公開日:2025.12.26
更新日:2025.12.26
中小企業経営者必見!SPC活用のメリットと実践事例
経営環境の変化が加速する中、中小企業の資金調達手法にも進化が求められています。従来の銀行融資に加え、近年注目を集めているのが特別目的会社(SPC)を活用したスキームです。
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かつては大企業向けのイメージが強かったSPCですが、現在は法整備が進み、中小企業の戦略的ツールとして浸透しつつあります。実例として、ソフトバンク(スタートアップ拠点整備)や五洋建設(建設プロジェクト)、江崎グリコ(海外展開)などが、SPCを活用してリスク管理と柔軟な資金調達を両立させています。
こうした大手企業の事例からも分かる通り、この手法を導入することで、「資金の流動性確保」や「資産のオフバランス化」、さらに本体事業を守る「リスク遮断」といった高度な経営課題を解決可能です。
本記事では、SPCを活用した資金調達スキームについて、基礎知識から代表的な手法(GK-TK、TMK)の比較、導入手順、リスク管理までを網羅的に解説します。実務に即したポイントを整理しましたので、貴社の財務戦略策定にお役立てください。
この記事の要約
- SPC(特別目的会社)を活用すれば、中小企業でも資産のオフバランス化や大規模な資金調達が可能になる。
- プロジェクトのリスクを本体から切り離す「倒産隔離」により、経営の安全性を高められる。
- 設立には「GK-TK」や「TMK」などのスキームがあり、コストや目的に応じた専門的な選定が必要。
SPC活用スキームの基本構造と重要概念
結論:SPCとは、特定の資産を切り出して資金調達やリスク管理を行う「箱」のこと。親会社からの「倒産隔離」と、資産の「オフバランス化」が最大のメリットです。
SPCスキームとは、特定の事業や資産を切り出すための「箱」としてSPC(Special Purpose Company:特別目的会社)を設立し、そのSPCを通じて資金調達や資産管理を行う仕組みの総称です。
一般的な株式会社は「事業を継続し、拡大すること」を目的としていますが、SPCは「特定の資産を保有し、そこから生まれる収益を投資家に分配すること」のみを目的として設立されます。この特殊な性質により、以下の2つの重要な効果が生まれます。
重要概念①:倒産隔離(Bankruptcy Remoteness)
SPCスキームの核心は「リスクの遮断」にあります。これを専門用語で倒産隔離と呼びます。
通常、親会社が不動産や事業を保有している場合、親会社が倒産すればその資産も債権者に差し押さえられてしまいます。しかし、資産をSPCに売却(譲渡)し、法的に完全に別会社として切り離しておけば、親会社が倒産してもSPC内の資産は影響を受けません。逆に、SPCのプロジェクトが失敗しても、親会社はその責任を負わず、本体の経営は守られます。
この仕組みがあるからこそ、投資家や金融機関は「親会社の信用力」ではなく「プロジェクト(資産)そのものの収益力」を評価して、融資や出資を行ってくれるのです。
- 自社(オリジネーター)不動産や債権などの資産をSPCへ売却。
- 対価の受取資産の対価として現金を受け取り、資金調達を実現。
- SPC(特別目的会社)資産を裏付けに投資家から出資・融資を受ける。
- リスク限定プロジェクトが失敗しても、親会社に返済義務は及ばない。
- 出資・融資親会社ではなく「資産の収益力」を評価して資金を提供。
- 配当受取事業収益から配当や利息を受け取る。
重要概念②:オフバランス化(Off-balance sheet)
もう一つのメリットがオフバランス化です。これは、資産を貸借対照表(バランスシート)から切り離すことを指します。
例えば、本社ビルなどの固定資産をSPCに売却すれば、貸借対照表からその資産が消え、代わりに現金が入ります。これにより、総資産が圧縮される一方で利益が変わらなければ、経営効率の指標であるROA(総資産利益率)が向上します。財務体質がスリムで筋肉質になることで、対外的な評価が高まり、新たな融資や株価にも好影響を与える可能性があります。
代表的なスキームの比較:GK-TKとTMK
結論:中小企業では設立コストが安く柔軟な「合同会社(GK-TK)」が主流ですが、大規模案件や税制優遇を狙う場合は「特定目的会社(TMK)」が適しています。
一口に「SPC」と言っても、その法人形態や法的根拠にはいくつかの種類があります。中小企業の実務で主に使用されるのは、「合同会社+匿名組合(GK-TKスキーム)」と「特定目的会社(TMKスキーム)」の2つです。それぞれの特徴と違いを理解することが、成功への第一歩です。
合同会社+匿名組合(GK-TKスキーム)
現在、最も広く利用されているのがこのスキームです。「会社法」に基づいて設立される「合同会社(GK)」をSPCとし、投資家と「匿名組合(TK)契約」を結んで出資を募ります。
- メリット:設立手続きが会社法準拠であるため比較的シンプルで、設立コストも安く済みます(登録免許税6万円~)。また、組織運営の自由度が高く、柔軟な設計が可能です。
- デメリット:登録免許税の軽減措置などが受けられません。
- 向いているケース:コストを抑えたい場合、スピーディーに組成したい場合、比較的小〜中規模の不動産流動化や太陽光発電プロジェクトなど。
特定目的会社(TMKスキーム)
「資産の流動化に関する法律(SPC法)」という特別法に基づいて設立される法人です。資産流動化のためだけに作られる、より厳格なSPCと言えます。
- メリット:不動産取得税や登録免許税の軽減措置が受けられます。また、一定の要件を満たせば、法人税の課税所得から配当額を損金算入できる(Pay-through:二重課税の回避)という強力な税制メリットがあります。
- デメリット:設立時に内閣総理大臣(金融庁)への届出や「資産流動化計画」の提出が必要で、手続きが非常に煩雑です。設立コストや維持コストもGK-TKより高額になります。
- 向いているケース:大規模な不動産開発、ホテル、商業施設の証券化など、税制メリットがコスト増を上回る規模の案件。
どちらを選ぶべきか?
中小企業が初めてSPCを活用して資金調達や資産整理を行う場合、コストと手間のバランスが良いGK-TKスキームが選ばれるケースが大半です。しかし、物件の規模や将来的なREITへの売却なども視野に入れる場合は、TMKが適していることもあります。ここは税理士や専門コンサルタントによるシミュレーションが不可欠なポイントです。
導入から運用開始までの具体的フロー
結論:基本計画の策定から資金調達・資産譲渡まで、最低でも3ヶ月〜半年程度の準備期間が必要です。法務・税務の専門家との連携が不可欠です。
実際にSPCを立ち上げ、スキームを稼働させるまでの流れを4つのフェーズに分けて解説します。期間は案件によりますが、最短でも2〜3ヶ月、通常は半年程度の準備期間を見込む必要があります。
フェーズ1:基本計画の策定(Planning)
まず、「何のためにSPCを作るのか(資金調達、オフバランス、リスク分離など)」を明確にします。その上で、対象となる資産(不動産、債権、事業など)を選定し、キャッシュフローの試算を行います。この段階で、GK-TKにするかTMKにするかといったスキームの骨子を固めます。
フェーズ2:SPCの設立と契約準備(Incorporation)
スキームが決まったら、SPC(器)を設立します。
GK-TKの場合、定款を作成し法務局で登記を行いますが、ここで重要なのが「一般社団法人」を親会社として噛ませるなどの倒産隔離措置を講じることです(自社が直接100%出資しては、倒産隔離になりません)。
並行して、投資家との出資契約書、資産管理を委託するアセットマネジメント契約書などの法務ドキュメントを作成します。
フェーズ3:資金調達と資産譲渡(Closing)
いよいよ実行段階です。
投資家からの出資(エクイティ)と、銀行からの借入(デット)をSPCに着金させます。資金が整ったら、自社(オリジネーター)からSPCへ資産を売却(譲渡)し、対価として現金を受け取ります。
不動産の場合、ここで所有権移転登記が行われ、名実ともに資産が自社から切り離されます。
フェーズ4:運用とレポーティング(Operation)
資産はSPCに移りましたが、SPC自体には実働部隊がいません。そのため、実際の不動産管理や事業運営は、外部の専門会社(あるいは元の持ち主である自社)に委託されます。
SPCは資産から上がる収益を受け取り、そこから経費と借入利息を払い、残った利益を投資家へ配当します。会計事務所による定期的な監査や、投資家へのレポーティング業務も継続的に発生します。
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導入前に知っておくべきリスクと注意点
SPCは「魔法の杖」ではありません。導入には明確なリスクとコストが伴います。以下の点を十分に理解した上で検討してください。
真の売買(True Sale)と認められるか
形式的に資産をSPCに移しても、実質的に親会社が支配しているとみなされれば、会計上「オフバランス」と認められないリスクがあります(これを「True Sale判定」と言います)。法的に正しく倒産隔離ができているか、監査法人や弁護士による厳格なチェックが必要です。
ランニングコストの発生
SPCはペーパーカンパニーとはいえ、決算申告、税務処理、登記、役員報酬などの維持管理コスト(年間数百万円〜)が発生し続けます。小規模な資産(数千万円程度)では、これらのコストが収益を圧迫し、メリットが出ない可能性があります。一般的には、対象資産が数億円以上でないと採算が合いにくいと言われています。
専門家の関与が必須
契約書一つとっても極めて専門性が高く、社内の法務・経理担当者だけで完結させることは不可能です。信頼できるアドバイザー(弁護士、税理士、フィナンシャルアドバイザー)の選定が、プロジェクトの成否を分けます。
まとめ:次なる成長のための「賢い」資金調達を
SPCを活用したスキームは、単なる「資金繰りのテクニック」ではありません。自社のバランスシートを見つめ直し、持てる資産を最大限に活用して、リスクをコントロールしながら次の成長へ投資するための「高度な経営戦略」です。
「難しそうだ」と敬遠せず、まずは自社の資産(不動産や売掛金など)が流動化の対象になり得るか、あるいは新規事業のリスク管理に使えるか、一度専門家の視点を入れてシミュレーションしてみることをお勧めします。適切なスキーム設計ができれば、中小企業の可能性は大きく広がります。








