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2025.10.14

事業再生ADRとは?流れやメリット・デメリット、成功のためのポイントを紹介

経営状況が悪化した場合、事業をどう立て直していくのかというのは、非常に重要な問題となります。特に、経営の立て直しを図るために法的整理を選択すると、信用低下や取引先への影響が大きくなりがちです。こうした課題を解決するために、「事業再生ADR」という制度があります。

事業再生ADRは、企業が経営危機に陥った際に、裁判所を介さずに金融機関との債務の調整(リスケジューリング)を行う制度です(正式名称は「事業再生に関する特定認証紛争解決手続(ADR)」で、ADRは「Alternative Dispute Resolution(裁判外紛争解決手続)」の略です)。柔軟性が高く、企業の信用力を維持しながら再建を進められるのが特徴です。この記事では、事業再生ADRの基本的な仕組みから実際の手続きの流れ、メリット・デメリット、そして成功させるためのポイントまで詳しく解説します。

事業再生ADRの基本

事業再生ADRは、経営危機に陥った企業が、裁判所の手続きによらずに債権者と交渉しながら事業再生を図る制度として機能しています。

事業再生ADRとは

事業再生ADRとは、経済産業大臣が認定した公正中立な第三者機関(認定支援機関)が調停役となり、債務者企業と債権者(主に金融機関)の間で、事業再生計画について協議を行う制度です。この制度の主な目的は、法的整理を避けながら企業の再生を実現することにあります。

従来の法的整理(民事再生法や会社更生法による手続き)と異なり、当事者間の合意形成を重視する点が大きな特徴です。企業が存続しながら事業の再構築を行えるため、雇用や取引関係を維持できる可能性が高まります。

事業再生ADRは、2007年に産業活力再生特別措置法(現在の産業競争力強化法)に基づいて創設され、以来、多くの企業の再生に活用されてきました。金融機関からの借入金が多く、返済が困難になった企業が主な対象となっています。

事業再生ADRと他の再生手続きの違い

事業再生ADRは、他の事業再生手続きと比較すると、どのような位置づけになるのでしょうか。主な違いを理解することで、自社に適した再生方法を選択するヒントになります。

私的整理と比較すると、事業再生ADRは公的な認定支援機関が関与するため、透明性と公平性が高く、債権者の信頼を得やすいという特徴があります。また、特定調停や民事再生などの法的手続きと比べると、法的な拘束力は弱いものの、柔軟性が高く手続きの進行も迅速です。

会社更生法による手続きでは、経営権が第三者に移りますが、事業再生ADRでは、原則として既存の経営陣が引き続き経営を担当できます。このため、経営ノウハウを活かしながら事業の立て直しを図ることができるのです。万が一、保証協会付き融資の返済が困難になった場合の代位弁済とは異なる手続きとなります。

事業再生ADRが適している企業の特徴

事業再生ADRは、すべての企業に適しているわけではありません。この制度が、特に効果的に機能するのは、次のような特徴を持つ企業です。

まず、本業に収益力があり、事業モデル自体に大きな問題がない企業が適しています。一時的な資金繰りの悪化や過剰債務が主な問題である場合、事業再生ADRで債務の圧縮や返済条件の変更を行うことで、事業の継続性を確保できる可能性が高まります。

また、主要債権者が金融機関であり、その数が比較的少ない場合も適しています。債権者が多数に及ぶと、全員の同意を得ることが難しくなるからです。さらに、経営陣が再生への強い意志を持ち、適切な情報開示を行う姿勢があることも重要な要素となります。

事業再生ADRを実施する流れ

事業再生ADRは、申請から計画実行まで一連の流れに沿って進行します。各段階での準備と対応を理解することで、円滑な手続きの実施につながります。

事前準備から申請まで

事業再生ADRを開始する前に、まず企業の財務状況や事業の実態を正確に把握することが必要です。自社の資産・負債の状況、キャッシュフローの見通し、事業の収益性などを詳細に分析します。この段階で、公認会計士や弁護士などの専門家の支援を受けることが重要です。

申請にあたっては、認定支援機関(一般社団法人事業再生実務家協会など)に対して必要書類を提出します。主な提出書類には、申請書、財務諸表、債権者一覧、事業計画の骨子などが含まれます。認定支援機関は、申請内容を審査し、手続きを開始するかどうかを判断します。

申請が受理されると、認定支援機関から債権者に対して「一時停止の通知」が行われます。これにより、債権者は新たな債権回収行為を一時的に停止することになり、企業は再生計画の策定に集中できる環境が整います。

事業再生ADRを支援できる認定支援機関には、主に以下のような専門家や法人があります。これらの機関は、経済産業省が認定した「経営革新等支援機関」として、中小企業の事業再生を専門的に支援できる立場にあります。

  • 地域銀行、信用金庫、信用組合など
  • 銀行グループのコンサルティング子会社など
  • 税理士・会計士・中小企業診断士
  • 弁護士法人・法律事務所
  • コンサルティング会社(例:タナベ経営、日本能率協会コンサルティング、ヒューマントラスト、地域の再生支援会社など)
  • 商工会・商工会議所・中小企業団体中央会
  • 地域の中小企業支援を行う公的団体

債権者会議の進行から合意形成まで

事業再生ADRの中心となるのが、債権者会議です。この会議は通常、複数回にわたって開催されます。第1回債権者会議では、企業の現状と事業再生計画の骨子が説明され、一時停止の追認が行われます。

第2回債権者会議では、より詳細な事業再生計画案が提示され、債権者からの質問や意見を受けて計画の修正が行われます。この段階で、債権放棄や返済条件の変更といった、具体的な金融支援の内容が示されることが多くあります。

最終的な債権者会議では、修正された事業再生計画について、債権者の同意を得ることを目指します。事業再生ADRの大きな特徴として、計画の成立には全債権者の同意が必要とされます。一人でも反対する債権者がいると計画は不成立となるため、慎重な交渉と説明が求められます。

事業再生計画の実行

事業再生計画は、企業の現状分析から始まり、再生のための具体的な施策、財務計画、返済計画などを含む包括的なものでなければなりません。計画には、事業の選択と集中、コスト削減、組織再編、資産売却、新規事業の展開など、実効性のある施策を盛り込む必要があります。

計画策定においては、単なる負債の圧縮だけでなく、どのように事業を立て直し、収益力を回復させるかという点が重要です。債権者に納得してもらうためには、実現可能で具体的な数値目標を示すことが求められます。

全債権者の同意が得られ、事業再生計画が成立した後は、計画に沿った実行段階に移ります。この段階では、計画の進捗状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて軌道修正を行いながら、着実に再生を進めていくことになります。認定支援機関は一定期間、フォローアップを行い、計画の実行を支援します。

事業再生ADRのメリット

事業再生ADRには、他の再生手続きにはない独自のメリットがあります。これらのメリットを理解することで、自社の状況に適した再生方法を選択する際の判断基準とすることができます。

法的整理と比較して手続きが柔軟

事業再生ADRの最大のメリットの一つは、法的整理と比較して手続きの柔軟性が高い点です。法的整理では、法律の枠組みに沿って進める必要がありますが、事業再生ADRでは当事者間の合意に基づいて、柔軟な再生計画を策定できるという特徴があります。

例えば、債務の返済条件(金利、返済期間、据置期間など)について、企業の状況に合わせた設定が可能です。また、事業の再構築についても、法的な制約が少なく、より自由度の高い計画を立てられます。

さらに、手続きの進行スピードも比較的速いのが特徴です。法的整理では、裁判所のスケジュールに左右されますが、事業再生ADRでは当事者間の合意によって進行するため、状況に応じて迅速に対応できます。通常、申請から計画成立まで3〜6ヶ月程度で完了することが多いでしょう。

企業イメージと信用力を維持できる

法的整理を行うと、倒産という烙印を押されてしまい、取引先や顧客からの信用を大きく失うリスクがあります。一方、事業再生ADRは裁判所を通さない私的整理の一種であるため、企業イメージへの悪影響を最小限に抑えることができます。

特に、事業再生ADRは経済産業省が認定した制度であり、公的な信頼性を備えています。このため、取引先に対しても「国が認めた再生手続きを行っている」と説明しやすく、取引継続への理解を得やすい傾向があります。

また、上場企業の場合、法的整理を行うと上場廃止となる可能性が高いですが、事業再生ADRであれば上場を維持したまま再生を図ることも可能です。これにより、株主からの信頼を保ちながら、資本市場からの資金調達の道を残すことができます。

事業継続を見据えた再生をしやすい

事業再生ADRでは、原則として既存の経営陣が引き続き経営を担当できるため、事業に関するノウハウや顧客との関係を維持したまま再生を進められます。これにより、事業の継続性を確保しやすいという大きなメリットがあります。

また、財務面でも様々な優遇措置が用意されています。例えば、債権放棄を受けた場合の債務免除益に対する課税の特例や、資産の評価損に関する税制上の優遇措置などが適用される可能性があります。これらの税制優遇を活用することで、再生後の財務基盤をより強固なものにできます。

さらに、事業再生ADRの手続き中に必要となるつなぎ資金についても、日本政策金融公庫や中小企業活性化協議会などの公的機関から支援を受けられる可能性があります。これにより、再生計画の実行中の資金繰りを安定させることができます。

事業再生ADRのデメリット

事業再生ADRには多くのメリットがある一方で、いくつかの重要なデメリットや課題も存在します。

全債権者の同意が必要

事業再生ADRの最大の難関は、再生計画の成立に全債権者の同意が必要な点です。一人でも反対する債権者がいると計画は不成立となり、手続きが頓挫してしまいます。特に債権者数が多い場合や、債権者間で利害が対立している場合には、全員の合意を得ることが極めて困難になることがあります。

例えば、メインバンクは債権放棄に同意しても、関係の薄い金融機関が同意しないというケースや、債権額の大小によって債権者の姿勢が異なるケースなどが考えられます。このため、事前に主要債権者との間で十分な協議を行い、おおよその方向性について合意を得ておくことが重要です。

また、金融機関以外の取引債権者(仕入先など)は通常、事業再生ADRの対象外とされますが、これらの債権者との関係維持も再生成功のためには欠かせません。手続き外であっても、適切な情報提供と説明を行うことが求められます。

手続きや費用の負担が重い

事業再生ADRは、私的整理の一種ではありますが、専門的な知識と経験が必要な複雑な手続きです。企業単独で対応するのは難しく、弁護士、公認会計士、税理士、経営コンサルタントなど、多くの専門家の支援が必要になります。

これらの専門家への報酬に加え、認定支援機関への手数料も発生します。経営状態が悪化している中で、こうした費用負担は大きな課題となります。中小企業の場合、総額で数百万円から数千万円の費用がかかることも珍しくありません。

また、申請から計画成立までの期間中は、経営陣が手続き対応に多くの時間を割かなければならず、通常業務への影響も懸念されます。特に中小企業では、限られた人的リソースの中で、手続き対応と事業運営の両立が難しいケースもあります。

債務整理の範囲に限界がある

事業再生ADRは、当事者間の合意に基づく手続きであるため、法的整理と比較すると債務整理の範囲に一定の制約があります。例えば、民事再生法では債権者の多数決で再生計画が決議されますが、事業再生ADRでは全員一致が原則となるため、大幅な債務カットが難しい場合があります。

また、担保権者の権利は原則として尊重されるため、担保付債権については実質的な権利変更が難しいという面もあります。法的整理では、担保権の実行を一時的に停止させる効力がありますが、事業再生ADRではそのような法的拘束力はなく、あくまで債権者の協力に依存します。

さらに、事業再生ADRでは、否認権(債務者が倒産前に行った特定の取引を無効にできる権利)や役員責任の追及といった法的整理特有の制度が適用されないため、不公平な債権回収が行われていた場合などに対処しにくいという側面もあります。

事業再生ADRを成功させるためのポイント

事業再生ADRを成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。これらのポイントを意識することで、手続きをスムーズに進め、再生の可能性を高めることができます。

早期の対応と専門家への相談

事業再生において最も重要なのは、問題が深刻化する前に早期に対応することです。財務状況の悪化に気づいたら、すぐに専門家への相談を検討するべきです。経営危機が進行してからでは、選択肢が限られてしまい、再生の可能性も低下します。

相談先としては、弁護士や公認会計士、事業再生の専門家などが考えられます。また、地域の中小企業再生支援協議会も無料で相談に応じており、初期段階での相談先として適しています。これらの専門家は、企業の状況を客観的に分析し、最適な再生手法を提案してくれます。

専門家に相談する際は、財務データや事業の状況について隠し立てせず、正確な情報を提供することが重要です。問題点を明確にしないと、適切な解決策を見出すことはできません。

透明性の高い情報開示や誠実な対応

事業再生ADRでは、債権者との信頼関係の構築が成功に向けて非常に大切です。そのためには、透明性の高い情報開示と誠実な対応が不可欠です。財務状況や事業の実態、経営悪化の原因などについて、正確かつ詳細な情報を債権者に提供することが求められます。

特に、資産・負債の状況、キャッシュフローの見通し、事業計画の前提条件などについては、客観的なデータに基づいた説明が必要です。情報の隠蔽や過度に楽観的な見通しは、債権者の不信感を招き、計画成立の妨げになります。

また、債権者からの質問や意見に対しては、真摯に耳を傾け、迅速かつ誠実に対応することが重要です。債権者との良好なコミュニケーションを維持することで、再生計画への理解と協力を得やすくなります。

実現可能な事業再生計画の策定

事業再生ADRの成否を左右するのが、事業再生計画の内容です。債権者の同意を得るためには、計画が実現可能で具体的なものである必要があります。特に、再生後の収益力の回復について、説得力のある説明が求められます。

計画には、経営悪化の原因分析と対策、事業構造の見直し、コスト削減策、新規事業の展開、人事・組織改革など、具体的な再生施策を盛り込みます。また、これらの施策によって、どのように収益性が改善するのかを数値で示すことが重要です。

同時に、債権者に求める金融支援(債権放棄や返済条件の変更など)についても、企業の返済能力と照らし合わせて、合理的な水準を提案する必要があります。過度な債権放棄を求めると債権者の反発を招きますが、不十分な支援では再生が難しくなります。バランスの取れた提案が求められます。

また、再生計画の実行体制も重要です。誰がどのような役割を担い、進捗をどのようにモニタリングするかといった点も明確にしておくことで、計画の実効性が高まります。

まとめ

事業再生ADRは、法的整理に比べて柔軟性が高く、企業イメージへの影響を抑えながら事業再生を図ることのできる方法です。全債権者の同意が必要となる難しさはありますが、早期に専門家に相談し、透明性の高い情報開示と実現可能な再生計画を提示することで、成功の可能性を高めることができます。

経営危機に直面した際は、問題を先送りせず、事業再生ADRを含めた様々な選択肢を検討することが重要です。なお、売掛債権を活用した資金調達方法としてファクタリングも有効な手段となり得ます。

財務状況の悪化に気づいたら、まずは弁護士や公認会計士、中小企業再生支援協議会などの専門家に相談し、自社の状況に最適な再生方法を見つけましょう。

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筆者・監修者 三坂 大作(ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役)

筆者・監修者 ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役 三坂 大作(ミサカ ダイサク)

略歴
  • 1985年:東京大学法学部卒業
  • 1985年:三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行 — 表参道支店:法人融資担当
  • 1989年:同行 ニューヨーク支店勤務 — 非日系企業向けコーポレートファイナンス担当
  • 1992年:三菱銀行を退社、資金調達の専門家として独立
資格・登録情報
・経営革新等支援機関(認定支援機関ID:107813001112)
・貸金業務取扱主任者(資格者:三坂大作)
・貸金業登録:東京都知事(1)第31997号
・日本貸金業協会 会員番号:第006355号
専門分野と活動実績
企業の成長を資金面から支えるファイナンスの専門家として、30年以上にわたり中小企業の財務戦略・資金調達を支援。
国内外の法人融資・国際金融業務の経験を基に、経営者に寄り添った戦略的支援を展開。

現在の取り組み
ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役として、以下の事業を統括:
・法人向けビジネスローン事業「HTファイナンス」
・個人事業主向けファクタリングサービス
・資金調達および財務戦略に関する経営コンサルティング

経営革新等支援機関として、企業の持続的成長を実現するための財務戦略策定や金融支援を行い、貸金業登録事業者として、適正かつ信頼性の高い金融サービスを提供しています。
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