公開日:2026.01.21
更新日:2026.01.21
資格や知識だけでは経営は救えない。現場で求められる「泥臭い調整力」と「撤退の勇気」
「コンサルタント」と聞くと、皆様はどのようなイメージをお持ちでしょうか。「胡散臭い」と警戒されることもあれば、頼れる「参謀」として期待されることもあり、その評価は様々です。
しかし、実際の経営現場で直面する「正解のない問い」を、教科書的な知識だけで解決できるケースは稀です。
本記事では、国家資格を持つ「士業」と、現場で汗をかく「実務型コンサルタント」の違いを紐解きながら、M&Aや事業再生の最前線で真に求められる役割について、実際の事例を通じて考察します。
この記事の要点
- 国家資格を持つ「士業」と、現場で汗をかく「実務型コンサルタント」の決定的な役割の違いを解説。
- 【事例1】M&A交渉を停滞させる「創業家の感情」を解きほぐす、泥臭い人間関係の調整力とは。
- 【事例2】「売上2億円」に固執する赤字企業に対し、あえて「事業縮小」を提言し再生させた実話。
知識を提供する「士業」と、実行を支援する「実務型コンサルタント」の違い
結論:士業が「知識とルール」の提供者であるのに対し、実務型コンサルタントは経営内部に入り込み、人間関係の調整や戦略実行を担う「インサイダー」としての役割を果たします。
企業経営には、様々な専門知識が必要です。製造業であれば生産技術や品質管理の専門家、管理部門であれば人事、経理、法務、システムなどのスペシャリストが求められます。
その中でも、特定の分野において国家資格を有し、排他的独占業務を行う専門家たちがいます。弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、司法書士といった、いわゆる「士業」と呼ばれる方々です。
彼らは間違いなく「コンサルタント」の一種であり、法律や会計基準という明確なルールに基づき、企業が道を踏み外さないよう指導する重要な役割を担っています。
しかし、経営の現場で発生する課題のすべてが、法律や数字だけで割り切れるわけではありません。
「正論」だけでは動かない経営の現場
例えば、新たな事業戦略を策定する場合や、組織の方向性を大きく転換する場合、法的に正しいか、会計的に正確かという視点だけでは不十分です。
「その戦略で社員のモチベーションは上がるのか」「取引先との関係性は維持できるのか」「経営者の想いは反映されているのか」といった、定性的で人間臭い要素が複雑に絡み合います。
ここで登場するのが、特定の国家資格には依存しない「経営企画型」あるいは「実務型」と呼ばれるコンサルタントです。
士業の先生方が「ルール(知識)の提供者」であるなら、実務型コンサルタントは「戦略の実行者」であり「調整役」です。
「インサイダー」として経営に入り込む
実務型コンサルタントの最大の特徴は、外部の人間でありながら、限りなく内部(インサイダー)に近い立ち位置で動くことです。
社長の孤独な悩みを聞き、部門間の軋轢(あつれき)を調整し、泥臭い現場の指揮を執る。
時には経営者の「懐刀」となり、時には耳の痛いことを言う「諫言(かんげん)役」となる。
このような役割は、特定の資格があるからできるものではありません。数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験則や、人間の心理に対する深い洞察、そして何よりも経営という営みへの理解があって初めて務まるものです。
次章からは、そのような「実務型コンサルタント」が介在することで解決した具体的なケーススタディを見ていきましょう。
コンサルタントの役割比較
士業(専門職)
- 役割:ルールの提供者法律、会計基準、税法などの正解を示す
- 強み:高度な専門知識国家資格に基づく排他的独占業務
- アプローチ:客観的・外部「正しいか否か」で判断する
実務型コンサルタント
- 役割:戦略の実行者・調整役経営者の想いや現場の感情を翻訳する
- 強み:泥臭い人間力インサイダーとして組織内部に入り込む
- アプローチ:主観的・内部「どう動かすか」で判断する
【事例研究】M&Aの成否を分けるのは、条件交渉ではなく「感情の調整」
結論:M&Aの最大の障壁は条件面ではなく「経営者の感情」です。コンサルタントには、トップ同士のメンツや想いを翻訳し、わだかまりを解消する「泥臭い調整力」が不可欠です。
企業の成長戦略として、M&A(合併・買収)が一般的になってきました。しかし、M&Aは単なる「会社と会社の売買」ではありません。「人と人との結婚」に近い側面を持っています。参考:中小M&Aガイドライン(中小企業庁)
特に、オーナー経営者同士のM&Aにおいては、条件面や金額の多寡よりも、「感情面」の調整が最大のハードルとなることが少なくありません。
「旧知の仲」が招く交渉の停滞
ある流通事業者が、市場シェア拡大のために同業他社とのM&Aを計画した事例を考えてみましょう。買い手企業の社長と、売り手候補企業の社長は、実は昔からの知り合いで、業界の会合などで顔を合わせる「旧知の仲」でした。
一見すると、「トップ同士が知り合いなら話が早い」と思われるかもしれません。しかし、実際のM&A交渉において、中途半端な人間関係はむしろ障害になります。
「あいつの会社には飲み込まれたくない」「昔からの付き合いなのに、こんな条件を突きつけてくるのか」といった感情的なわだかまりが生まれやすく、ドライな条件交渉ができなくなるのです。
このような膠着状態に陥った時、金融機関や証券会社の仲介担当者が間に入りますが、彼らはどうしても「案件を成立させること(クロージング)」を優先しがちです。
また、杓子定規なビジネスライクな対応では、創業家ならではの複雑なプライドや葛藤を解きほぐすことはできません。
経営者の「メンツ」と「想い」を翻訳する役割
ここで必要となるのが、両者の間に入り、感情のもつれを解きほぐす「調整役」としてのコンサルタントです。この役割に求められるのは、ファイナンスの知識よりも、相手の懐に飛び込むコミュニケーション能力です。
例えば、相手方の社長が「気難しく、無口」だと評判だったとします。しかし、膝を突き合わせてじっくりと話を聞いてみると、その頑なな態度の裏には、切実な想いが隠されていることが多いのです。
- ・「代々続いてきた暖簾(のれん)を、自分の代で消滅させたくない」
- ・「敵対的な買収と見なされ、地元での評判を落としたくない」
- ・「長年苦労を共にしてきた従業員の雇用だけは死守したい」
こうした本音は、契約書の条文には現れません。コンサルタントは、これらの「想い」を汲み取り、買い手企業側に翻訳して伝える必要があります。
「吸収合併」という見え方ではなく、対等な「経営統合」というスキームを提案したり、統合後の名称や人事に配慮したりすることで、相手のメンツを立てるのです。
結果として、トップ同士が笑顔で握手できる円満なM&Aが実現します。これは、数字だけの調整では決して成し得ない、人間関係の機微を知るコンサルタントならではの仕事と言えるでしょう。
【事例研究】「売上」の呪縛から脱却し、勇気ある「縮小」で利益を生み出す
結論:中小企業の再生においては、売上規模の維持よりも「利益体質への転換」が最優先です。コンサルタントは経営者に「不採算事業からの撤退」という痛みを伴う決断を促す勇気が求められます。
M&Aが企業の「攻め」の局面だとすれば、コンサルタントの真価がより問われるのは、企業の存続がかかった「守り」や「再生」の局面かもしれません。
特に中小企業においてよく見られるのが、「売上至上主義」による経営の疲弊です。
「忙しいのに儲からない」というパラドックス
コロナ禍や市場環境の変化により、業績が悪化した建設関連企業の事例を見てみます。年商は2億円規模、技術力もあり、社長は若く意欲的です。
現場は常に動いており、社員たちは休む暇もないほど忙しい。しかし、決算書を開けてみると赤字が続き、資金繰りは火の車で、高金利のファクタリング(売掛金買取)を利用してなんとか給与を支払っている状態でした。
なぜ、このような事態に陥るのでしょうか。原因の多くは、「売上規模を維持すること」自体が目的化してしまっていることにあります。
この事例の企業では、大手からの優良案件が減少した穴を埋めるために、利益の出ない小規模な工事や、本来断るべき採算割れの案件を無理やり受注していました。
「売上が下がれば、銀行の評価が下がる」「一度断れば、二度と注文が来なくなる」という恐怖心が、社長を不採算工事の受注へと駆り立てていたのです。
売上を捨てる「経営計画」の策定
このような状況でコンサルタントに求められるのは、社長に対して「売上を減らしましょう」と提言する勇気です。これは経営者にとって、身を切られるような辛い決断です。「年商2億円」という看板を下ろし、会社を一回り小さくすることを意味するからです。
しかし、データを冷静に分析すれば、答えは明白です。売上の維持だけを目的に、人件費や外注費を垂れ流していては、会社はいずれ破綻します。
コンサルタントは、感情論ではなく、客観的な数値に基づいて以下の提案を行います。
- ・不採算案件の完全撤退
- ・粗利率が一定基準(例えば12%)を満たす仕事への集中
- ・社長自身の業務時間の見直しと、高付加価値業務へのシフト
例えば、売上高が2億円から1億2000万円に激減したとしても、赤字案件にかかっていた外注費や経費が削減され、手元に残る利益がプラスになれば、会社は生き残ることができます。
これを実現するための具体的な「経営計画書」を作成し、金融機関に対して「規模は縮小するが、筋肉質な体質に生まれ変わる」ことを論理的に説明し、融資を取り付ける。ここまでがセットになって初めて、再生への道筋がつきます。
経営者にとっての真のパートナーとは、「イエスマン」ではない存在
ここまで、M&Aと事業再生という2つの局面におけるコンサルタントの動きを見てきました。共通して言えるのは、コンサルタントは単なる「御用聞き」や「代行屋」であってはならないということです。
孤独な決断を支える「外部の視点」
経営者は孤独です。社内の部下には弱みを見せられず、最終的な責任を一人で背負っています。だからこそ、耳触りの良いことばかりを言うイエスマンではなく、時に厳しく、客観的な事実を突きつけてくれる存在が必要です。
社長が感情的になってM&Aを破談にしようとした時、「それは将来の損失です」と諫めること。社長が売上に固執して赤字を垂れ流している時、「事業を縮小しましょう」と決断を迫ること。これらは、社内の人間関係やしがらみの中にいる従業員には難しい役割です。
外部の第三者でありながら、経営者と同じ視座で会社の未来を考え、嫌われることを恐れずに正しい道を指し示す。
そして、一度方針が決まれば、その実行のために泥臭く現場を調整して回る。これこそが、資格や肩書きを超えた「経営企画型コンサルタント」の真価なのです。
ビジネス環境が複雑化し、正解が見えにくい現代において、教科書通りの理論は通用しなくなっています。だからこそ、現場のリアリティを知り、人と人、数字と感情の間をつなぐ「人間力」を持ったコンサルタントの需要は、今後ますます高まっていくことでしょう。
赤字からの脱却や資金繰りの見直しには、専門的な視点と実行力が必要です。
資金繰り改善や事業再生のプロに相談する(資金調達エージェント)
まとめ
コンサルタントという職業には、華やかなイメージの裏に、極めて泥臭い実務の世界が広がっています。士業のような独占業務を持たないからこそ、実務型コンサルタントは「結果」と「信頼」だけで勝負しなければなりません。
M&Aにおける感情的なもつれの解消や、中小企業の再生における痛みを伴う改革。これらを完遂するために必要なのは、高度な理論よりも、経営者の心に寄り添い、現場を動かす力です。
もし、あなたが経営の舵取りに迷い、孤独を感じているのなら、資格の有無にとらわれず、真に腹を割って話せる「実務のパートナー」を探してみてはいかがでしょうか。








