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公開日:2025.12.25

更新日:2025.12.25

失敗しない統合報告書の制作スケジュール|6ヶ月間の工程と社内巻き込み術

6ヶ月間の制作スケジュールを示すロードマップを背景に、社内の多様なチームが協力して輝く統合報告書を完成させている様子。

統合報告書の制作は、コンセプト決定から発行まで最短でも6〜7ヵ月を要する一大プロジェクトです。

これまで解説してきた統合報告書を構成する「8つの要素」を頭では理解していても、いざ形にしようとすると「部門間の調整」や「膨大な情報の整理」という壁に直面します。無計画なスタートは、コストの増大とスケジュールの遅延、そして何より「誰にも読まれない報告書」を生み出す原因となりかねません。

本記事では、これまでの「書くべき内容(What)」の実践編として、「どのように作るか(How)」に焦点を当てます。効率的に質の高い報告書を作成するための標準的なプロセスと、社内を円滑に動かすための「巻き込み術」、そして中小企業における現実的な活用法について解説します。

この記事の要約

  • 統合報告書の制作期間は最短6〜7ヶ月。逆算したスケジュール管理が必須
  • 成功の鍵は「経営層のコミットメント」と全部署を巻き込むチーム体制
  • 中小企業は「2〜3年更新」等の現実的な運用で、採用・融資への効果を最大化できる

【企画・準備編】開始は発行の6ヶ月前!制作の土台を作る

結論:発行の6ヶ月前には始動し、誰に(ターゲット)何を(差別化)伝えるかを明確にした上で、全部署横断のプロジェクトチームを結成することが成功の鍵です。

統合報告書の発行は、通常、定時株主総会後の7月〜9月頃が多くなります。そこから逆算すると、遅くともその年の年初、あるいは前年の年末にはプロジェクトを始動させる必要があります。最初の2ヶ月は、制作の成否を分ける重要な準備期間です。

統合報告書 制作スケジュール(標準6ヶ月)

1〜2ヶ月目:企画・準備

  • ターゲット設定投資家・採用・顧客など優先順位を決定
  • ベンチマーク調査他社事例から差別化ポイントを探る
  • チーム結成・予算化部門横断チームの発足

3〜4ヶ月目:構成・収集

  • マテリアリティ特定重要課題と価値創造プロセスの図解化
  • 経営層インタビュートップの本音とコミットメントを引き出す
  • 原稿・データ収集各部署からの素材集め

5〜6ヶ月目:制作・発信

  • デザイン・執筆一貫性のあるストーリーへ編集
  • 校正・審査法務確認および数字の最終確定
  • 公開・二次利用Web公開、営業・採用ツールへの展開

ターゲット設定とベンチマーキング

まず行うべきは「読者の想定」と「他社分析」です。ここがブレると、後の工程で手戻りが発生します。

誰に何を届けるか(ターゲット)

「全方位向け」は往々にして「誰にも刺さらない」ものになりがちです。今年度の発行目的を明確にし、ターゲットに合わせて編集方針を最適化します。

  • 投資家向け:財務資本戦略や中長期的な成長ストーリーを重点的に。
  • 採用(リクルーティング)向け:人的資本、働きがい、企業のパーパスを厚くする。
  • 取引先向け:サプライチェーンの持続可能性や事業の安定性を強調する。

差別化のための調査(ベンチマーク)

同業界の他社事例や、統合報告書の先進企業のレポートを数社分析します。目的は他社のマネをすることではなく、「業界標準(スタンダード)を押さえつつ、自社独自の強みをどこで表現するか」を見極めることです。この段階で、制作メンバー間で「目指すべき完成イメージ」を共有しておくことが重要です。

予算確保とチームビルディング

取材・撮影・デザイン・翻訳・印刷・Web実装にかかるコストを見積もり、明確な予算を確保します。

また、制作体制の構築も重要です。広報・IR部門だけで完結させようとすると、専門的な情報の収集で行き詰まります。

経営企画、サステナビリティ推進室、人事、経理など、関連部門から担当者を選出し、横断的なプロジェクトチームを発足させるのが理想的です。「これは全社プロジェクトである」という認識を最初に植え付けることが、後の協力体制に影響します。

【構成・収集編】最難関の「社内調整」と「骨組み」

結論:IIRCフレームワークを参照しつつ、自社独自の価値創造ストーリーを設計します。経営層を早期に巻き込み、トップの本音を引き出すことが質の高い報告書に直結します。

プロジェクトの3〜4ヶ月目は、統合報告書制作における最大の山場です。ここではガイドラインを参考にしつつ、自社の実情に合わせた骨組み(台割)を決定し、原稿の素材を集めていきます。

ストーリーのある「台割」作成

8つの構成要素をどのように配置するか、全体の目次構成(台割)を策定します。単に要素を並べるのではなく、以下のような論理的な「ストーリー」が必要です。

  1. 理念(Why):なぜ社会に存在するのか
  2. ビジネスモデル(How):どのように価値を生み出すのか
  3. 戦略と実績(What):具体的に何を行い、どうなったか
  4. ガバナンス(Foundation):それを支える仕組みは何か

特に「価値創造プロセス図」の作成は、自社のビジネスモデルを再定義する作業となるため、多くの時間を要します。既存の図解の使い回しで済ませず、現状に合わせてブラッシュアップしましょう。

構成を検討する際は、経済産業省が策定した価値協創ガイダンス2.0なども、投資家との対話を深めるための重要な指針となります。

経営陣のコミットメントと取材

ここが担当者にとって最も苦労するフェーズです。現場からは「忙しいのにまた新しい資料作成か」「財務諸表だけでいいではないか」といった反発が起きることも珍しくありません。

こうした事態を避けるため、プロジェクト初期に社内向け勉強会(キックオフミーティング)を開催することをおすすめします。「なぜ今、統合報告書が必要なのか」「これによって企業価値がどう向上するのか」を啓蒙し、協力を仰ぐのです。

また、統合報告書の顔となる「CEOメッセージ」は、定型文のような挨拶では投資家の心に響きません。

原稿作成を丸投げするのではなく、担当者や外部ライターがインタビューを行い、トップの「本音」を引き出すディスカッションの場を設けてください。経営層自身が自社の戦略を整理する良い機会にもなります。

【制作・発信編】一貫性の確保とマルチユース展開

結論:編集担当者が全体の一貫性を管理し、完成後はWeb・印刷・SNSなどマルチチャネルで展開。素材を営業資料や採用サイトへ二次利用することで費用対効果を最大化します。

5〜6ヶ月目は、集めた素材を形にしていく制作フェーズです。原稿作成、写真撮影、デザインワーク、校正作業が一気に進みます。

編集力で「一貫性」を持たせる

各部門から上がってきた原稿をそのまま掲載すると、用語の不統一やトーン&マナーのバラつきが生じ、読みづらい「つぎはぎ」のレポートになってしまいます。編集担当者は全体を俯瞰し、文体や論理構成を統一する役割を担います。

また、ポジティブな情報だけでなく、課題やリスク情報についても誠実に記載することで、情報の信頼性(トランスペアレンシー)が高まります。

制作期間中も企業活動は動いています。進捗を見ながら適宜スケジュールを調整し、可能な限り直近のトピックスや最新の数字を盛り込んで、「鮮度」の高いレポートを目指しましょう。

公開後の「届ける」戦略

完成・校了後は、自社サイトでの公開(PDF等)に加え、プレスリリースやSNSでの配信を積極的に行います。重要なのは、作ったコンテンツを使い倒すことです。

作成した図版やトップメッセージは、採用サイトや営業資料、株主総会資料などに二次利用(ワンソース・マルチユース)しましょう。

統合報告書の素材を起点として、あらゆるステークホルダーへ一貫したメッセージを届けることで、制作コスト以上の効果を生み出すことができます。

中小企業における現実解:2〜3年サイクルの「進化型会社案内」

結論:毎年発行ではなく「取締役任期に合わせた2〜3年サイクル」での改訂や、財務情報を別紙にする「ハイブリッド形式」を採用することで、リソース不足を解消しつつ信用力を高められます。

ここまで上場企業を想定した標準プロセスを説明しましたが、リソースの限られる中堅・中小企業が、毎年これだけの労力とコストをかけて数百ページの報告書を作成するのは、現実的ではないかもしれません。

そこでおすすめしたいのが、「会社案内・パンフレットを、統合報告書の要素を取り入れた『進化型』にし、2〜3年ごとに制作する」という方法です。

「ハイブリッド形式」で更新負荷を下げる

毎年発行が難しい場合、取締役の任期(一般的に2年)に合わせて改訂を行うのが良いサイクルです。冊子の構成を工夫することで、更新の手間を減らすことができます。

  • 本体冊子(非財務情報):企業の理念、ビジネスモデル、強み、トップメッセージ、ESGへの取り組みなど、経年であまり変化しない「企業の根幹」をメインコンテンツとして作り込みます。
  • 別紙・差込資料(財務情報):毎年の決算数値や直近の会社概要など、変化する情報は、ペラ紙やポケットフォルダーへの差し込み資料として作成します。

この形式であれば、本体は数年間使用でき、コストを抑えつつ情報の陳腐化を防ぐことができます。

採用と融資へのメリット

中小企業にとって、統合報告書の要素を取り入れた会社案内を持つことは、金融機関への信頼性向上に直結します。事業の将来性やESGリスクへの対応を論理的に説明できるツールとなるからです。

また、人材採用においても強力な差別化要因となります。単なる業務内容の紹介だけでなく、「この会社はどういう社会課題を解決しようとしているのか」「従業員をどう大切にしているか」が可視化された資料は、志の高い人材を惹きつける武器となります。

統合報告書の制作・活用でお悩みですか?

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ヒューマントラストは、貴社の価値を最大化し、資金調達や採用につなげるためのレポート制作・戦略立案をサポートします。

まとめ:制作プロセスそのものが「統合思考」を育てる

統合報告書の制作スケジュールと、その工程におけるポイントを解説しました。

  1. 企画(1-2ヶ月目):ターゲット設定とチーム作りを行い、土台を固める。
  2. 構成(3-4ヶ月目):経営層を巻き込み、ストーリーのある骨子を作る。
  3. 制作(5-6ヶ月目):一貫性のある編集を行い、広く発信・活用する。

半年間にわたるこのプロセスは、決して楽なものではありません。しかし、部門の垣根を超えて「自社の価値とは何か」「将来どうありたいか」を議論し、一冊のレポートにまとめ上げる過程そのものが、組織に「統合思考(Integrated Thinking)」を根付かせる最高の研修となります。

出来上がった報告書は、投資家への説明資料になるだけでなく、従業員が自社に誇りを持つための教科書にもなります。まずは次回の発行に向け、スケジュールの見直しとチーム作りから始めてみてはいかがでしょうか。本記事が、貴社の実りある統合報告書制作の一助となれば幸いです。

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三坂 大作
監修者三坂 大作
ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役

東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
さらにニューヨーク支店にて国際金融業務も経験し、法務と金融の双方に通じたスペシャリストとして、30年以上にわたり中小企業・個人事業主の“実行型支援”を展開。

東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。
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