~アメリカ大統領選~
アメリカ大統領選の見方
昨日のニュースの中で、久々にアメリカ大統領選挙に関する話題がありました。「2024年2月25日、アメリカの共和党の大統領候補選出予備選がサウスカロライナ州で行われ、ドナルド・トランプ氏(78)が地元の元国連大使ニッキー・ヘイリー氏(52)を大差で破りました。国際協調のヘイリー氏、米国第一のトランプ氏、この政策的な違いとアメリカ独特のパフォーマンス選挙の行方は、今後の世界経済の行方にも影響しますので、十分注視する必要があると思います。
現時点で、共和党の大統領候補はこの2名に限られていますが、獲得した代議員の数は、トランプ氏107、ヘイリー氏17、と圧倒的な差になっているとのことです。
それでも、女性候補であるヘイリー氏は、52歳という若さに加え、選挙活動を支援するアンチ・トランプ陣営の強力な資金支援によって「候補者選定争い」を継続する意思は固いようです。
一方のトランプ氏は、ヘイリー氏についてのコメントはほとんどなく、すでに民主党のバイデン大統領に対して「You Fired、Get Out(クビだ、出ていけ)」と過激な勝利宣言をしています。トランプ氏については、3月25日に不倫口止め料支払いを巡る事件の初公判、5月20日には機密文書の違法持ち出し事件の初公判と刑事訴追に対する法廷に出頭することが決まっています。
こうした多くの法廷闘争を抱えたままで、そもそも大統領になる資格があるのかという議論もあります。トランプ氏自身は、そういった問題は、先の大統領選挙以来の民主党、一部経済界の策動あり、事実無根だとの主張を一貫して行い、真正面から闘う意向ですが、アメリカの政界は、こういうある種の「陰謀論」や虚偽の言説が大統領選挙にまつわり噴出していくことも、一つの盛り上がりの要因になります。
ヘイリー氏は、こうしたトランプ氏の不安定要素を考慮し、万一、トランプ氏が大統領選挙に共和党候補として立候補できなくなる可能性も考えて、共和党の大統領候補者レースから撤退しないとの観測もあるのです。
日本にいる私たちにとって、アメリカ大統領選挙からどのような影響を受けるか考えてみましょう。政治外交面と経済面から考えておかなければいけないポイントを挙げてみます。
場面は3つに分かれるでしょう。
- 1.民主党バイデン大統領
- 2.共和党トランプ大統領
- 3.共和党ヘイリー大統領
で考えてみましょう。
1.民主党バイデン大統領
政治外交面では、これまでの4年間の政策は基本的に継続されるものと思われますが、いくつかの修正も必須です。移民対策に対しては従来よりも厳しく対応せざるを得ないと考えます。不法移民が国境を越えてどんどん国内に入り込んでくる状況で、ニューヨークをはじめとする大都市ではホームレスが増加し治安悪化も進んでいます。アメリカ市民の労働機会も奪われており、これには、民主党支持者も対応策を求めています。また、経済政策では、エネルギー政策の転換が必要だと言われています。輸入に依存するエネルギー政策は中東の政治体制の不安定さから危ぶまれており、また、クリーンエネルギーへの急激な転換はコスト面で問題があるだけでなく、実際の環境負荷も再検証を求められてくるでしょう。加えて、中国からの部品・部材を禁輸にした影響で設備価格も高騰してきています。さらに、そもそもアメリカはシェールガスという豊富な天然資源を有しており、かつて前トランプ大統領時代には、シェールガスを軸としたエネルギー産業が活況を呈していました。これを民主党政権は止めてしまったために、アメリカのエネルギー政策は混乱し、国内ガソリンの高騰をはじめとする石油製品価格の高騰を招いています。
金融政策も利上げに振ったために、恒常的なインフレ幅が拡大し、物価高は日常生活にも大きな影響をきたしています。こうした中で、一般消費者の消費需要が落ち込み、企業収益が悪化する中で税収も上げ止まります。国債発行などの政府借金の手立ても上限に張り付き限界が見える中で、防衛関連支出、公務員給与、軍人給与、社会保障負担、といった政府責任支出が拡大し続け、昨年はイエレン財務長官が政府資金の枯渇を警告する事態になったのです。ウクライナへの多額な支援も継続する意思を示している民主党バイデン政権が、このまま継続できるかは、極めて疑問ですが、民主党バイデン政権がそのまま継続した場合には、アメリカのデフォルトリスク回避にどのような抜本策が提示されるのかが、重要なポイントです。アメリカ一国の金融不安、信用不安だけでなく、ドル体制の揺らぎによる世界経済の混乱も危険視されるのです。
2.共和党トランプ大統領
トランプ氏の政策の軸は一貫しています。「Make America Great Again(MAGA)」=アメリカ第一主義です。これはトランプ氏の専売特許のように言われていますが、そもそもは、1980年の大統領選挙でレーガン氏が用いた標語です。当時のアメリカは、高い失業率とインフレの進行に苦しんでおり、その状況は民主党バイデン政権の現在に共通しています。2020年の大統領選挙のときよりも、この標語はアメリカ国民の生活実感にフィットする可能性が高いかと思います。先のトランプ政権では、国内の産業活性化のために、中国製品への高関税賦課、シェールガス開発に代表される国内エネルギー産業育成、国境の壁建設による不法移民対策、米軍の海外派兵の見直しなど、かなり内向きな各種政策を実施していた印象です。その一方では、GAFAのようなグローバル企業、IT先進企業に対しての税制を軸とした事業実態への牽制、中国の人道問題批判、北朝鮮との対話開始による緊張緩和など、かなり攻守両面で画期的な政策を実現させてきました。もし、再びトランプ氏が大統領になれば、こうした基本路線は復活するでしょう。軍事費の見直し、ウクライナ支援の縮小などの緊縮財政も考えられます。こうしたトランプ氏のMAGA政策は、私たち日本にとっていくつかの不安要素をもたらします。まずは、前トランプ政権時からは考えられないくらい緊張してきた台湾有事の問題、中国の経済的衰退とロシアの退潮、イスラエルとパレスチナの対立激化、欧州経済の弱体化、などなど。アメリカもグローバル経済の中で、経済的には中国やロシアとギブ&テイクの関係にありますので、以前の対ソ連冷戦期のように、中国やロシアとは完全遮断という訳にはいきません。イスラエルのパレスチナへの対応も、ユダヤ系勢力との関係上、アメリカが直接的に手を出すのは難しいでしょう。トランプ氏が米軍をどのように活用するか?緊縮財政に持っていくなかでウクライナ支援はどうするのか?「MAGA」のコンセプトに合致するように政策を解釈し、自国至上主義に適合する政策に仕立て上げるという難しいかじ取りになるでしょう。日本の自民党外務委員会や防衛委員会でもアメリカの動向は常に議論のテーマになっているようですが、もし、ウクライナでロシアが勝つような事態が発生すれば、権威主義国家と言われる中国や北朝鮮、イランの鼻息もさらに大きくなるかもしれません。それこそ、一部からは、民主主義の敗北だという意見すらあるわけです。共和党の穏健派の中には、こうした過激なトランプ氏の「MAGA」政策に危機感を覚えている議員も多く、第3の選択肢を検討するべきだという意見もある訳です。
3.共和党ヘイリー大統領
ここでは、一応共和党ヘイリー大統領と書いていますが、これは一つの選択肢という話です。もちろん、ヘイリー氏が大統領になれば、米国初の女性大統領になりますし、トランプ大統領とは異なった政策実現もあり得るでしょう。そのインパクトはかなり大きいと思います。
では、実際の政策のイメージはどのようなものでしょうか?実は、アメリカの政党というのは、日本とは異なり、組織的には極めて緩やかな組織です。入党手続きも細かく規定されているわけでなく、党費などもありません。基本的に寄付に基づいて自身の支持政党を決めることが多いので、実際の有権者の投票行動も、議員の決議内容も、個々人の判断に任されています。民主党よりの共和党員、その逆の共和党寄りの民主党員など、明確な仕切り線は見えにくく、それぞれの立場で行動します。まさに民主的です。その意味では、共和党内でトランプ氏の「MAGA」政策の過激な部分を対話型で解決し、民主主義を保守する立場で政策立案されると思われます。いかにもこういう政権がうまくいくように思えますが、やや信条的に緩やかな面、経済力のある勢力や政治色の強い運動に左右されやすい面があり、政策の一貫性に難があるかもしれません。ある意味でポピュリズム的政治になる危険性をはらんでいます。
このような考察をしたうえで、アメリカ大統領選挙を見てみるのも、日本の行く末を見通す一つの情報だと思います。今年は世界で多くの選挙があるようで、それによって、経済政策も外交政策も変化していくので、普段、あまり気にしないかもしれない海外ニュースにも目を向けてみるのも必要かと思います。