公開日:2025.12.02
更新日:2025.12.02
「経営戦略」だけで勝てない理由とは?VUCA時代に成長企業が実践する「経営管理」の真髄
昨今のビジネスシーンにおいて、企業の持続的な成長やガバナンスの強化が叫ばれる中、「経営戦略」の重要性は誰もが認めるところです。しかし、その戦略を確実に実行し、軌道修正を行いながらゴールへ導くための「経営管理」の仕組みについては、意外と議論が深まっていないのが実情ではないでしょうか。
どんなに優れた戦略も、それを支える強固な管理体制がなければ絵に描いた餅に終わってしまいます。
今回は、企業の競争力を底上げするために不可欠な「経営管理」の重要性と、その構築のポイントについて、あるコンサルティングの事例を交えながら、詳細に解説していきます。
この記事の要点
- 経営戦略を成功させるには、土台となる強固な「経営管理」が不可欠
- VUCA・ESG時代は「非財務情報」と「迅速な意思決定」が企業の価値を決める
- DX推進の前提は「脱・どんぶり勘定」による正確なデータ共有にある
「年次報告書」と「統合報告書」の決定的な違い
「年次報告書」と「統合報告書」には、どのような違いがあるのでしょうか?
基本的に、企業の財務情報を記載するという点においては共通しています。しかし、「年次報告書」では、その年度で実施した事業内容やその年度に取り組んだCSR(企業の社会的責任)活動を掲載するのに対し、「統合報告書」では、将来にわたって企業価値を向上させることを目的とした、長期的に取り組む事項が盛り込まれている点に大きな違いがあります。
単に年度内に実施したCSR活動やSDGsに対応した取り組みを羅列するだけではありません。財務面での業績以外の面で、企業が社会的責任をどのように果たしていくのかを深く記述しています。
要するに、企業が長期的に存続し成長を続けるためには、ESG(環境=Environment・社会=Social・ガバナンス=Governance)への取り組みは不可欠であるという前提のもと、財務情報と非財務情報を「統合」し、包括的な企業の成長プランを説明しているのが「統合報告書」という訳です。
参考:経済産業省「企業会計・開示・CSR(サステナブル経営・ESG投資など)」
これらは主に上場企業が投資家の支援を獲得するためのツールですが、中小企業経営においても、この視点は無視できません。上場企業や大企業との取引を目指す場合、こうした報告書の内容を理解しておく必要があります。なぜなら、これらの報告書を作成・実行するためには強固な「経営管理」が不可欠であり、その管理手法は企業の規模を問わず、これからの産業界でより重要視されていくからです。
「経営戦略」を支える基盤としての「経営管理」
一口に「経営管理」といっても何を示すのか、ここで定義を明確にしておきます。
大まかに言えば、「企業の事業に関わる意思決定を、最適な決定に導くための仕組み」と定義できます。具体的には、組織・人事体制、業績評価制度、情報管理、システム管理、財務管理などがこれに含まれます。
攻めの「戦略」と守りの「管理」
「経営管理」と対を成す用語として「経営戦略」という言葉も、経営者の用語としては同じようにとても頻繁に使われます。「経営戦略」は、企業の競争力を向上させるための直接的な攻めのアクション計画であり、対する「経営管理」は、「経営戦略」を有効にするための企業の基礎・仕組みであると定義できます。
戦略と管理の関係性
経営戦略(攻め)
- 目的競争優位性の確立・市場獲得
- 性質独自性・差別化・変動的
- リスク環境変化により陳腐化しやすい
経営管理(守り・基盤)
- 目的意思決定の最適化・組織の統制
- 性質ルール・基準・継続性
- リスク不備があると戦略が実行不能に
書店に足を運ぶと「経営戦略」についての書籍は大変多く、事業活動のすべての分野ごとに戦略論が展開されています。成功事例も失敗事例もある中で、戦略論は実に多彩多様で、経営者の数だけ戦略論があると言っても過言ではありません。
一方で、「経営管理」については、一定のルールや基準、決めごとが存在します。それを外して独自の経営管理を構築することは、経営上のリスクを大きくしてしまう危険性があります。
特に、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と言われるような現代の経営環境においては、事業の将来予測が困難であり、堅実かつ継続的な一定のルールに基づいた「経営管理」の重要性は一段と高まっています。
こうした「経営管理」能力の高さこそが、規模の大小を問わず企業の競争優位性に大きく影響するのです。
VUCA・ESG時代に不可欠な「迅速な意思決定」の仕組み
「経営管理」において、意思決定は「全社レベル」「事業部・プロジェクトレベル」「機能別作業チームレベル」の3つの階層で行われます。
どのレベルにおいても適切な判断を下すためには、必要な情報を、適切なタイミングで正確に把握できる組織体制が不可欠です。さらに、その意思決定が業績や事業価値にどう貢献したかを事後評価する基準も整備しなければ、健全な「経営管理」とは言えません。
なぜ今、意思決定にスピードが求められるのか
このような「経営管理」の必要性や重要性が高まってきている背景には、前述したVUCAと言われる企業を取り巻く経営環境の変化があります。
変化の少ない環境においては、ゆっくりと時間をかけ、熟考を重ね、精度の高い意思決定を行い、決定事項を粛々と効率よく確実に実行することが重要でした。一度決めた意思決定は長期間有効な「経営戦略」となり、マーケットや一般消費者の需要に効率的に対応し、企業の競争力を高めることに繋がっていたのです。
しかしながら、現在のVUCAと言われる変化の激しい経営環境下では、そんな悠長な経営方法では、企業は市場から遅れてしまいます。激変する不確実な経営環境下では、毎日、毎時刻に惹起する変化を、いち早く感知し、迅速な意思決定と行動につなげていかなくては生き残れません。
稀に、本能的に情報察知能力が高く、迅速な意思決定と行動につなげる社長や経営陣がいますが、通常は属人的な能力に頼るのではなく、その企業内に適切な組織(人員)と情報制度、迅速な意思決定を可能にするルールや基準が必要です。それこそが、企業の競争優位性につながる「経営管理」の能力の高さだと言えるのです。こうした「経営管理」の優劣で、企業の収益力に大きな差異が生じるというのは、中小企業の社長でも実感している事実です。
「非財務活動」が資金調達コストを下げる時代
昨今では、CSR、SDGsといった世界的な要請が、企業の大小を問わず求められており、その中でESG経営といった非財務活動に関する情報も含めた企業活動についても、ステークホルダーへの説明が求められています。
そもそも、財務的な(収益にプラスな)事業活動にとっては、非財務的な(コストのかかる)事業活動は、無駄だという考え方もあります。確かに、企業の活動が非財務的な活動だけでは、企業収益の維持拡大につながらず、ボランティアのようになってしまいます。
ところが、非財務的事業活動のメリットとして、ESG経営を投資判断の決定要素とする投資行動によって資金調達コスト(資本コストや借入金利)を押し下げることができ、財務的なメリットを及ぼすということも考えられるようになってきました。
この非財務活動が財務収益に及ぼす影響については、評価方法が確立されていませんが、経営者の立場からすると、「社会の公器」としての会社の責任が評価されるわけですから、非財務的な事業活動に関わる意思決定も、近年の経営環境下では重要度が増しています。
中小企業レベルでも、「儲かる、儲からない」という議論に加え、社会貢献、環境対策、雇用確保などの社会的な要請にも着目しなくてはいけない時代になっているとの認識は必須です。そのような非財務活動に関わる意思決定を支えるためにも、「経営管理」の重要性は増しています。
あわせて読みたい:中小企業におけるサステナビリティ経営の価値と課題についてはこちら
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DXの前提となる「脱・どんぶり勘定」と情報共有
実際のコンサルティングの現場から見ていると、企業の競争優位性に重要であるはずの「経営管理」を万全に構築できている企業は少ないと感じます。事業推進の中で、せっかく獲得した市場動向や生産、販売に関するデータは意思決定に活用されていなかったり、組織的な問題があって、情報共有が進まず企業としての行動に一貫性がなくなってしまうこともあります。
「どんぶり勘定」の危険性
特に多いのが、経営トップが必要なデータを即座に取得できていないケースです。会社全体の収支は把握していても、製品別、取引先別、店舗別といった詳細な収益実態が見えていない。「どんぶり勘定」では、採算の取れない事業や取引先に気付かず、いつまでも低収益体質から抜け出せません。
「選択と集中」を進めるには、細分化された情報を正確に把握し、それに基づいて営業・製造方針を適宜変更していく意思決定と、それに合わせた組織変革が必要です。
DX成功のカギは「情報の一元化」
昨今、「デジタルビジネストランスフォーメーション=DX」と称して、先端IT技術を活用した生産性向上が推進されていますが、その大前提は、「経営管理」に対する会社の取組みです。一つの施策、経営戦略を実施するためには、一定のルールや基準でデータや情報を分析し、組織全体で共有することが必要です。
組織の中で、どの部分が情報不足になっているか、どの部署が情報をため込んでいるかなどは、会社によってまちまちですが、情報共有を促進するためには、共通の情報ソースを構築する必要があります。
その上で、各部署が、共有された情報に基づいた意思決定を行う必要があるのです。それは、組織上で必要な権限の委譲や業務管掌規定などのルールに基づく情報共有となります。これが、不明瞭だと、組織的な意思決定に大きな齟齬を生じてしまい、結果として事業の頓挫、プロジェクトの失敗につながります。
競争優位を築く「経営管理」システム構築の4ステップとまとめ
「経営管理」は事業の土台となる極めて重要な機能です。効果的なシステムを構築するために、以下の4つのステップを見てみましょう。
- 【STEP1】優先すべき意思決定の明確化
- 【STEP2】必要な情報の特定
- 【STEP3】システム構築とスピードアップ
- 【STEP4】実行部隊への展開と組織設計
まずは「選択と集中」の観点から、企業にとって最も優先すべき意思決定・キーファクターを特定します。あれもこれも管理するのではなく、事業発展に直結する情報は何かを見極めます。新規事業なのか、既存事業の刷新なのか、組織再編なのか。自社の環境に合わせて優先順位を明確化します。
次に、その意思決定に必要な情報を特定します。環境変化を判断するための情報、意思決定そのものに必要なデータ、そして実行後の影響をモニタリングするための指標を整理します。特にモニタリング可能なデータを選定することで、実績を評価し、次の意思決定の精度を高めるサイクルを作ることが重要です。
特定した情報を、必要なタイミングで効率的に収集・把握できるシステムを構築します。情報の鮮度と必要頻度を見極め、経営陣や関連部署へ速やかに提供できる仕組みを整えます。
最後に、情報を各部署の実行部隊へフィードバックし、施策を実行できる体制を設計します。必要に応じて組織改編や権限移譲も検討しますが、組織形態を画一的にする必要はありません。意思決定の重要度に合わせて、柔軟に関係者が関与できる組織体を維持することが大切です。
以上のように、「経営管理」は企業の競争優位を維持発展させるために、ますますその重要性を増しています。「経営戦略」の議論だけで満足せず、その戦略を裏で支える「経営管理」の議論を深める必要があります。
一見するとコストセンター的な発想に思えるかもしれませんが、これなくして企業の成長はありません。「経営管理」こそが最強の戦略基盤であるという意識を、強く持つべきです。
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