約の会場と化していました。
売主、買主、司法書士、そして担当の銀行員。分厚い契約書に判が押され、その場で億単位の資金が動く。
昨日まで青山で普通にスーパーマーケットに通っていた高齢の女性が、土地を売却したことで、一晩にして大富豪になる。そんなドラマのような出来事が、日常茶飯事として起きていたのです。
関連する預金取引も平気で億単位となり、定期預金の証書を作る手が震えるような金額が、右から左へと動いていました。
街全体、いや国全体が「お金を使うことが正義」であるかのような感覚に支配され、ブランド品、高級車、高騰し続けるマンション、そして億単位のゴルフ会員権へと、人々は雪崩を打って殺到していました。
「熱狂」の代償:崩壊と失われた30年の教訓
結論:現在の株価上昇は投機的なバブルとは異なり、企業業績の改善と実体経済の底上げに裏打ちされています。
しかし、実体を伴わない熱狂は、長くは続きませんでした。
総量規制とバブルの崩壊
終わりの始まりは、政策的な引き締めでした。
高騰し続ける不動産市場の過熱を抑制するため、平成2年(1990年)、政府(当時の大蔵省)は「不動産融資総量規制」を導入しました。
これは、不動産向け融資の伸び率を、貸出全体の伸び率以下に抑えるよう金融機関に指導するものでした。
この政策により、不動産に流入していた資金の蛇口が急激に締められました。結果、不動産価格は暴落し、それを担保にしていた株式市場も連鎖的に崩壊。いわゆる「バブル崩壊」です。
1989年(平成元年)12月29日に記録した38,915円という当時の史上最高値から、株価は坂を転がり落ちるように下落を続けました。その後、平成20年(2008年)のリーマンショックを経て、同年10月27日には終値ベースで7,162円90銭という市場最安値を記録します。
最高値から約20年で、日本の株価は5分の1以下になってしまったのです。
長いトンネルを抜けた先の「現在」
バブル崩壊と、その後の「失われた30年」と呼ばれるデフレ不況。この長い苦境から脱却するために、日本は多大なエネルギーを費やしてきました。
日銀による「異次元の金融緩和」や、アベノミクスによる経済政策、そしてインフレ目標2%の追求。
これら長年の国を挙げた努力と、企業の体質改善が実を結び、ようやく株価はかつての最高値を更新し、4万円、そして5万円を超える水準に到達しました。
現在の株価は、バブル期のような「あぶく銭」によるものではなく、円安を背景とした企業業績の向上や、賃金上昇への取り組みなど、実体経済の底上げに裏打ちされた結果と言えるでしょう。
なぜ今の日本には「熱狂」がないのか?社会の成熟と価値観の変化
結論:個人の価値観が多様化したことで資金の使い道が分散し、画一的な熱狂が起きにくい成熟社会になりました。
【比較図解】バブル期 vs 2026年現在の構造変化
▼ 1980年代 バブル期
- 行動原理:画一的(全員が同じ方向)
- 情報の流れ:マスメディアによる一方通行
- 資金の向かう先:不動産・ゴルフ会員権(投機)
- 社会の空気:集団的熱狂・浪費
▼ 2026年 成熟社会
- 行動原理:多様性(個人の価値観重視)
- 情報の流れ:SNS・WEBによる双方向・分散
- 資金の向かう先:推し活・自己投資・NISA(分散)
- 社会の空気:冷静・生活防衛・堅実
ここで冒頭の問いに戻ります。
なぜ、株価がこれほど上がっても、私たちはバブル期のような「景気の良さ」を実感せず、熱狂もしないのでしょうか。
その理由は、経済構造の変化だけでなく、私たち自身の「価値観の変化」と「社会の成熟」にあると考えられます。
「皆と同じ」を求めたバブル期
バブル期の特徴は、人々の行動の「画一性」にありました。
当時はインターネットもSNSもなく、情報の入手経路はテレビや雑誌といったマスメディアに限られていました。メディアが「これが流行だ」と報じれば、全員がその方向に殺到しました。
例えばクリスマスの過ごし方一つとってもそうです。グルメ雑誌で特集されたフレンチレストランには数ヶ月前から予約が殺到し、当日は長蛇の列。
店内はすし詰め状態で、隣の席との間隔もほとんどない中、皆が似たようなブランド服に身を包み、全く同じコース料理を食べていました。
「2時間制」どころか「60分制」もざらで、時間が来れば総入れ替え。それでいて一人数万円という価格設定でも、誰も疑問を持ちませんでした。
「皆と同じ高級な体験をすること」こそがステータスであり、安心感だった時代です。
「個」を優先する現代の成熟社会
対して現代は、価値観の多様化が極まっています。
SNSやWEBメディアを通じて、誰もが自分の趣味嗜好に合った情報を瞬時に得られるようになりました。
高級車やブランド品にお金を使う人もいれば、推し活やゲーム、旅行、あるいは投資や自己研鑽にお金を使う人もいます。「皆がやっているから」という理由は、もはや消費の決定打にはなりません。
大きなお金が「不動産」や「特定の高級店」といった一箇所に集中して爆発するのではなく、多様な趣味嗜好に合わせて広く薄く分散されている。
これが、現代において「ド派手な景気実感」が生まれにくい最大の理由でしょう。
街中がライブハウスのように騒がしかったバブル期と比較すれば、現在は静かに見えるかもしれません。
しかしそれは、活気がないのではなく、人々が他人の目や流行に流されず、自分にとっての本当の価値を追求できるようになった「成熟した社会」の姿だと言えます。
「熱狂なき時代」の経営判断。
資金の悩みはプロの「右腕」にご相談ください。
株価が高くとも実感が湧かない今だからこそ、手元の資金繰りや将来への投資判断には「冷静な目」が必要です。ヒューマントラストは、元銀行員・財務のプロがあなたの会社の「資金調達エージェント」として、融資交渉から補助金活用まで実務を代行します。
冷静な視点で未来を見据える
結論:世界情勢が不透明な今こそ、市場の数字に踊らされず、自社の価値観に基づいた冷静な投資判断が必要です。
現在の株価高騰に対する社会の反応は、「熱狂」ではなく「冷静」です。
市場関係者や投資家は盛り上がっていても、生活者としての私たちは、浮かれることなく日々の生活を営んでいます。
この「冷静さ」こそが、今の日本の強みではないでしょうか。
不透明な世界情勢と向き合う
世界に目を向ければ、ウクライナや中東での紛争、各国の政治的な分断、環境問題や人権問題など、バブル期には想像もつかなかった複雑なリスクが山積しています。
私たちはネット社会を通じて、これらの情報をリアルタイムで受け取り、世界経済の不透明さを肌で感じています。だからこそ、株価が上がったからといって無防備に散財することなく、将来を見据えた行動をとっているのです。
着実な好循環へ
とはいえ、悲観する必要はありません。賃金の上昇や人手不足による待遇改善など、経済の好循環の芽は確実に出ています。
バブル崩壊のトラウマを乗り越え、デフレマインドから脱却しつつある今、重要なのは「地に足の着いた消費と投資」です。
株価の上昇を一過性のブームに終わらせず、企業収益や個人所得への還元として定着させるためには、私たちが冷静さを保ちながらも、生活を少しだけ豊かにするような「意味のある消費」を行うことが大切です。
まとめ
株価40,000円突破から約2年。現在の株価水準は、かつてのバブル期とは異なり、日本社会の構造変化と努力の上に成り立っています。
かつてのような狂乱的な熱狂がないことは、寂しいことではなく、むしろ日本社会が情報に踊らされず、個々が自律的に価値判断を行えるようになった「成熟の証」です。
「失われた30年」の教訓を胸に、私たちは賢くなりました。
数字に一喜一憂して浮かれることなく、かといって過度に悲観することもなく。
冷静に市場の動向を注視しながら、自分自身の価値観に基づいた着実な歩みを進めていく。
そんな成熟した姿勢こそが、これからの日本経済をより強固なものにしていくはずです。
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東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。
東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。







