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公開日:2025.12.08

更新日:2025.12.08

有価証券報告書・アニュアルレポート・統合報告書の違いとは?役割と法的義務を徹底比較

有価証券報告書、アニュアルレポート、統合報告書の違いと役割を、天秤、上昇矢印、地球のアイコンが付いた3冊の冊子で視覚的に比較表現。

上場企業は、事業の実績や将来の展望について、規制当局および投資家へ定期的に報告する義務を負っています。しかし、「有価証券報告書」「アニュアルレポート」「統合報告書」の3つの違いについて、明確に説明できる担当者は意外と少ないのではないでしょうか。

これらはそれぞれ「誰に」「何を」「何のために」伝えるかが異なります。本記事では、企業情報の開示(ディスクロージャー)におけるこれら3つの主要な報告書の定義、役割、そして法的義務の違いについて徹底解説します。

この記事の要点

  • 有価証券報告書:法律で義務付けられた「過去の成績表」。正確性が最優先。
  • アニュアルレポート:投資家に魅力を伝える「カタログ」。デザインや写真は自由。
  • 統合報告書:財務と非財務を統合した「将来の成長シナリオ」。ESG重視。
  • 中小企業の活用法:義務はなくとも、この視点で自社情報を整理すると「銀行融資」に有利になる。

有価証券報告書:法的義務に基づく「過去」の正確な記録

結論:有価証券報告書とは、上場企業等が金融商品取引法に基づき提出を義務付けられた、企業の経営状況や財務内容を外部へ開示するための法定説明書です。

まず、最も基礎的かつ強制力の強い書類が「有価証券報告書(有報)」です。

金融商品取引法に基づく開示義務

有価証券報告書は、金融商品取引法第24条において、株式などの有価証券を発行する上場企業等に開示が義務付けられた法定開示書類です。提出期限は厳格に定められており、事業年度終了後から3ヵ月以内に内閣総理大臣(実務上は財務局長等)へ提出しなければなりません。(参考:日本取引所グループ「上場会社のディスクロージャー制度」

最大の特徴は、記載項目や提出形式が法律で厳密に規定されている点です。また、記載される財務諸表については、公認会計士または監査法人による監査証明が必須(金融商品取引法第193条の2)となります。一般的な決算書作成とは異なり、有価証券報告書の数値には虚偽記載に対する刑事罰を含む重い責任が課されています。これにより、投資家は信頼性の高い情報を得ることが可能となります。

提出義務の対象範囲

提出義務があるのは上場企業だけではありません。以下の条件に該当する場合、非上場企業であっても提出が求められます。

  • 店頭登録企業
  • 有価証券届出書提出会社
  • 過去5年間に、事業年度末日時点の株主数が1,000人以上となったことがある有価証券発行会社

有価証券報告書の主な記載内容

有価証券報告書は、企業の事業実態を詳細に開示することを目的としており、主に以下の項目で構成されています。

(1)企業の概況
主要な経営指標(売上高、経常利益、純資産額など)の推移や沿革、事業の内容、関係会社の状況、従業員数や平均給与などの基礎データ。
(2)事業の状況
経営方針、経営環境、対処すべき課題、事業等のリスク、経営者による財政状態・経営成績・キャッシュフローの分析(MD&A)、重要な契約、研究開発活動など。
(3)設備の状況
設備投資の概要、主要な設備の内容や帳簿価額、設備の新設・除却計画。
(4)提出会社の状況
株式の状況(発行済株式数、大株主)、自己株式の取得状況、配当政策、株価推移、役員の状況、コーポレートガバナンスの状況。
(5)経理の状況
連結および単独の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書、および詳細な注記事項。
(6)株式事務の概要
決算期、株主総会時期、基準日、単元株式数、公告方法など。

なお、「1単元の株式数」とは、通常の株式取引で売買される最低単位(現在は多くの企業で100株)を指します。また、「公告掲載方法」とは、決算公告や合併公告など、会社法等の規定により株主や債権者に周知すべき事項を、官報、日刊新聞、電子公告のいずれの媒体で行うかを示したものです。

このように、有価証券報告書は企業が外部へ開示する「事業実態に関する最も詳細なファクトブック」です。投資家にとっては、過去5年分の数値推移や異常値の検証ができるため、投資判断を下すための最も有力な一次情報源と言えます。

アニュアルレポート:自由な表現で「魅力」を伝える年次報告書

結論:アニュアルレポートとは、企業が投資家に向けて自主的に作成する年次報告書のことです。法的義務はなく、写真やデザインを用いて企業の魅力を伝える役割を持ちます。

法定書類である有価証券報告書に対し、企業が自主的に制作・発行するのが「アニュアルレポート(年次報告書)」です。

法定外のIRツールとしての役割

アニュアルレポートは、その名の通り1年間の活動報告書ですが、日本においては法律による作成義務はありません(米国等では義務付けられています)。そのため、掲載情報、デザイン、判型、構成などは各企業の裁量に委ねられています。

有価証券報告書が「白黒・定型」の書類であるのに対し、アニュアルレポートは写真、グラフ、コーポレートカラーを多用し、視覚的に企業の魅力を訴求します。主なターゲットは株主、投資家、金融機関であり、近年では企業のブランディングツールやリクルーティング(採用)資料としても活用されています。

特に、海外投資家へのアプローチを視野に入れている企業にとって、英語版アニュアルレポートの発行は事実上のスタンダードとなっています。

統合報告書:財務と非財務を繋ぐ「未来」のシナリオ

結論:統合報告書とは、財務情報と非財務情報(ESGや知的財産など)を統合し、企業が中長期的に価値を創造するストーリーを説明するための報告書です。

近年、アニュアルレポートに代わって急速に普及しているのが「統合報告書(Integrated Report)」です。

アニュアルレポートとの違い

「アニュアルレポート」と「統合報告書」の境界線は曖昧になりつつありますが、決定的な違いはその「時間軸」と「情報の範囲」にあります。

  • アニュアルレポート:主に「過去1年間」の実績報告とCSR活動の紹介。
  • 統合報告書:過去の実績に加え、「中長期的な価値創造」に焦点を当てる。

統合報告書は、売上や利益といった「財務情報」と、ESG(環境・社会・ガバナンス)や知的財産、そして昨今のトレンドである「人的資本経営」において重視される人的資本などの「非財務情報」を統合し、企業が将来にわたってどのように価値を生み出し続けるかを説明するものです。

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なぜ統合報告書が増えているのか

背景には、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)やPRI(責任投資原則)の浸透があります。投資家は今、単年度の利益だけでなく、「その企業が10年後、20年後も持続可能(サステナブル)か?」という視点で評価を行っています。

これに応えるため、KPI(重要業績評価指標)とともに長期的な成長ストーリーを示す統合報告書は、利益至上主義・株主至上主義から脱却し、進化した企業経営を示すための必須ツールとなりつつあります。

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3つの報告書の比較まとめ

これら3つの報告書は、企業の情報を開示するという点では共通していますが、その目的と性質により明確な棲み分けがなされています。
主な違いを一言で整理すると、「法律で定められた過去の記録(有報)」か、「企業の魅力を伝える任意の媒体(アニュアル・統合報告書)」かという点に集約されます。それぞれの違いを整理した一覧表が以下になります。

項目 有価証券報告書 アニュアルレポート 統合報告書
主な目的 法定開示(事実の記録) 投資家へのアピール(魅力の伝達) 価値創造プロセスの説明(持続性の証明)
法的義務 あり(金商法第24条) なし(任意) なし(任意)
※ただしCGコード等で推奨
監査 必須(監査証明が必要) 不要 不要(財務部分は有報と一致)
中心となる情報 過去の財務情報・リスク 単年度の業績・トピックス 中長期の戦略・ESG・非財務資本
デザイン 定型フォーマット 自由(ビジュアル重視) 自由(図解・インフォグラフィクス重視)
視点で見る3つの報告書の違い
過去(実績)重視
  • 有価証券報告書確定した数値の「正しさ」を証明する法的書類。
    監査法人の監査が必須。
現在(魅力)重視
  • アニュアルレポートその年のトピックスや強みをアピール。
    ビジュアル重視で読みやすい。
未来(価値)重視
  • 統合報告書過去の実績を根拠に、将来どう成長するかを語る。
    非財務情報(強み)が鍵。

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「過去・現在・未来」どの情報を重視するか

この表からも分かる通り、それぞれの報告書は重視している「時間軸」が異なります。

  • 有価証券報告書(過去):確定した実績数値の正しさを証明する「通信簿」。
  • アニュアルレポート(現在):その年のハイライトや魅力を伝える「カタログ」。
  • 統合報告書(未来):過去の実績を元に、将来どう成長するかを語る「シナリオ」。

投資家や読者は、正確な財務分析を行いたい場合は「有価証券報告書」を読み込み、企業の将来性や社会的価値を判断したい場合は「統合報告書」を参照するなど、目的に応じてこれらを使い分けています。

まとめ:中小企業における活用の視点

有価証券報告書は上場企業の義務ですが、そこに記載される詳細な事業分析は、中小企業経営においても非常に参考になるフレームワークです。

また、統合報告書やアニュアルレポートを作成する義務がない中小企業であっても、自社の「財務情報」と「非財務情報(強み、人材、顧客基盤)」を整理し、将来の計画としてステークホルダーに提示することは、銀行融資や人材採用において強力な武器となります。

それぞれの報告書の特性を理解し、自社のステージに合わせて適切な情報開示を行うことが、経営の透明性を高め、長期的なファンを獲得する第一歩となるでしょう。

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三坂 大作
監修者三坂 大作
ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役

東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。

東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
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