公開日:2026.01.08
更新日:2026.01.20
【2026年版】統合報告書の制作スケジュール|中小企業が6ヶ月で内製化する工程と社内調整術
「統合報告書を作ろう」と思い立ったその日が、実はすでにデッドラインかもしれません。
コンセプト設計から発行まで、最短でも6〜7ヶ月。
これは単なる「冊子作り」ではありません。経営企画・広報・財務、そして経営トップを巻き込んだ「社内改革プロジェクト」そのものだからです。
「8つの要素」を理解していても、現場では必ず壁にぶつかります。
「財務部門が数字を出してくれない」「社長のインタビュー時間が取れない」……。
こうした泥臭い調整不足こそが、スケジュールの遅延を招き、最終的に「誰にも読まれない、ただ分厚いだけの報告書」を生み出してしまいます。
本記事では、無計画なスタートで失敗しないための「6ヶ月間の工程表」と、私が現場で実践している「社内を動かすための巻き込み術」を、包み隠さず解説します。
この記事の要点:制作成功の3つの鍵
- 期間と逆算:発行の6ヶ月前にプロジェクトを始動し、マイルストーンを厳守する。
- 体制構築:「広報・経営企画・財務」の連携が必須。トップのコミットメントを引き出す。
- 中小企業の戦略:「2〜3年更新」や「ハイブリッド形式」でリソース不足を解消し、銀行・採用への効果を最大化する。
【企画・準備編】開始は発行の6ヶ月前!制作の土台を作る
結論:発行の6ヶ月前には始動し、誰に(ターゲット)何を(差別化)伝えるかを明確にした上で、全部署横断のプロジェクトチームを結成することが成功の鍵です。
統合報告書の発行は、通常、定時株主総会後の7月〜9月頃が多くなります。
そこから逆算すると、遅くともその年の年初、あるいは前年の年末にはプロジェクトを始動させる必要があります。最初の2ヶ月は、制作の成否を分ける重要な準備期間です。
統合報告書 制作スケジュール(標準6ヶ月)
1〜2ヶ月目:企画・準備
- ターゲット設定投資家・採用・顧客など優先順位を決定
- ベンチマーク調査他社事例から差別化ポイントを探る
- チーム結成・予算化部門横断チームの発足
3〜4ヶ月目:構成・収集
- マテリアリティ特定重要課題と価値創造プロセスの図解化
- 経営層インタビュートップの本音とコミットメントを引き出す
- 原稿・データ収集各部署からの素材集め
5〜6ヶ月目:制作・発信
- デザイン・執筆一貫性のあるストーリーへ編集
- 校正・審査法務確認および数字の最終確定
- 公開・二次利用Web公開、営業・採用ツールへの展開
ターゲット設定とベンチマーキング
まず行うべきは「読者の想定」と「他社分析」です。ここがブレると、後の工程で手戻りが発生します。
誰に何を届けるか(ターゲット)
「全方位向け」は往々にして「誰にも刺さらない」ものになりがちです。
今年度の発行目的を明確にし、ターゲットに合わせて編集方針を最適化します。
- 投資家向け:財務資本戦略や中長期的な成長ストーリーを重点的に。
- 採用(リクルーティング)向け:人的資本、働きがい、企業のパーパスを厚くする。
- 取引先向け:サプライチェーンの持続可能性や事業の安定性を強調する。
差別化のための調査(ベンチマーク)
同業界の他社事例や、統合報告書の先進企業のレポートを数社分析します。
目的は他社のマネをすることではなく、「業界標準(スタンダード)を押さえつつ、自社独自の強みをどこで表現するか」を見極めることです。
この段階で、制作メンバー間で「目指すべき完成イメージ」を共有しておくことが重要です。
予算確保とチームビルディング
取材・撮影・デザイン・翻訳・印刷・Web実装にかかるコストを見積もり、明確な予算を確保します。
また、制作体制の構築も重要です。
広報・IR部門だけで完結させようとすると、専門的な情報の収集で行き詰まります。
経営企画、サステナビリティ推進室、人事、経理など、関連部門から担当者を選出し、全部署横断的なプロジェクトチームを発足させるのが理想的です。
「これは全社プロジェクトである」という認識を最初に植え付けることが、後の協力体制に影響します。
【構成・収集編】最難関の「社内調整」と「骨組み」
結論:IIRCフレームワーク(国際統合報告フレームワーク)を参照しつつ、自社独自の価値創造ストーリーを設計します。経営層を早期に巻き込み、トップの本音を引き出すことが質の高い報告書に直結します。
プロジェクトの3〜4ヶ月目は、統合報告書制作における最大の山場です。
ここではガイドラインを参考にしつつ、自社の実情に合わせた骨組み(台割)を決定し、原稿の素材を集めていきます。
ストーリーのある「台割」作成
8つの構成要素をどのように配置するか、全体の目次構成(台割)を策定します。単に要素を並べるのではなく、論理的な「ストーリー」が必要です。
- 理念(Why):なぜ社会に存在するのか
- ビジネスモデル(How):どのように価値を生み出すのか
- 戦略と実績(What):具体的に何を行い、どうなったか
- ガバナンス(Foundation):それを支える仕組みは何か
特に「価値創造プロセス図」の作成は、自社のビジネスモデルを再定義する作業となるため、多くの時間を要します。既存の図解の使い回しで済ませず、現状に合わせてブラッシュアップしましょう。
また、具体的な開示内容に迷った際は、金融庁「企業情報の開示に関する情報(記述情報の充実)」にある好事例集も、投資家や金融機関が何を求めているかを知るための優れた参考資料となります。
経営陣のコミットメントと取材
ここが担当者にとって最も苦労するフェーズです。
現場からは「忙しいのにまた新しい資料作成か」「財務諸表だけでいいではないか」といった反発が起きることも珍しくありません。
こうした事態を避けるため、プロジェクト初期に社内向け勉強会(キックオフミーティング)を開催することをおすすめします。
「なぜ今、統合報告書が必要なのか」「これによって企業価値がどう向上するのか」を啓蒙し、協力を仰ぐのです。
統合報告書の成否は、巻頭の「CEOメッセージ」で決まると言っても過言ではありません。
しかし、多くの企業でここが「総務部が書いた定型文」になり下がっています。
断言しますが、綺麗なだけの挨拶文など投資家は1行も読みません。
彼らが知りたいのは、トップの言葉の端々に宿る「熱量」と、不確実な未来に対する「覚悟」です。
だからこそ、原稿作成の丸投げは厳禁です。
担当者や外部ライターが膝を突き合わせ、「社長、その戦略の根拠は何ですか?」「リスクはどう捉えていますか?」と、本音を引き出すディスカッションの場を必ず設けてください。
このプロセスこそが、経営層自身に自社の戦略を再定義させる、絶好の機会となるのです。
中小企業における「失敗タイプ」と「成功タイプ」
失敗タイプ:担当者丸投げ型
- 経営層が無関心トップ取材ができず、定型文の挨拶になる。
- 各部署が非協力的「多忙」を理由にデータ提出が後回しになる。
- 見栄え重視見た目は良いが、財務戦略の中身が薄い。
成功タイプ:全社プロジェクト型
- キックオフを実施「発行目的(資金・採用)」を全社で共有する。
- トップが語る経営者の「本音」と「熱量」をライターが描く。
- ストーリー重視財務と非財務をつなぐ「独自価値」を示す。
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金融機関に響くストーリー構築から伴走します。
【制作・発信編】一貫性の確保とマルチユース展開
結論:編集担当者が全体の一貫性を管理し、完成後はWeb・印刷・SNSなどマルチチャネルで展開。素材を営業資料や採用サイトへ二次利用することで費用対効果を最大化します。
5〜6ヶ月目は、集めた素材を形にしていく制作フェーズです。
原稿作成、写真撮影、デザインワーク、校正作業が一気に進みます。
編集力で「一貫性」を持たせる
各部門から上がってきた原稿をそのまま掲載すると、用語の不統一やトーン&マナーのバラつきが生じ、読みづらい「つぎはぎ」のレポートになってしまいます。
編集担当者は全体を俯瞰し、文体や論理構成を統一する役割を担います。
また、ポジティブな情報だけでなく、課題やリスク情報についても誠実に記載することで、情報の信頼性(トランスペアレンシー)が高まります。
制作期間中も企業活動は動いています。
進捗を見ながら適宜スケジュールを調整し、可能な限り直近のトピックスや最新の数字を盛り込んで、「鮮度」の高いレポートを目指しましょう。
公開後の「届ける」戦略
完成・校了後は、自社サイトでの公開(PDF等)に加え、プレスリリースやSNSでの配信を積極的に行います。
重要なのは、作ったコンテンツを使い倒すことです。
作成した図版やトップメッセージは、採用サイトや営業資料、株主総会資料などに二次利用(ワンソース・マルチユース)しましょう。
統合報告書の素材を起点として、あらゆるステークホルダーへ一貫したメッセージを届けることで、制作コスト以上の効果を生み出すことができます。
中小企業における現実解:2〜3年サイクルの「進化型会社案内」
結論:無理に上場企業の真似をする必要はありません。「取締役任期に合わせた2〜3年サイクル」での改訂や、財務情報を別紙にする「ハイブリッド形式」こそが、中小企業にとっての最適解です。
ここまで標準的なプロセスを解説しましたが、実務リソースの限られる中堅・中小企業が、毎年これだけの労力とコストをかけて数百ページの報告書を作成するのは、正直なところ非現実的です。
そこで私たちが推奨しているのが、「既存の会社案内・パンフレットに統合報告書の要素を取り入れた『進化型』にし、2〜3年ごとに制作する」という戦略的な運用です。
「ハイブリッド形式」で更新負荷を下げる
毎年作り変えるのは大変ですが、取締役の任期(一般的に2年)に合わせた改訂サイクルなら無理なく続けられるはずです。
冊子の構成を工夫し、情報の「鮮度」と「普遍性」を切り分けることで、更新の手間を劇的に減らすことができます。
- 本体冊子(数年間使用):
企業の理念、ビジネスモデル、強み、トップメッセージなど、経年であまり変化しない「企業の背骨」となる部分は、デザインを作り込み、会社の顔として長く使います。 - 別紙・差込資料(毎年更新):
毎年の決算数値や直近のトピックスなど、すぐに古くなる情報は、ペラ紙やポケットフォルダーへの「差し込み資料」として作成します。
この形式であれば、コストを抑えつつ情報の陳腐化を防ぎ、常に最新の経営状況をステークホルダーへ伝えることが可能です。
採用と融資に効く「武器」に変える
私は銀行員時代、数えきれないほどの会社案内を見てきましたが、単なる業務内容の紹介やメニュー表のようなパンフレットは、融資判断の材料にはなりませんでした。
しかし、そこに「将来のビジョン」と「それを裏付ける財務戦略」が論理的に書かれていれば話は別です。
中小企業にとって、統合報告書の要素を取り入れた資料を持つことは、金融機関への信頼性(クレジット)向上に直結します。
「この会社は、自社の未来をロジカルに説明できる」という事実は、スムーズな資金調達への強力な武器となるのです。
また、人材採用においても圧倒的な差別化要因となります。
「どういう社会課題を解決しようとしているのか」「従業員をどう大切にしているか」が可視化された資料は、給与条件だけでなく「働きがい」を求める優秀な人材を惹きつけます。
まとめ:制作プロセスそのものが「統合思考」を育てる
統合報告書の制作スケジュールと、その工程におけるポイントを解説しました。
- 企画(1-2ヶ月目):ターゲット設定とチーム作りを行い、土台を固める。
- 構成(3-4ヶ月目):経営層を巻き込み、ストーリーのある骨子を作る。
- 制作(5-6ヶ月目):一貫性のある編集を行い、広く発信・活用する。
半年間にわたるこのプロセスは、決して楽なものではありません。
しかし、部門の垣根を超えて「自社の価値とは何か」「将来どうありたいか」を議論し、一冊のレポートにまとめ上げる過程そのものが、組織に「統合思考(Integrated Thinking)」を根付かせる最高の研修となります。
完成した統合報告書は、単なる対外資料ではありません。
それは、従業員が「自分たちの会社はどこへ向かうのか」を理解し、自社に誇りを持つための「教科書」でもあります。
半年間の制作プロセスは決して楽な道のりではありませんが、部門の垣根を超えて「自社の価値」を議論した時間は、組織の見えない資産として必ず残ります。
次回の発行に向けて、まずはカレンダーを確認することから始めましょう。
この記事が、貴社の「統合思考」を育てる第一歩となることを願っています。
まずは「自社の価値」を再発見することから始めませんか?
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