2025.11.07
売掛金と売上の違いや関係性は?似ている科目や仕訳方法、管理方法についても解説
企業経営において聞くであろう「売掛金」と「売上」は、響きは似ていますが全く異なるものです。売上は企業の収益を表す一方で、売掛金は顧客からまだ受け取っていないお金を意味します。両者は密接な関係にありながらも、会計上は全く異なる性質を持っています。
本記事では、売掛金と売上の違いや関係性について詳しく解説するとともに、似ている勘定科目との区別、具体的な仕訳例、そして効果的な売掛金の管理方法まで幅広くカバーします。経営における資金繰りの改善や、会計処理の正確性向上にお役立てください。
この記事のポイント
- 「売上」は商品やサービス提供で得た収益(損益計算書)、「売掛金」は未回収の代金(貸借対照表の資産)を指す。
- 売掛金と似た科目に「買掛金(支払う義務)」「未収入金(本業以外での未回収金)」「前受金(提供前の受領金)」があり、区別が重要。
- 売掛金の増加は「売上はあるのに現金がない」状態を招くため、与信管理や早期回収、ファクタリングの活用など適切な管理が不可欠。
- 売掛金には時効(原則5年)があり、回収できない場合は税務上の処理(貸倒引当金)も必要となる。
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売掛金と売上
企業会計において、売掛金と売上は非常に関連性が高いものの、その性質は大きく異なります。まずは、それぞれの基本的な定義から見ていきましょう。
売上とは
売上は、企業が商品やサービスを提供した際に発生する収益のことを指します。売上は損益計算書(P/L)に計上され、企業の業績を示す重要な指標となります。
例えば、100万円の商品を販売した場合、その時点で100万円の売上が計上されます。この売上は、現金で受け取ったか掛け売りかに関わらず、商品やサービスの提供時点で発生します。
売上は、企業の本業による収益を表すため、経営分析において収益力の基本指標となります。また、決算書においては、損益計算書の一番上に記載される項目です。
売掛金とは
売掛金は、商品やサービスを提供したにもかかわらず、まだ代金を受け取っていない金額を指します。つまり、顧客に対する債権(お金を請求する権利)です。
売掛金は、貸借対照表(B/S)の資産の部に計上されます。例えば、100万円の商品を掛け売りした場合、100万円の売掛金が発生します。
売掛金は、将来的に現金化される予定の資産であり、企業の流動性を把握する重要な要素です。ただし、回収できなかった場合は、貸倒損失として処理する必要があります。
売掛金と売上の関係性
売掛金と売上は密接に関連しています。掛け取引を行った場合、売上が計上されると同時に売掛金も発生します。その後、顧客から入金があると売掛金が減少しますが、売上の金額には影響しません。
例えば、100万円の商品を掛け売りした場合は、次のようになります。
- 販売時点では、100万円の売上計上と同時に100万円の売掛金が発生
- 入金時点では、売掛金が100万円減少(売上の金額は変わらない)と同時に現預金が増加
この関係を理解することで、売上と実際の現金収入のタイミングの違いが明確になります。特に成長企業においては、売上が増加しているにもかかわらず資金繰りが苦しくなるケースがありますが、これは売掛金の増加が原因であることが多いのです。
売掛金に似た勘定科目との違い
売掛金と混同されやすい勘定科目がいくつか存在します。それぞれの違いを理解することで、より正確な会計処理が可能になります。
【資産】売掛金 (うりかけきん)
発生源: 本業の商品・サービスを販売した時
例: 商品を納品し、代金は翌月末払い。
【負債】買掛金 (かいかけきん)
発生源: 本業の仕入れを行った時
例: 材料を仕入れ、代金は翌月末払い。
【本業の債権】売掛金
例: 製造した部品の販売代金、コンサルティング料
【本業以外の債権】未収入金
例: 不要になった会社の備品(PC、車)の売却代金
売掛金と買掛金の違い
買掛金は、売掛金の反対の立場にあるもので、自社が商品やサービスを購入したにもかかわらず、まだ支払いを行っていない金額を指します。つまり、仕入先に対する債務(支払い義務)です。
買掛金は、貸借対照表の負債の部に計上されます。一方、売掛金は資産の部に計上されます。簡単にいえば、売掛金は「受け取るべきお金」、買掛金は「支払うべきお金」です。
両者の違いを理解することで、取引上の立場を正確に把握できるようになります。例えば、同じ取引でも、販売側にとっては売掛金となり、購入側にとっては買掛金となります。
売掛金と未収入金の違い
未収入金は、本業以外の取引で発生した一時的な未回収金額を指します。例えば、不要な事務機器を売却したが、代金をまだ受け取っていないような場合です。
売掛金と未収入金の最大の違いは、その発生源にあります。売掛金は、本業による商品販売やサービス提供から生じるのに対し、未収入金は、本業以外の取引から生じます。
会計処理においては、取引の性質に応じた適切な区分が重要です。例えば、製造業であれば、製品販売による未回収金は売掛金、工場の古い機械の売却による未回収金は、未収入金として処理します。
売掛金と前受金の違い
前受金は、商品やサービスをまだ提供していないにもかかわらず、先に代金を受け取った場合に計上される勘定科目です。前受金は、貸借対照表の負債の部に計上されます。
売掛金と前受金は、取引の時間軸において正反対の関係にあります。売掛金は、商品・サービスの提供が先で入金が後、前受金は、入金が先で商品・サービスの提供が後です。
例えば、受注生産の製品で前金を受け取った場合、その時点では前受金として処理し、商品の引き渡し時点で売上に振り替えます。この仕組みを理解することで、収益認識のタイミングを適切に把握できます。
売掛金と売上の仕訳方法
売掛金と売上に関する会計処理を正しく行うためには、基本的な仕訳のパターンを理解する必要があります。ここでは、具体的な仕訳例を見ていきましょう。
販売時の基本的な仕訳
商品やサービスを掛け売りした場合、以下のような仕訳を行います。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 売掛金 100,000円 | 売上 100,000円 |
この仕訳により、貸借対照表の資産である売掛金が増加し、同時に損益計算書の売上も増加します。これにより、収益と債権を同時に記録することができます。
なお、現金販売の場合は、売掛金ではなく現金勘定を使用します。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 現金 100,000円 | 売上 100,000円 |
入金時の仕訳
売掛金の回収(入金)があった場合は、以下のような仕訳を行います。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 現金(または預金) 100,000円 | 売掛金 100,000円 |
この仕訳により、貸借対照表の資産である現金(または預金)が増加し、売掛金が減少します。損益計算書には影響しません。入金時の仕訳を適切に行うことで、債権の現金化を正確に記録できます。
手数料が発生する場合の仕訳
クレジットカード決済や振込手数料など、入金時に手数料が差し引かれる場合の仕訳について説明します。
例えば、100,000円の売掛金に対して、3,000円の手数料が差し引かれて97,000円が入金された場合は、次のようになります。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 預金 97,000円 支払手数料 3,000円 |
売掛金 100,000円 |
この仕訳により、実際に入金された金額と手数料を正確に記録することができます。手数料は、販売費及び一般管理費として計上され、実際のコスト把握に役立ちます。
値引きや返品があった場合の仕訳
販売後に値引きや返品があった場合は、売上と売掛金の両方を減額する必要があります。
例えば、100,000円の商品を販売後、品質不良により10,000円の値引きをした場合だと、次のような仕訳になります。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 売上値引 10,000円 | 売掛金 10,000円 |
返品の場合は、売上戻りという勘定科目を使用します。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 売上戻り 30,000円 | 売掛金 30,000円 |
これらの処理により、実質的な売上金額を正確に把握することができます。なお、売上値引と売上戻りは、損益計算書では売上高から控除されます。
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売掛金の効率的な管理方法
売掛金は、企業の重要な資産であると同時に、資金繰りに大きく影響します。適切な管理方法を導入することで、キャッシュフローの安定化と不良債権リスクの低減が可能になります。
売掛金台帳の作成
売掛金を効果的に管理するための基本は、売掛金台帳(得意先元帳)の作成です。これは、顧客ごとの売掛金の発生と回収を記録する帳簿です。
売掛金台帳には、取引日、金額、請求書番号、支払期日、入金日などの情報を記録します。これにより、売掛金の残高をリアルタイムで把握することができます。
現在では、会計ソフトやクラウド会計サービスを利用することで、手間をかけずに売掛金台帳を管理することが可能です。こうしたツールを活用することで、請求書の発行から入金管理までを一元的に行うことができます。
与信管理の実行
与信管理とは、取引先の信用状況を評価し、適切な取引条件を設定する活動です。適切な与信管理は、売掛金の回収リスクを低減するために不可欠です。
与信管理のポイントとしては、新規取引先の信用調査、取引限度額の設定、定期的な信用状況の見直しなどが挙げられます。特に、取引先の支払能力を事前に評価することで、将来的な不良債権発生リスクを抑制できます。
信用調査には、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社の情報を活用したり、取引先の決算書を分析したりする方法があります。また、業界内での評判や過去の支払い履歴も重要な判断材料となります。
効率的な入金消込
入金消込とは、入金された金額を対応する売掛金と照合し、売掛金を減額する作業です。適切な入金消込を行うことで、未回収の売掛金を正確に把握できます。
効率的な入金消込のためには、請求書番号や取引先コードなどの識別情報を活用し、システム化された処理を導入することが効果的です。また、取引先に振込時の明細記入を依頼するなど、入金情報の明確化も重要です。
最近では、銀行APIと連携した会計ソフトを使用することで、入金データを自動的に取得し、AIによる予測消込を行うシステムも普及しています。これにより、入金消込の作業効率が大幅に向上します。
滞留債権への対応
支払期日を過ぎても回収できない売掛金は、滞留債権として特別な対応が必要になります。滞留債権の増加は、資金繰りの悪化や最終的な貸倒損失につながる可能性があります。
滞留債権への効果的な対応策としては、定期的な残高確認、支払い督促の仕組み化、支払条件の見直し、分割払いの提案などが挙げられます。特に、早期の状況把握と対応が重要です。
長期間回収できない売掛金については、法的手段を検討する必要もあります。内容証明郵便の送付や少額訴訟の活用、最終的には弁護士への相談なども選択肢となります。ただし、取引関係の維持も考慮した慎重な対応が求められます。
回収条件の最適化と請求業務の効率化
売掛金の回収を効率化するためには、取引条件の最適化と請求業務の効率化が重要です。具体的には、支払期限の短縮、早期支払割引の導入、前払いインセンティブの設定などが効果的です。
例えば、支払期限を従来の60日から30日に短縮することで、キャッシュの回転率を高めることができます。また、10日以内の支払いに対して2%の割引を提供するなど、早期回収のインセンティブ設計も有効です。
ただし、取引条件の変更は、取引先との関係に影響する可能性があるため、業界慣行や競合状況を考慮し、段階的に導入することが望ましいでしょう。また、新規取引先と既存取引先で条件を変えるなど、柔軟な対応も検討すべきです。
また、請求書の発行タイミングを最適化し、商品・サービス提供後すぐに請求書を発行する方式への変更も、検討価値があります。請求書のフォーマット最適化も重要で、支払期限、振込先、問い合わせ先を明確に記載し、取引内容との照合が容易なように詳細情報を記載します。最近では、電子請求書の活用により、発行から送付までの時間短縮と業務効率化を図ることができます。
ファクタリングの活用
資金繰りの改善が急務の場合は、ファクタリングの活用も選択肢の一つです。ファクタリングとは、売掛金を専門業者(ファクター)に売却して、早期に資金化する手法です。
ファクタリングには、取引先に通知する「3社間ファクタリング」と、通知せずに利用できる「2社間ファクタリング」があります。手数料は、一般的に売掛金額の1%~5%程度ですが、即日の資金化が可能という大きなメリットがあります。
ただし、ファクタリングは融資ではなく債権売却であるため、売掛金の信頼性や取引先の信用状況によって利用可否や条件が変わります。また、継続的に利用する場合のコスト面も考慮する必要があります。
もしファクタリングの手数料が高いと感じる場合は、ビジネスローンへの乗り換えが資金繰り改善に繋がるケースもあります。詳しくは「ファクタリングの手数料が高い法人様へ。ビジネスローン乗り換えで資金繰りを改善する方法」もご参照ください。
ITツールを活用した売掛金管理
売掛金管理の効率化には、専用のITツールやクラウドサービスの活用が効果的です。これらのツールを使用することで、請求書発行から入金確認までの一連のプロセスを自動化できます。
例えば、請求書作成・送付の自動化、入金予定日のアラート設定、入金データの自動取得と消込、滞納時の自動リマインダー送信などの機能があります。これにより、人的ミスの削減と業務効率化を実現できます。
また、データ分析機能を活用することで、顧客ごとの支払い傾向の把握や、回収リスクの予測も可能になります。売掛金データの可視化により、経営判断の質を高めることができるでしょう。
売掛金について押さえておくべき点
売掛金を適切に管理するにあたって、知っておくべき重要な注意点があります。
売掛金関連の法的対応
売掛金には時効があり、一般的には、権利を行使できることを知った時から5年(または権利を行使できる時から10年)で時効となります(民法第166条)。商取引の多くはこの「知った時から5年」が適用されます。時効が成立すると、法的に債権を請求することができなくなります。
時効の中断(更新)には、債務承認書の取得、一部入金の実行、法的手続きの開始などの方法があります。長期間回収できていない売掛金がある場合は、時効の管理と適切な対応が必要です。
また、取引先が倒産した場合は、破産管財人への債権届出や、必要に応じて取引先の連帯保証人への請求なども検討する必要があります。重要な売掛金については、法的リスクを低減するための契約書の整備や、必要に応じて担保の設定も有効です。
税務上の取扱い
回収不能のリスクがある売掛金に対しては、貸倒引当金を計上することが会計上適切です。貸倒引当金は、将来の貸倒損失に備えるための引当金で、損益計算書上は、販売費及び一般管理費として計上されます。
税務上の貸倒引当金の取扱いについては、法人税法に基づく一定の限度額があります。一般的には、売掛金等の金銭債権の帳簿価額の合計額に法定繰入率を乗じた金額が限度額となります。
また、個別の債権について回収可能性が著しく低下した場合には、個別評価による貸倒引当金の計上も認められています。例えば、取引先が倒産した場合や、長期間回収できていない場合などです。適切な引当金計上により、財務諸表の健全性を確保することが重要です。
まとめ
売掛金と売上の違いを正しく理解することは、健全な財務管理の基盤となります。売上は、商品やサービスの提供による収益を表し、売掛金は、まだ回収していない債権を表します。両者は密接に関連しながらも、会計上は全く異なる性質を持っています。
効果的な売掛金管理のためには、正確な記録と定期的なモニタリング、適切な与信管理、効率的な回収プロセスの構築が欠かせません。特に成長企業においては、売上の増加に伴う売掛金の増加に注意し、計画的な資金管理を行うことが重要です。日々の会計処理において正確な仕訳を行い、効率的な入金消込を実践することで、財務状態の健全性を維持しましょう。
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