事例に基づく価値創造:NPOとの協業による事業の持続可能性の向上-①

企業とNPOの協業の重要性
企業が長戦略を考えるうえで、近年はNPO法人との協業が重要視されています。これまでの企業活動は、自社の利益拡大やブランド価値の向上に注目が集まりがちでした。しかし、社会的問題への取り組みや社会貢献を重視する動きが強まっている今、NPO法人と手を組んで課題解決に挑むことが、有力な企業戦略の一つとなっています。
特に中堅企業のCEOの方々にとって、社会と企業の両方にメリットをもたらすビジネスモデルを構築することは急務といえます。顕在ニーズである企業ブランドの社会的責任強化や長期的な企業価値の向上だけでなく、潜在ニーズとして、ステークホルダーとの関係強化を狙った取り組みも不可欠です。
では、なぜNPO法人とのコラボレーションが有効なのか。その理由の一つは、社会活動の第一線で動くNPO法人が持つ豊富なノウハウです。企業が自社だけではアプローチしにくい社会課題に、NPOが蓄積してきた経験を活かして解決策を提案できるからです。このような相互連携が、社会的責任を果たしつつ、収益面でも持続可能なビジネスモデルを生み出す土台となっています。
実は、私はコンサルティング活動の中で、「子どもの社会教育の機会提供」を目的としたNPO法人「キッズMBA」を主宰していたことがあります。そのNPOでは、大手上場企業のCSR担当者と、工場見学や本社探訪などさまざまな会社の事業内容とその社会的な貢献度を子どもたちに教える活動を行っていました。また、各社のCSR対応をアンケート方式で数値化し、各社のCSR活動の評価方法を提案していました。実際に日経新聞の記事になるなど、それなりの反響を得ることができていました。
この話は、既に20年近く以前の話ですが、その当時から現在のサステナビリティ経営に綱らるような企業価値創造プロセスにNPO法人の活動との関連性は意識されていたと思われます。
NPO法人とは何か?
NPO法人の社会的役割
NPO法人は「Non-Profit Organization」の略称で、日本では特定非営利活動法人とも呼ばれます。最大の特徴は、その活動目的が社会問題の解決や公益性の向上に置かれている点です。つまり、事業収益を出す場合でも、それを組織の運営と公益的な活動に再投資する仕組みが整っています。
社会的企業とも称されるNPO法人が注力する分野は多岐にわたります。高齢者支援、貧困問題対策、環境保護など、行政だけでは十分に手が届かないところをNPOがカバーすることが一般的です。こうした活動を通じて社会的課題を解決し、人々の生活や地域社会を豊かにしていく点が、NPO法人の社会的役割といえるでしょう。
企業とNPO法人の協業が注目される理由は、ビジネスや業務推進の枠組みだけでは補いきれない社会的貢献を、NPO法人が専門性をもって担えることにあります。企業にとっては、社会的課題に取り組みつつ、自社ブランドの向上や企業価値の拡大を図れる大きなチャンスとなります。一方で、収益拡大を目的とする事業法人(企業)の立場では、全て活動に経営リソースを割いていくことは現実的に不可能であり、NPOの有する人的リソースや情報、ノウハウを活用することは、経営効率化と価値創造を両立させる効果的な方法だと言えるでしょう。
非営利組織としてのNPO
NPO法人は「非営利」とはいえ、その定義は「利益を目的としない」という意味ではありません。正確には、活動から生まれる利益を出資者などに分配せず、社会活動の継続に充てる組織形態を指します。ここでは、いわゆる配当を行わない仕組みが特徴的です。
例えば、寄付金や助成金、スポンサーシップなどを通じてNPO法人が得た収益は、社会貢献活動をさらに拡充するための資金に回されます。これが大きな強みで、企業と連携して事業を進めることで、社会問題の解決スピードを上げる可能性を秘めています。
非営利組織だからこそ、公平性や透明性を大事にするといった倫理意識が強い点も、企業がパートナーとして検討する際の魅力です。こうしたNPO法人の性質を理解することで、より深く協業の価値を見出すことが可能になります。
NPO法人の成功事例
成功事例1:地域社会への貢献
NPO法人の成功事例として、地域社会への貢献活動が多く挙げられます。例えば、過疎化の進んだ地方で、高齢者への生活支援や地域イベントの企画・運営を行うNPOは日本中で活動しています。そこへ地元企業が連携することで、自治体が不足していたリソースを補い、地域の活性化を実現しているのです。
- NPO法人あおぞら(島根県雲南市)
人口減少が著しい島根県雲南市で活動するNPO法人「あおぞら」は、高齢者の「通いの場」としての居場所づくりに取り組んでいます。週2回の「ふれあいサロン」で、健康体操・手芸・認知症予防の講座を実施し、地域住民による送迎サービスの提供、高齢者による野菜販売や加工品づくりを通じた生きがい支援などを実施し結果の実績は次のようになっています。
実績:
- 高齢者の外出機会が月平均1.5回から5.8回に増加
- 地域内での見守りネットワークが構築され、孤立死ゼロを達成(直近3年間)
- 若者ボランティアとの交流から地域定住者を数名輩出
- NPO法人結いの里(秋田県由利本荘市)
買い物困難地域での支援を中心に、高齢者の生活インフラを支える活動を行っている団体です。移動販売車「ゆいの里号」の運行(週3回)、高齢者の通院付き添いサービス、地域住民による「小さな助け合い制度」の整備を実施しています。
実績:
- 移動販売の利用者は年間約400世帯、売上ベースで約1,200万円
- サービス開始後、通院キャンセル率が30%減少
- 自治体との連携により、地域包括支援センターとも協力体制を構築
- NPO法人こころネット(高知県四万十町)
限界集落を抱える地域で、地域イベントと世代間交流に重点を置いた活動を展開。季節行事(夏祭り、餅つき大会、盆踊りなど)の復活・運営、小学生との「聞き書き」プロジェクトで高齢者の知恵や人生を記録、高齢者のためのスマホ教室・タブレット講習会を実施しています。
実績:
- 地域イベント参加者のべ1,000名以上(町の人口の約3割)
- 小学校の授業と連動した「聞き書き」は2023年度に県教育委員会から表彰
- 高齢者のIT利用率が前年比で約2倍に増加(LINEやオンライン診療の導入支援)
企業側はこうしたNPOの活動を支援することで地域住民との接点を増やすことが可能になります。結果として自社製品やサービスの認知度を自然に高められます。また、社会問題の解決を目指す共同プロジェクトを進めると、地域住民からの信頼が向上し、ブランドイメージの強化にもつながります。いわば、「地元を支援する」という姿勢が、企業にもプラスアルファの効果をもたらしているわけです。
こうした社会活動 成功事例は、NPO法人 協業の模範例といえます。同時に「企業とNPOの連携」がもたらす具体的な成果が見えるため、他の地域や業界でも応用可能です。
成功事例2:環境保護活動
環境保護活動に注力しているNPO法人も、企業 成長 戦略において欠かせないパートナーとなっています。たとえば、森林保全や海洋のプラスチック問題に取り組むNPOが、その専門知識を活かして企業に対して持続可能なビジネスモデルを提示するケースが増えています。
企業が自社の事業プロセスで排出されるゴミやCO2の削減を目指す際、NPO法人のコンサルティングや共同キャンペーンは非常に効果的です。両者が一緒に取り組むことで、一時的な環境活動にとどまらず、長期的視点に立った事業改革を進められます。
また、このようなNPOと企業のコラボレーションによって、「社会貢献 企業戦略」の方向性がより明確になります。持続可能性を重視する企業姿勢は、消費者の共感を呼び、結果として収益向上にもつながるのです。
- NPO法人 ふるさと環境市民(兵庫県丹波篠山市)
農村地域での里山保全や、自然体験を通じた環境教育に力を入れている団体で、放置竹林の整備と竹炭・竹紙の活用事業、子ども向け自然観察会、親子の森づくり体験の開催、地元の農家と連携した有機農業の普及などを行っています。
実績:
- 竹林整備面積:年間で約5ヘクタール
- 環境教育プログラムの年間参加者:約1,200人
- 竹炭商品を通じた地域ブランド化で、地域内経済循環を促進
- NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP、東京都)
再生可能エネルギーの普及と政策提言を行うシンクタンク型NPO。市民主体のエネルギー移行に取り組んでいます。具体的には、地域主導の再エネ導入に関する調査・助言、自治体や市民団体と連携した小規模電力事業の支援、脱炭素に関する政策提言、報告書の発信などを積極的に実施しています。
実績:
- 「市民電力連絡会」の創設と100団体以上への支援
- 全国50以上の自治体と協働した再エネ導入支援
- COP(気候変動枠組条約締約国会議)など国際会議での発表実績も多数
- 国際NPO:FoE Japan(国際環境NGO Friends of the Earth)
環境・人権・持続可能な開発をテーマに、国内外の環境問題に取り組む国際的なNGOの日本支部。気候変動・森林保護・脱原発に関するキャンペーン活動、海外での森林破壊やメガ開発への調査と住民支援、ESG投資や金融機関への環境責任を促すロビー活動を行っています。
実績:
- フィリピンやインドネシアの森林保護プロジェクトで現地住民支援を実施
- 日本の大手金融機関による環境破壊への投融資を可視化する報告書を継続的に発表
- 脱石炭キャンペーンにより、複数の民間銀行が新規石炭火力への融資を停止
成功事例3:教育支援プログラム
次に、教育支援プログラムを展開するNPO法人の成功事例を見てみましょう。先に紹介した「キッズMBA」もこの分野に当たります。主に子どもたちや若者向けに学習の機会を提供し、社会的に弱い立場に置かれがちな人々の未来をサポートする活動です。こうしたプログラムは企業のCSR(企業の社会的責任)とも親和性が高く、企業とNPOの共同プロジェクトとして実施されることが多くなっています。
たとえば、企業が持つIT技術や教材のノウハウを活かして、地域の学校や学習施設におけるプログラムを支援する事例があります。NPO法人の専門知識をもとに学習カリキュラムを構築し、企業が備える資源を投入することで、子どもたちが最新の知識やスキルに触れる機会を増やすのです。
社会課題 解決の視点で見ても、このような教育支援プログラムは長期的に効果をもたらします。将来の人材育成に貢献するだけでなく、企業側にも新しいアイデアを得る機会が生まれ、NPO法人の影響力もさらに拡大していきます。
- NPO法人 カタリバ(東京都・全国展開)
困難な環境にある子どもや若者への学習支援・キャリア教育を行う団体です。被災地や貧困家庭、ひきこもりの若者への支援にも注力し、放課後の学習支援「アダチベース」「コラボ・スクール」、高校生のキャリア支援「カタリ場」プログラム、不登校・引きこもり支援「バーチャル高校/room-K」などのサービスを展開しています。
実績:
- 累計支援対象:約17万人以上(2024年時点)
- 東北・熊本・東京・島根など全国で20以上の拠点を運営
- キャリア対話型プログラムは年間延べ5万人の高校生が体験
- NPO法人 Learning for All(東京都)
貧困や家庭環境などにより、十分な教育を受けられない子どもたちを対象にした学習支援と居場所づくりを推進しています。大学生ボランティアによる1対1の個別指導、子どもの居場所「学習教室」の運営(東京都・神奈川県など)、教育格差に関する政策提言や自治体連携などが主要活動です。
実績:
- 年間延べ4,000人以上の子どもに学習支援
- 学習到達度テストにおいて「1年で2年分の学力向上」が平均
- 多摩市・川崎市など複数の自治体と連携協定を締
- NPO法人 D×P(ディーピー、大阪府)
高校中退や進路未決定の若者を対象に、「孤立を防ぐ」支援と社会とのつながりづくりを目指しています。定時制高校での対話型授業「クレッシェンド」、進路未決定の若者向けチャット相談「ユキサキチャット」、就労・生活支援や企業とのマッチングも展開中です。
実績:
- 累計約6,500人の若者に支援(2023年までの実績)
- 「ユキサキチャット」は月間相談件数1,000件超
- サポートを受けた若者の進路決定率は85%以上
こうしたNPO法人の現状と、企業活動をどのようにコラボレーションするかは、現代的で重要な経営課題になっています。企業活動の社会性が問われるサステナビリティ経営を指向するためには、NPO法人の存在は、外部の新たな経営資源として評価する必要があると言えるでしょう。
次回のブログでは、企業活動の本質とNPO法人の活動原理の融合について考えてみたいと思います。
まとめ:新しいビジネスモデルとしてのNPOとの協業
ここまで、NPO法人が担う社会的役割や収益活動、そして企業との協業事例や方法論を見てきました。非営利組織の持つ専門性と企業の資金力・技術力を組み合わせることで、相乗効果が生まれ、社会問題の解決と企業の成長を同時に実現できることがお分かりいただけたと思います。
中堅企業のCEOをはじめ、企業経営者にとっては、こうしたNPOとの連携が新たな事業チャンスやブランド価値向上をもたらすだけでなく、長期的な企業イメージの維持やステークホルダーからの信頼獲得へとつながります。これは「企業の社会的責任」を強化するだけでなく、収益向上にも寄与する絶好の手段と言えるでしょう。
社会活動 成功事例をもっと増やしていくためにも、ぜひNPO 企業 コラボレーションを前向きに検討してみてください。新しいビジネスモデルとしてのNPOとの協業は、いまや企業の成長戦略に不可欠であり、社会全体をより豊かにする大きな原動力となってくれます。