公開日:2025.12.04
更新日:2025.12.04
【実践編】企業と従業員が共に成長する「従業員エンゲージメント」5つの向上施策
前回のブログで、「従業員エンゲージメント」を構成する重要な3つの要素、「理解」「共感」「行動意欲」について解説しました。
あわせて読みたい:前回の記事:「従業員エンゲージメント」を構成する3つの要素についてはこちら
しかし、概念を理解するだけでは経営は変わりません。これらの要素を実際の経営施策に落とし込み、組織全体で意識向上を図ることができて初めて、企業と従業員双方に真の価値が生まれます。
コンサルティングの現場でも、「エンゲージメントの重要性は分かったが、具体的に何をすればいいのか?」という声を経営者の方々から頻繁に耳にします。理論を実践へと昇華させることこそが、多くの企業が直面している壁であり、同時に大きなチャンスでもあります。
今回はその「実践編」として、具体的な施策の話に入る前に、まずはこの取り組みがもたらす実利的なメリットから紐解いていきます。
この記事のポイント
- エンゲージメント向上は「売上アップ」と「離職率低下」の特効薬
- 理念浸透・評価制度・対話など、今すぐ検討すべき5つの具体的施策
- 令和の組織づくりは「忠誠心」ではなく「対等なパートナーシップ」が鍵
「従業員エンゲージメント」がもたらす双方のメリット
まず、なぜ今この取り組みが必要なのか、そのメリットを整理しておきましょう。
企業側のメリット:売上向上と離職率の低下
企業にとっての最大のメリットは、業績への好影響です。「従業員エンゲージメント」が向上すると、従業員のやる気やモチベーションが向上して成果を生み出しやすくなるため、結果として売上アップにつながります。また、従業員の行動意欲が高まれば、新しいことに挑戦する気概が生まれ、事業領域(事業分野、事業地域の両面において)の拡大も可能になります。
さらに重要なのが「人材の定着」です。事業活動に従事する従業員の当事者意識が高まれば、日本企業の多くの悩みである離職率の低下が期待できます。企業の持続可能性に寄与する人材の時間的連続性(これが企業の伝統につながります)が確保され、魅力的な労働環境が構築されることで、新しく優秀な人材の採用も容易になるはずです。
従業員側のメリット:働きがいと生産性の向上
一方、従業員にとってのメリットは、企業側のメリットよりも、もっと直接的なものです。「従業員エンゲージメント」が促されるということは、従業員が会社の事業活動に対して、企業理念や事業コンセプトを軸として、共通の「理解」と「共感」を持つことを意味します。
そもそも、会社の業務のほとんどは、従業員一人で完結することはありません。現場担当者、業務責任者、実務担当者、決裁権限者などの協業によって会社の事業活動は推進されています。そこのメンバーである各従業員に共通の「理解」と「共感」があるということは、個人の能力をベースとしたチームワークが促され、個人のモチベーションが向上し、職場の雰囲気や風通しが良くなります。
つまり、従業員が働きやすく貢献しやすい職場環境をつくり出すことで、従業員個人がストレスなく働けるようになります。結果として、組織としての連携力が高まり、生産性が向上します。さらに企業収益が拡大すれば、従業員の給与アップにつなげることも可能になるのです。
従業員エンゲージメントを向上させる5つの具体的施策
では、実際にエンゲージメントを高めるためには何をすべきでしょうか。ここでは必須となる5つの施策を挙げます。
企業理念・ビジョンの浸透
最初に企業としての企業理念・事業コンセプト・ビジョンを整理しまとめる必要があります。そのためには、経営トップや経営陣が、会社創業からの創業理念とビジネス環境の変化に合わせた対応を明確に把握する必要があります。
中小企業の経営者であれば、何も見ないでも、企業理念やビジョンは話せる場合があります。それは、創業家やそれに近い経営陣は、創業に関わる企業の成り立ちを常に意識して事業を行っているからです。一方で、上場企業の場合は、いわゆるサラリーマン社長や取締役が大半ですので、創業からの企業の意識づけは乏しい場合があります。
もちろん、創業時には考えられないような事業領域の拡大はありますが、それも「各企業の歴史」として理解しておく必要があります。創業時の企業理念を現代のビジネス環境下でどのように進化させてきたのかが、これからの企業の将来ビジョンにつながるストーリーになるはずです。
こうした企業理念・ビジョンを、研修会、懇話会、オフミーティングなどの施策を使って、従業員への浸透を図っていくことが重要です。例えば、従業員全員が閲覧共有できる社内報の発行により、企業理念やビジョンを図解や写真などを活用して理解してもらうのも良いでしょう。また、「統合報告書」制作発行や新規事業立ち上げ、新しい店舗開設などのプロジェクトのスタートに関わるキックオフミーティングなどで再認識することも可能です。
評価システムの導入
「従業員エンゲージメント」の活性化には、従業員による実際の行動・実践を可視化することが大切です。自身の行動・実践による会社への貢献が、全く誰にも見えていない状態では、従業員としては一抹の「不安」「孤立感」を覚えるケースがあります。それは、行動・実践・貢献を評価する評価基準が分からないからです。
こうした状況を回避するために、従業員の行動・実践による会社貢献を可視化する「評価システム」が必要になります。例えば、表彰制度や人事評価への反映などの導入検討がこれに当たります。また、経営に携わる経営上層部だけが従業員を評価するのではなく、従業員同士で評価できる環境があれば、お互いを高め合うことが可能になります。従業員にとっては、評価を数値として可視化することは、会社の事業、ビジネスへの積極性や意欲向上にもつながります。
しかしながら、こうした評価システムは、すべての従業員に適しているものではないことも念頭に置くべきです。そもそも「〇〇賞」といった競争システムに馴染まない管理部門もありますし、個人的にそうした競争環境を嫌悪する従業員もいます。その意味では、従業員の会社貢献に対する「評価システム」は柔軟に重層的な形で検討する必要がありますので、留意してください(映画『ハリー・ポッターと賢者の石』の最後の表彰式のようなイメージでしょうか)。
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社内コミュニケーションの活性化
「従業員エンゲージメント」の向上に不可欠なのが、コミュニケーションです。従業員同士、経営上層部との距離を縮め、信頼度を高めるためにも、社内コミュニケーションの活性化は絶対に必要です。
ランチミーティング、個別対話、研修会、事業に関わる発表会、レクリエーション、運動会、スポーツ大会など方法は様々ですが、事業実態、コスト、業務時間などを勘案して検討すると良いでしょう。また、社内コミュニケーションの活性化について、社内アンケートを定期的に実施することも有効です。
ワークライフバランスの適正化
某大手広告代理店で過重労働による問題があったように、企業として従業員の健全なメンタルヘルスの維持管理は、すでに現在のビジネス環境において極めて重要な経営課題になっています。いわゆるワークライフバランスの問題ですが、従業員の就業実態が「ワーク」に偏った状態であれば、職場環境の見直しを検討する必要があります。
これは、単純な人事マターではなく、営業から管理部門、製造現場、販売現場などの企業のすべての部署とのバランスにも関係してくる経営課題だと言えます。近年では、ノー残業デーやフレックスタイム制、リモートワークなどのような取り組みが実施され、従業員それぞれの勤務形態が柔軟に設計されてきています。
また、従業員のプライベートを充実させるための環境を整えることが、従業員の信頼獲得には重要です。日本では、プライベートよりもビジネスを優先させる傾向が強かったですが、新しいZ世代などの価値観の変化もあり、日本の企業においても職場環境を新しい世代やビジネス環境に対応する形で改善する必要があります。
「有給消化の必須日数設定」、「男女問わない育児休暇の取得促進」、「リモートワークによる生産性の向上」などの検討がこれに該当します。
就労環境適合施策の提供
働きやすい就労環境の整備やコミュニケーションの場の提供だけで、必ずしも全従業員の「従業員エンゲージメント」が向上するわけではありません。従業員の中には、企業が実施する施策に馴染めない、溶け込めない人材も少なからずいます。
そのような場合には、企業として当該従業員の能力を発揮してもらうかを検討することが必要になります。例えば、従業員本人の意向を踏まえたキャリアデザイン研修、現場に即応できるようにするOJTやOff-JTの実施、就労やキャリアに関わる相談窓口の設置、さまざまな資格やスキルアップにつながる研修メニュー整備、外部専門家との懇親会、他企業への出向などが考えられます。特に、研修については、若手社員から管理職まで網羅し、従業員の勤続年数や役職などをもとに複数のサポート体制があるとベストです。
「強い組織づくり」への投資、資金面でサポートします
評価制度の構築、研修の実施、働き方改革の推進にはコストが伴います。
成長のための前向きな資金調達や助成金の活用など、プロにご相談ください。
施策を成功させるためのポイント
このような「従業員エンゲージメント」を向上させる具体的な施策を効果的に実施するためには、留意するポイントがあります。
「従業員エンゲージメント」に関して、企業が行う施策については、往々にして、企業の一方通行で独りよがりな施策である場合があります。つまり、従業員の考えや就労についての要望にマッチしていないことも多いのです。例えば、一定の年次、役職で実施される研修が、単純な出世を目的としているとしたら、研究職を追求するような従業員には関心がありません。また、どんな研修でも実際の現場業務との兼ね合いで従業員のワークバランスを崩してしまう危険性もあります。
こうした事態を回避するには、施策を計画している段階で事前に従業員アンケートを実施することが有効です。会社に対する不満、実施して欲しい施策、実施施策の改善点などを定期的に従業員とのコミュニケーションの一環として実施することで、効率的な施策の設計と実施に繋がります。従業員アンケートの結果に基づき、しっかりと従業員のことを理解したうえで施策を検討すれば、より従業員に寄り添った施策を用意できます。経営者や上層部だけが率先して動くのではなく、従業員の意見を汲み取り、従業員の要望に寄り添った施策を推進することが効率的な「従業員エンゲージメント」向上につながります。
さらに、施策を実施しはじめたら、定期的に内容を振り返ってブラッシュアップする必要もあります。従業員アンケートなどで指摘されることで、施策の改善点が明らかになり、社内外の変化や時代の潮流に即した改善や変更が可能になります。もし社内で実施している施策がうまくいかない場合は、他社の実施事例を参考にしてみることも有効ですし、外部コンサルティングの導入も検討する価値があります。
以前のブログで、コンサルティングの経験で社長から「企業理念」や「事業コンセプト」の作成を依頼されることがあると話しました。「従業員エンゲージメント」の大前提である会社の考え方、方向性、ビジョンですらコンサルティングのテーマになるのですから、「従業員エンゲージメント」向上に関しても、会社の実態に合わせて外部ブレインの活用は有効です。さらに、他社の失敗事例を調べたうえで「何を回避するべきなのか」を把握することも、効率的に「従業員エンゲージメント」を設計する上で参考になるはずです。
まとめ:令和の「エンゲージメント」は「忠誠心」ではない
「従業員エンゲージメント」は、日本企業にとっては、古くて新しい経営課題と言えます。そもそも、日本式の会社では、従業員は家族と一緒であるという意識の経営陣が多かったと思います。武家政治時代の「御恩と奉公」「本領安堵」「忠誠心」という考え方は、現代の「従業員エンゲージメント」の向上と似た雰囲気があります。
また、日本古代の歴史には、「仁徳天皇のかまどの煙」(仁徳天皇が、民のために実施していた治水事業などの大規模公共事業のために民が困窮し、民家のかまどから食事を作る煙もあがらなくなってしまったため、仁徳天皇は税金を3年免除し、その間、自らの宮の雨漏りも修理せずに我慢したという逸話)のように、経営陣の方針による従業員の実情に合わせた施策には、日本人としてどこか馴染みのあるものです。
こうした日本的な発想は大切にしたいところですが、「従業員エンゲージメント」の向上というのは、日本式の「上から目線」とは異なるものです。「従業員エンゲージメント」に関わる施策は、企業に対する「忠誠心=Royalty」を求めるものではありません。あくまでも、従業員を企業の重要なステークホルダー(利害関係者)として尊重するところからがスタートです。
「忠誠心」と「エンゲージメント」の違い
従来の日本型(忠誠心)
- 関係性主従関係・滅私奉公
- ベクトル従業員から会社への一方通行
- キーワード御恩と奉公・終身雇用
令和の実践型(エンゲージメント)
- 関係性対等なパートナー・共創
- ベクトル会社と従業員の双方向の関与
- キーワード理解・共感・行動意欲
その意味では、経営上層部や株主とも対等な位置づけで議論することが重要です。その上で、企業の持続可能な成長と収益拡大を図り、従業員を含めたすべてのステークホルダーの利益の極大化を目指すのが「従業員エンゲージメント」向上の目的なのです。これによる従業員の自発的な行動・実践によって、地域社会や地球環境にも素晴らしい貢献ができる企業となることが、企業価値の向上につながります。
中小企業の経営計画においても、企業の考え方、方向性を理解し共有できる従業員の存在は貴重であり、必要な人材です。その意味で、可能な限りの「従業員エンゲージメント」の向上には配慮した経営を推進していただきたいと思います。
エンゲージメント向上で、持続可能な経営基盤を
ヒューマントラストは、資金調達だけでなく、企業価値を高めるための
経営戦略・組織づくりも「実行支援型」でサポートいたします。








