2025.11.11
信託受益権を譲渡する資金調達方法、一括支払信託とは?ファクタリングとの違いも解説
企業経営において、避けて通れないのが、資金繰りの問題です。特に、売掛金の回収に時間がかかってしまい、早急な資金調達が必要になることがあります。そのような際に検討したい方法として、一括支払信託とファクタリングという2つの方法があります。
売掛債権を活用した資金調達方法として知られるこれらの手法ですが、仕組みやメリット、適している状況は異なります。本記事では、信託受益権による資金調達である一括支払信託の仕組みや特徴、ファクタリングとの違いについて詳しく解説します。
この記事のポイント
- 「一括支払信託」は、支払企業の信用力を背景に、信託銀行を介して売掛債権(受益権)を早期資金化する仕組みです。
- 「ファクタリング」は、売掛債権そのものをファクタリング会社に売却し、迅速に資金を調達する仕組みです。
- 一括支払信託はコストが比較的低いが手続きが複雑で、ファクタリングは迅速だが手数料が高い傾向があります。
- どちらも一長一短があり、手数料やスピード、取引先との関係性を考慮した選択が重要です。自社の状況に合わない場合は、無担保・無保証のビジネスローンも有力な選択肢となります。
信託受益権とは
企業の資金調達方法として注目されている信託受益権について、まずはその基本的な仕組みを解説します。
信託に関する包括的な情報については、信託協会の公式サイトもご参照ください。)信託受益権の取得
信託受益権とは、信託財産から生じる経済的利益を受ける権利のことです。企業が保有する資産(売掛債権や不動産など)を信託銀行などの受託者に信託し、その対価として信託受益権を取得します。
この信託受益権を投資家や金融機関に譲渡することで、企業は資金を調達することができます。つまり、将来回収予定の売掛金などを、「信託」という仕組みを使って現金化するのです。
信託の特徴として、資産を信託することで倒産隔離効果が生まれ、信用力が向上する点が挙げられます。これにより、自社単独での資金調達よりも有利な条件で資金を調達できる可能性があります。
信託受益権による資金調達の流れ
信託受益権を活用した資金調達は、企業が保有する資産を信託銀行などの受託者に信託することから始まります。この時、企業は信託受益権を取得し、その後、信託受益権を投資家や金融機関に譲渡して資金を調達します。
譲渡された投資家は、信託財産から生じる収益を受け取る権利を得ることになります。例えば、売掛債権を信託した場合、債権回収後に得られた資金は信託財産となり、最終的には受益者に分配されます。
このように、信託受益権は、資産を直接売却せずに資金調達できる手段として活用されています。
信託受益権の種類
信託受益権には、信託する資産の種類によって様々な形態があります。例えば、売掛債権信託は、企業が保有する売掛債権を信託し、その受益権を譲渡する方法で、将来の売掛金回収を待たずに資金化できるメリットがあります。不動産信託は、保有する不動産を信託し、その受益権を譲渡する方法で、不動産の流動化を図ることができます。
また、金銭信託は金銭を信託し、その運用益を受け取る権利を得る形態で、投資家にとっては資産運用の一手段となります。さらに、動産信託は、機械設備などの動産を信託し、リース取引などで活用されます。
企業は、自社の保有する資産や資金調達の目的に応じて、これらの信託受益権の中から最適な選択をすることが重要です。
一括支払信託とは
一括支払信託は、信託受益権を活用した特殊な資金調達方法です。
一括支払信託の仕組み
一括支払信託とは、主に大企業(支払企業)が多数の仕入先(納入企業)への支払いを、信託銀行を介して一括して行う仕組みです。従来の支払手形に代わる支払方法として利用されています。
具体的な流れとしては、まず支払企業が信託銀行と一括支払信託契約を締結します。次に、納入企業が支払企業に商品やサービスを納入し、支払企業は信託銀行に支払い債務を信託します。
信託銀行は、納入企業に対して受益権証書(または電子データ)を発行し、納入企業はこの受益権を保有するか、または譲渡して早期に資金化することができます。信託銀行は、予め定められた期日に納入企業に代金を支払います。
この仕組みにより、支払企業の事務負担軽減と、納入企業の資金繰り改善が同時に実現できるのが特徴です。
一括支払信託のメリット
一括支払信託には、関係する各当事者にとって様々なメリットがあります。特に、納入企業(売掛債権を持つ企業)にとってのメリットは大きいといえるでしょう。
まず、納入企業は、信託銀行の信用力に基づいた受益権を得ることができるため、支払いの確実性が高まります。また、必要に応じて受益権を譲渡することで、支払期日を待たずに資金化することも可能です。
支払企業にとっては、多数の仕入先への支払業務を一本化できるため、事務効率が向上します。また、納入企業への支払条件を柔軟に設定しつつも、納入企業の資金繰りをサポートできるという関係性の維持にも役立ちます。
信託銀行の信用力を背景としているため、手形と比較して信用リスクが低減されるというメリットもあります。このように、一括支払信託は、取引関係者すべてにメリットをもたらす仕組みといえるでしょう。
一括支払信託を活用できるシーン
一括支払信託は、様々なビジネスシーンで活用されています。特に、大企業では、多数の仕入先を管理する際に、支払業務の効率化と仕入先との関係強化を目的に導入されることが多くあります。製造業や小売業など、定期的に大量の支払いが発生する業種で、特に効果を発揮します。
また、資金繰りの改善が求められる中小企業にとって、一括支払信託は大企業との取引を通じて、確実な回収と早期の資金化を実現できる手段です。季節的な資金需要がある業種や、成長段階で運転資金を確保したい企業にも適しています。
さらに、手形取引から脱却したい企業にとって、一括支払信託は現代的な決済手段として注目されています。手形管理の手間や紛失リスクを軽減しつつ、資金調達の選択肢を拡大できる点が高く評価されています。
ファクタリングとは
資金調達方法として、信託受益権と並んで注目されているファクタリングについて、その基本的な仕組みを解説します。
ファクタリングの基本
ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社(金融機関や専門業者)に売却して、即座に資金化する金融サービスです。通常、売掛金は取引先から支払われるまでに30日から120日程度の期間を要しますが、ファクタリングを利用することで、この待機期間をスキップして資金を調達できます。
ファクタリングは、借入ではなく債権売買であるため、貸借対照表上の負債として計上されず、財務状況に影響を与えにくいという特徴があります。また、審査においては、企業自身の信用力よりも、売掛先の支払能力が重視される傾向にあります。
ファクタリングは、特に中小企業の資金繰り改善に効果的で、迅速な資金調達が可能なため、急な資金需要に対応する手段として活用されています。
ファクタリングの種類
2社間ファクタリング
(取引先に通知なし)
ファクタリング会社へ
貴社(利用者)へ
貴社(利用者)へ
ファクタリング会社へ
3社間ファクタリング
(取引先に通知・承諾)
ファクタリング会社へ
取引先へも通知・承諾依頼
貴社(利用者)へ
ファクタリング会社へ直接送金
ファクタリングには主に2つの種類があり、特徴が異なります。自社の状況に合わせて最適な方を選ぶことが重要です。
2社間ファクタリングは、売掛債権を持つ企業とファクタリング会社の2社間で行われる、最もシンプルな形態です。取引先に知られずに利用できる反面、手数料が高めに設定されることが多いという特徴があります。
3社間ファクタリングは、売掛債権を持つ企業、債務者(取引先)、ファクタリング会社の3社で契約を結ぶ形態です。債務者の承諾を得るため手続きは複雑になりますが、手数料が比較的低く抑えられるメリットがあります。
この2つから、取引の規模や緊急性、取引先との関係性などを考慮して選択することが大切です。また、契約形態だけでなく、ファクタリングの契約方法(対面・オンライン)にも違いがあるため、自社に合った方式を選ぶとよいでしょう。)
ファクタリングを利用するための手続き
ファクタリングを利用するための手続きは比較的シンプルですが、いくつかのステップがあります。
まず、ファクタリング会社に問い合わせ、必要書類を提出して審査を依頼します。必要書類は通常、売掛債権の証明書類(請求書や納品書など)、企業の財務諸表、身分証明書などです。ファクタリング利用時の必要書類については、こちらの記事でも詳しく解説しています。)
ファクタリング会社は、提出書類に基づき、売掛先の信用力や債権の内容を審査します。審査通過後、買取金額と手数料が提示され、合意すれば契約を締結します。
契約締結後、ファクタリング会社は合意した金額(売掛金額から手数料を差し引いた金額)を企業に支払います。資金は、最短で即日、通常は数日以内に振り込まれることが多いでしょう。
2社間ファクタリングの場合は、売掛金の支払期日に取引先から企業に支払いが行われ、企業がファクタリング会社に支払います。3社間ファクタリングの場合は、取引先が直接ファクタリング会社に支払いを行います。
手続きの簡便さと迅速な資金化が可能である点が、ファクタリングの大きな特徴です。
ファクタリングを利用するメリット
ファクタリングには、企業の資金調達において様々なメリットがあります。
スピーディーな資金調達が可能
ファクタリングの最大のメリットは、売掛金の回収を待たずに迅速に資金を調達できる点です。通常の売掛金回収では、30日から120日程度かかりますが、ファクタリングを利用すれば、最短即日での資金化が可能になります。
審査から入金までのスピードも銀行融資と比較して非常に速く、多くの場合は申込みから数日以内に資金調達が完了します。緊急の資金需要や突発的な支払いが発生した場合でも柔軟に対応できるため、資金繰りの安定化に大きく貢献します。
また、ファクタリングは継続的に利用することも可能で、一度契約を結べば、次回からの手続きはさらに簡素化されることが多いでしょう。これにより、定期的な資金調達の手段として活用することができます。
信用調査の外部化が可能
ファクタリングを利用することで、取引先の信用調査や売掛金管理をファクタリング会社に任せられるというメリットもあります。特に3社間ファクタリングの場合、ファクタリング会社が取引先の信用調査や債権回収を担当します。
これにより、企業は、取引先の信用リスク管理や回収業務から解放され、本業に集中することができます。特に、多数の取引先を持つ企業や、海外取引を行う企業にとっては、大きなメリットとなります。
さらに、ファクタリング会社は、信用調査のプロフェッショナルであるため、より精度の高い信用評価が可能です。これにより、取引先の選定や取引条件の設定において、より適切な判断ができるようになります。
結果として、貸し倒れリスクの軽減や債権管理コストの削減につながり、経営の安定化に貢献します。
財務状況が改善する
ファクタリングは、借入ではなく債権売買であるため、貸借対照表上の負債として計上されません。これにより、企業の財務指標が改善される効果があります。
具体的には、売掛金が現金化されることで流動比率が向上し、短期的な支払能力を示す指標が改善します。また、負債比率が上昇しないため、金融機関からの評価にもポジティブな影響を与える可能性があります。
資金回転率の向上も重要なメリットです。売掛金の回収期間が短縮されることで、資金の滞留が減少し、効率的な資金運用が可能になります。これは、特に成長段階にある企業や、季節的な資金需要がある企業にとって、大きなメリットとなります。
さらに、安定した資金調達が可能になることで、割引での仕入れや設備投資など、事業拡大のための戦略的な資金活用が可能になります。これにより、長期的な企業価値の向上にもつながるでしょう。
ファクタリングのデメリット
ファクタリングには、多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。導入を検討する際には、これらのデメリットもしっかり理解しておくことが重要です。
手数料の負担が重い
ファクタリングの最も大きなデメリットは、手数料のコスト負担です。ファクタリング手数料は、通常、売掛金額の数%から数十%と幅広く設定されており、銀行融資の金利と比較すると高額になる傾向があります。
特に2社間ファクタリングでは、取引先に知られずに利用できる分、手数料が高めに設定されることが多いです。また、売掛先の信用力が低い場合や、ファクタリング額が少額の場合も、手数料率が高くなる傾向があります。
さらに、ファクタリング会社によって手数料体系が大きく異なるため、複数の会社を比較検討する必要があります。手数料率だけでなく、事務手数料や審査料などの追加費用が発生する場合もあるため、総コストを正確に把握することが重要です。ファクタリングを装った高金利の貸付(偽装ファクタリング)も存在するため、金融庁も注意喚起を行っています。)
取引先との関係性へ影響する可能性がある
3社間ファクタリングを利用する場合、取引先の承諾が必要となるため、取引先との関係性に影響を与える可能性があります。特に日本の商習慣では、ファクタリングの利用が資金繰りの悪化と誤解されることもあります。
取引先によっては、支払先がファクタリング会社に変更されることに抵抗を感じる場合もあるでしょう。また、取引先が承諾してくれない場合は、3社間ファクタリングの利用自体が困難になります。
このような状況を避けるため、取引先に対しては事前に丁寧な説明を行い、ファクタリングを利用する目的や効果を理解してもらうことが重要です。また、信頼関係の構築・維持を意識したコミュニケーションを心がけるべきでしょう。
継続的な使用がリスクとなりうる
ファクタリングを継続的に利用し続けると、その手数料負担が恒常的なコストとなり、収益性に影響を与える可能性があります。特に利益率の低いビジネスでは、ファクタリング手数料が大きな負担となることも考えられます。
また、ファクタリングに依存することで、根本的な資金繰り改善や財務体質の強化が後回しになるリスクもあります。短期的な資金調達手段として始めたものが、長期的な依存関係になってしまうケースも少なくありません。
さらに、ファクタリング会社との契約条件が変更されたり、急に取引を中止されたりするリスクもあります。特に経済環境の変化や、売掛先の信用状況の悪化などが起きた場合、ファクタリングの条件が厳しくなる可能性があります。
このようなリスクを回避するためには、ファクタリングを一時的な資金調達手段と位置づけ、並行して、本質的な財務改善や資金調達方法の多様化を進めることが重要です。
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信託受益権を利用する一括支払信託とファクタリングの違い
信託受益権とファクタリングは、どちらも売掛債権を活用した資金調達方法ですが、仕組みや特徴に様々な違いがあります。両者の違いを理解し、自社に適した方法を選択しましょう。
仕組みの違い
信託受益権とファクタリングの最も基本的な違いは、その仕組みにあります。信託受益権による資金調達は、企業が保有する資産を信託し、その受益権を譲渡することで資金を得る方法です。一方、ファクタリングは、売掛債権そのものを売却して資金化する方法です。
信託受益権の場合、法的には、資産の所有権は信託銀行などの受託者に移転しますが、経済的な利益を受ける権利(受益権)は残ります。この受益権を譲渡することで、資金調達を行います。対してファクタリングでは、売掛債権の所有権そのものがファクタリング会社に移転します。
また、信託受益権では、信託という法的枠組みを利用するため、倒産隔離機能があり、委託者(企業)が倒産しても信託財産は影響を受けません。一方、ファクタリングでは、単純な債権譲渡となるため、このような法的保護はありません。
手続き上の違い
信託受益権とファクタリングでは、手続きの複雑さや審査基準にも違いがあります。信託受益権による資金調達は、信託契約の締結や受益権譲渡など、比較的複雑な手続きが必要です。また、信託銀行などとの契約が前提となるため、一定の信用力や取引実績が求められることが多いでしょう。
一方、ファクタリングは、より簡易な手続きで利用できることが多く、特に2社間ファクタリングでは比較的短期間で契約から資金化まで完了します。審査においても、企業自体の信用力よりも売掛先の支払能力が重視される傾向があり、創業間もない企業や中小企業でも利用しやすい特徴があります。
また、信託受益権による資金調達では、信託する資産の評価や法的手続きなどの専門知識が必要となるため、専門家のサポートが必要になることが多くあります。ファクタリングでは、比較的シンプルな契約で完結するため、専門知識の必要性は低いといえるでしょう。
コストやスピードの違い
信託受益権とファクタリングでは、コストや資金化のスピードにも大きな違いがあります。一般的に、信託受益権による資金調達は、信託設定や受益権譲渡に関わる手続きコストが発生します。ただし、資金調達自体のコスト(金利や手数料)は、企業の信用力や市場環境によりますが、ファクタリングと比較して低くなる傾向があります。
一方、ファクタリングの手続きコストは比較的低いものの、資金調達コスト(ファクタリング手数料)は高めに設定されることが多くあります。特に2社間ファクタリングや、小口の取引の場合は、手数料率が高くなる傾向があります。
資金化のスピードについては、ファクタリングの方が明らかに優位です。ファクタリングは、最短即日での資金化が可能なケースもありますが、信託受益権による資金調達は、信託設定や受益権譲渡の手続きに時間がかかるため、通常は数週間から数ヶ月の期間を要します。
したがって、急ぎの資金調達にはファクタリング、コスト効率や長期的な資金調達戦略を重視する場合は信託受益権が適しているといえるでしょう。
まとめ
本記事では、信託受益権とファクタリングという2つの資金調達方法について詳しく解説しました。どちらも売掛債権を活用した資金調達手段ですが、その仕組みや特徴、適している状況には大きな違いがあります。
信託受益権の譲渡による資金調達は、信託という法的枠組みを活用して資産を流動化し、長期的・大規模な資金調達をすることに適しています。一方、ファクタリングは、売掛債権を直接売却して迅速に資金化できる手法で、急な資金需要や短期的な資金繰り改善に効果的です。自社の状況や資金需要の特性、取引先との関係性などを総合的に判断し、最適な方法を選択することが重要です。まずは専門家に相談し、自社に合った資金調達方法を見つけることをお勧めします。
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信託受益権やファクタリングは有効な資金調達手段ですが、「手続きが複雑で時間がかかる」「手数料が高額になりがち」「取引先の承諾が必要」といった課題もあります。
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