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公開日:2026.01.16

更新日:2026.01.16

【組織論】『最低限の仕事』と『最高の仕事』の違い|中小企業の給与・評価制度の正解

社員たちが、歯車を回すルーチン業務と、協力して目標達成を目指す創造的な業務を左右に対比させ、組織の評価制度と人材配置の違いを表す。

「組織全体の5%の優秀な人材が利益を稼ぎ出し、残りの95%の給料を支えている」。
ビジネスの現場でまことしやかに語られるこの「5対95の法則」は、組織の不公平さを嘆く言葉として使われがちですが、経営の真理を突いています。

それは、組織には「利益を創出する役割」と「組織を維持する役割」の2つが不可欠であり、それぞれ求められる成果の質が異なるという事実です。

本記事では、これからの企業経営に求められる視点として、「最低限の仕事」と「最高の仕事」という2つの概念を定義し、中小企業が目指すべき組織づくりと評価制度の正解について深掘りしていきます。

経営者が押さえるべき重要ポイント
  • 「最低限(守り)」と「最高(攻め)」は評価軸を明確に分けるべき
  • コストセンターは「減点法」、プロフィットセンターは「加点法」が正解
  • 安易なリストラは組織の「守り」を崩壊させ、再成長を阻害する
  • 中小企業こそ、個人の適性を見極めた「役割分担」が資金調達力を高める

欧米型と日本型で異なる「仕事」と「報酬」の捉え方

結論:日本の「メンバーシップ型」は職務範囲が無制限で成果と報酬が連動しにくい一方、欧米の「ジョブ型」は契約履行(最低限)と実績(最高)が明確に区分され、報酬への反映が合理的です。

個人の仕事が「最低限(義務)」なのか「最高(成果)」なのか。この定義は、日本と欧米の雇用慣行によって大きく異なります。

日本型の「メンバーシップ型雇用」

日本の伝統的な雇用では、「職務記述書(ジョブディスクリプション)」が曖昧なことが多く、社員は「その時々に必要な業務」を無制限にこなすことが求められます。

  • 最低限の仕事:義務として課された業務をこなし、基本給を確保すること。
  • 最高の仕事:無制限の残業や努力で会社に貢献し、年功序列の上限報酬を得ること。

この構造では「どこまでやれば評価されるのか」が不透明になりやすく、成果と報酬のリンクが弱くなる傾向があります。

欧米型の「ジョブ型雇用」

一方、欧米や外資系企業では、契約によって業務範囲と報酬が明確です。

  • 契約履行(最低限):契約書に記載のない業務は原則として行わないが、記載された業務は完璧にこなす。
  • 成果報酬(最高):契約以上の明確な実績(数字)を上げ、インセンティブ(ボーナス)を得る。

欧米では「最低限の仕事=契約履行」であり、それ以上の「最高の仕事」には明確な対価が支払われます。昨今では日本のベンチャーや中小企業でも、こうした実績型報酬を取り入れるケースが増え、まさに過渡期を迎えています。

プロフィットセンターとコストセンターの評価軸

結論:コストセンターは「基準の完全達成(減点法)」を、プロフィットセンターは「上限なき成果(加点法)」を評価軸とし、異なる報酬体系を適用するのが最適解です。

企業経営において、組織は大きく「プロフィットセンター」と「コストセンター」に分類されます。この2つの部門では、求められる成果の質が異なり、したがって適用されるべき評価軸も変える必要があります。

コストセンターには「最低限の仕事(基準達成)」を求める

経理、法務、人事、総務、システムといった管理部門は、コストセンターに該当します。これらは直接的に売上を生み出しませんが、企業活動の基盤を支える不可欠な存在です。

コストセンターの業務は、コンプライアンスや会計基準といった「外部的・第三者的な基準」によって厳格に統制されています。ここでの仕事の質は「減点方式」です。ミスなく、遅滞なく、正確に遂行されることが大前提であり、それが達成されて初めて仕事として成立します。

その意味で、コストセンターに適しているのは「最低限の仕事」という概念です。誤解を恐れずに言えば、ここでの「最低限」とは手を抜くことではありません。「定められた高い基準(ミニマム・スタンダード)を完璧にクリアする」という意味です。

コストセンターにおいては、業務の効率化が進み、少人数で正確に業務を回せるようになることが「成果」です。したがって、「最低限の仕事(基準の達成)」を効率よく数多くこなせる個人には、それに見合った高い報酬で報いるべきです。

プロフィットセンターには「最高の仕事(青天井の成果)」を求める

一方で、営業・販売部門などのプロフィットセンターは、売上と利益を直接的に創出する部門です。ここでの評価基準は「加点方式」であるべきです。

最前線で売上を作る営業職や、市場を切り拓く企画職は、外部の統制基準よりも、各人の才能、アイデア、センス、そして行動量に依存します。

ここでは「最高の仕事」が求められます。顧客満足度を高め、競合に打ち勝ち、数字という明白な結果を残すこと。実績が高ければ高いほど、評価も上がり、青天井で高い報酬を得られる仕組みが不可欠です。

部門別・評価基準の最適化マップ
コストセンター (守り)
  • 主な部門経理、総務、人事、法務、システム
  • 仕事の定義最低限の仕事=基準の完全遵守
  • 評価方式減点方式(ミスなく効率的か)
  • 報酬設計効率性・正確性を給与に還元
プロフィットセンター (攻め)
  • 主な部門営業、販売、事業企画、マーケティング
  • 仕事の定義最高の仕事=青天井の成果
  • 評価方式加点方式(どれだけ積み上げたか)
  • 報酬設計実績・利益をダイレクトに還元
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「リストラ」の誤解とコスト削減の罠

コンサルティングの現場で中小企業の「経営計画書」作成を支援していると、収益改善のために「人件費の削減」が真っ先に計画に盛り込まれることがあります。これは非常に注意が必要なポイントです。

本来、「リストラクチャリング(Restructuring)」とは「事業の再構築」を意味する言葉です。
不採算事業を見直し、成長分野へリソースを再配分することが本質であるはずが、日本ではいつの間にか「リストラ=人員整理」という安直な意味に転換されてしまいました。

なぜ安易な人員整理が行われるのか

理由は単純です。人員整理によるコスト削減は、計算が容易で、かつ決算書の数値として即座に「改善」が表現できるからです。
PL(損益計算書)上の利益を一時的に作り出すには、最も手っ取り早い手段だからです。

海外のニュースを見れば、テスラが世界規模で人員削減を発表したり、日本企業が海外事業から撤退したりといった、ドラスティックな決定が報じられます。グローバル企業においては、株主への説明責任としてこうした外科手術的な措置が必要な局面もあるでしょう。

中小企業における「人」の意味

しかし、中小企業が安易にこれを真似て、コスト削減=人員整理と短絡的に結びつけるのは論理的根拠に乏しく、現場で働く従業員に対してあまりに乱暴な施策です。

「最低限の仕事(守りの業務)」を担う人材を軽視してコストカットすれば、会社の管理体制は崩壊します。
また、「最高の仕事(攻めの業務)」を担う人材のモチベーションを削ぐような一律のカットを行えば、将来の収益の種を潰すことになります。

「会社は社会の公器である」という松下幸之助氏の言葉にもある通り、企業存続の目的は、単に利益を内部留保することだけではありません。雇用を創出し、従業員の生活を守り、その上で次世代の社会基盤の確立に寄与することにあります。

コストとプロフィットのバランスを見極めずに人を切ることは、企業の寿命を自ら縮める行為になりかねないのです。厚生労働省「雇用調整助成金」

もし、手元のキャッシュフロー改善のために人員整理を検討されているのであれば、その前に資金調達エージェントによる無料診断で、人件費を削らずに乗り切る選択肢を探ることを強くお勧めします。

中小企業・ベンチャーが目指すべき組織の形

結論:兼務が多い中小企業でも、頭の中の組織図では「攻め(プロフィット)」と「守り(コスト)」を明確に分け、個人の適性に応じた役割分担と評価を行うことが成長の鍵です。

大企業であれば部署ごとに役割を細分化できますが、中小企業の現場ではほとんどの人員がマルチタスクを背負っています。社長自らがプレイングマネージャーとして、営業から資金繰りまで全てをこなしているケースも多いでしょう。

理想の組織図を描くことの重要性

だからこそ、経営者は「理想の組織図」を頭の中に描いておく必要があります。現在の社員が兼務している状態であっても、その業務が「攻め(プロフィット)」なのか「守り(コスト)」なのかを意識して切り分けるのです。

経営者・リーダーに不可欠なマネジメントスキルとして、この「業務の仕分け」能力は必須と言えます。

【実践】評価シートは「2つのモノサシ」で分ける

具体的に、明日からどうアクションすべきか。最も効果的なのは、評価項目(KPI)を部門の性質に合わせて明確に分けることです。中小企業でよくある失敗は、事務職にも営業職にも画一的な「意欲」や「協調性」ばかりを求めてしまうことです。

部門の性質 重視すべき評価項目(例) 避けるべき評価項目
守り(コストセンター)
経理・総務・法務・事務
「減点法のなさ」と「効率」
・業務の正確性(ミス発生率0%)
・処理スピード(納期遵守)
・業務フローの改善提案数
「定量的な売上目標」
直接お金を生まない部門に売上ノルマを課すと、不正やモチベーション低下の原因になります。
攻め(プロフィットセンター)
営業・企画・販売
「加点法の成果」
・粗利益額
・新規顧客獲得数
・顧客単価アップ率
「プロセス偏重の管理」
結果が出ているのに、細かい事務ミスや勤務態度だけで低評価にすると、優秀な人材が流出します。

このように評価軸を使い分けることで、社員は「会社が自分に何を求めているか(正確さなのか、数字なのか)」を迷いなく理解できるようになります。

本田技研工業(ホンダ)の事例に学ぶ

かつて本田技研工業が経営危機に瀕した際のエピソードは、この役割分担の重要性を如実に物語っています。

創業者である本田宗一郎氏は、技術者として「最高の仕事」を追求する天才であり、プロフィットの源泉でした。一方、パートナーの藤沢武夫氏は、財務・販売・組織づくりといった「守り」を一手に引き受け、会社を支えました。

本田宗一郎という「最高の仕事(攻め)」を最大化するために、藤沢武夫という「最低限の仕事(守りの要諦)」を完璧にこなせる存在がいた。この両輪が機能したからこそ、現在の世界のホンダがあるのです。

【事例図解】世界企業を作った「攻め」と「守り」の両輪
攻め:本田宗一郎 氏
  • 役割最高の仕事(技術・開発)
  • 評価軸圧倒的な成果とイノベーション
  • 組織への貢献プロフィットの源泉
守り:藤沢武夫 氏
  • 役割最低限の仕事(財務・組織・販売)
  • 評価軸盤石な経営基盤の構築
  • 組織への貢献企業の永続性の担保

経済産業省「人的資本経営」の考え方でも、個々のスキルの可視化と適材適所が推奨されています。まずは自社の業務を「攻め」と「守り」に色分けすることから始めてみましょう。

まとめ

事業の成長とは、常に「プロフィット(攻め)」と「コスト(守り)」のバランスを最適化していくプロセスです。

経営者やリーダーは、社員一人ひとりの業務がどちらの性質を持っているかを見極め、それぞれに適した評価基準を提示することが求められます。

  • コストセンター型業務:基準を完璧に満たす「最低限の仕事」を評価し、効率性を報酬に還元する。
  • プロフィットセンター型業務:成果の上限を設けない「最高の仕事」を評価し、実績を報酬に直結させる。

この両輪が噛み合って初めて、企業は健全に成長します。一律の管理や安易な人員整理に逃げることなく、適材適所の配置と納得感のある評価制度を構築することこそが、従業員のエンゲージメントを高め、企業の永続性を担保する唯一の道です。

あなたの会社では、攻めと守りの評価基準が明確に区分されていますか?次回の経営計画策定の際には、ぜひスキルマトリックスを活用した社員の戦力化とあわせて、「仕事の性質と評価の相性」を見直すことから始めてみてください。

もし、手元のキャッシュフロー改善のために人員整理を検討されているのであれば、その前に資金調達エージェントのサービス詳細をご覧いただき、人件費を削らずに乗り切る選択肢も検討してみてください。

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三坂 大作
監修者三坂 大作
ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役

東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。

東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。

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